第27話 フリーな日

 寮に帰えると寮の廊下に四人掛けのソファーが置かれていた。

 そうかそうか、ついにこの寮も客人用椅子が置かれるくらいの高級施設になったか。

 って前にちゃんなかがこの廊下に客人とそのファンを招き入れて卓球してたしな。


 俺を布団ごと運びだしてカーリングもどきをやっていたこともある。

 まあ、この寮の廊下はなんにでも使える優れものってことだ。

 ハンズ感満載の廊下だ。

 あの店なら覆面パトカーのピーポーだって手に入れられそうだし、白銀の聖杯っぽいトロフィーも売ってるし。


 寮長がすでにソファーに腰をかけていこっていた。 

 俺もとりえず座ってみる。

 スゲーフカフカのソファーで全身が癒される。 


 「なに休んでんだよ? ふたりでゴールデンウィークしてんじゃねーよ!?」


 やつが上機嫌で帰ってきた。

 ちゃんなかはバフっと埃をたててソファーに飛び乗りm我が物顔でふんぞり返えっている。


 「てめーらどんだけレジャーよ!!」


 てめーらって寮長も含まれてるのか? 寮長はまったく相手にしてないけど。

 

 「ここは日本だ。ハワイじゃねーぞ!!」


 ただ座って休憩してるだけの俺らに、ちゃんなかは罵詈雑言を浴びせてきた。


 「なあ、なんで俺ともあろう男がサーフィンしねーか知ってる?」


 ちゃんなかは話のスタイルを百八十度変えてきた。


 「さ~あ。ね~」


 まったりとろけ顔の寮長は優しい。

 本気でリラックスしてる証拠だ。


 「答えは簡単。サメ怖えーからだよ!! 痛烈なシャークアタックされたら終わりだからな~」


 スゲーふつうな答え。

 誰だってサメは怖えーだろ!?

 ついでにウツボもヤベーだろ? あんなのが海パンに入ってきたら本末転倒だ!!

 本末が転倒してしまう。


 「なあ、最近スゲーこと判明したんだよ」


 ちゃんなかがそういうと、ここ最近クスみはじめているビットコインをだした。

 なにかしらの科学変化で表面が酸化してる。

 ソースで洗うとその汚れはきれいに落ちそうだな。


 「このビットコインは歴史に名を刻んだ偉大なるグレコローマンの導きで掘られたといっても過言じゃない。しかも俺はその子孫だ」


 だからグレコローマンは人じゃねーし!!

 おまえはなんの末裔まつえいだよ。

 あっ、がもたなくなったのか。


 「くっくっくっくっ 。先生あのね。今日朝比奈くんが朝からプリンをかっぱかしてました、とてもおもしろかったです」


 ちゃんなかは俺を小学一年生の作文ふうにバカにしてきた。

 いつぞやのプリンとヨーグルトの戦いをまだ根に持ってたのか。


 「寮長って冷蔵庫開けてしゃべりかけるタイプ?」


 ちゃんなかがとうとつに寮長に訊いた。


 「まあ、そんあときもあるかな~」


 「涼介ってテレビに話しかけて終いには突っ込み入れるタイプだべ?」


 「よくわかったな」

 

 話にのってみる。


 「ちゃんなかって勝手に班分け決まってるタイプだろ?  ついでにバスの座席表も?」


 俺は反撃に打ってでる。

 ちゃんなかは尋常じゃないほどに動揺しはじめた。

 図星だったのか?


 「グサッときたね~。俺が勝手に決まってたのは班分けだけだ。バスの席は俺が選ぶ!! いちばんうしろだけは誰にも渡さねー!!」


 「うそくせー?」


 「うっせーな!? いいだろ班くらい。みんな俺を慕って集まってくるんだよ、そして結局俺を取り合いのすえ、俺はどこにも属せずに勝手に班が決まってるんだ。いわゆるひとつの独立国家よ」


 ちゃんなかは気持ちを切り換えて立て直しを図ったみたいだ。


 「結局、あまり者だろ?」


 「ぬおぉぉ、それをいうなぁぁ!!」

 

 「涼介。あんみつとタイアップしたみつ豆作りてーんだけど枝豆ねーか?」


 またゴマカシはじめた、いつぞやの料理を思いだす。


 「みつ豆の豆は枝豆じゃなく小豆だよ」


 寮長さすがは常識人。

 たまにリミッター外れるけど。


 「マ、マジっ!? 俺、小豆。苦手な人だから」


 「そんなんでよくみつ豆を作ろうとしたな?」


 「いや~甘味処かんみどころを開店したくてよ~。このソファーを応用して」


 コゼー(こざかしい 。ちょこざい 。ウザイの最上級)やつめ。

 冷やし中華でさえ出店できないんだから、甘味処もアウトだよ。


 「おまえはいつでも勝手にすぐオープンする? ふつうは前もって開店日くらいはお知らせするぞ」


 「わかった。つぎの店の試作品を作ってくるから待ってろ」



 ちゃんなかは、めずらしく部屋でなにかをこしらえてきた。

 俺と寮長は爪楊枝つまようじを手渡された。


 「よし。食っていいぞ」 


 タコ焼きか? たまにはいいことするな……って……ん?


 「テメェー不渡ふわたりだしやがったなこれを見ろ?」


 俺はほのかに湯気の立っているそれをちゃんなかに見せた。


 「なんだとっ!? 人がせっかく焼いてやったのによ~」


 「うるせーちゃんと見ろ!? タコ焼にタコが入ってなかったらただの“焼き”じゃねーか?」


 「あー、うるせーたった一個タコ入ってなかったくれーでガタガタガタガタ。深夜の冷蔵庫か? じゃあ、もんじゃ焼きに“もんじゃ”入ってんのか? 見せてみろよもんじゃ? もんじゃってなんだよ?  どこに売ってんだよもんじゃ?」


 ちゃんなかは言い訳しながら俺の”焼き”を食べて証拠隠滅しようとしたけど湯気にやられた。


 「ごほっ!!」


 あの口の奥でボフってなる現象ね。

 悪いことはするもんじゃないな。

 そもそもこの寮では【寮長の御誓文ごせいもん】のよって、新規出店は禁じられてるけどな。


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