第9話 援軍到着 2

「はいはーい、じゃあそこに寝かせてー」


 屋島(やしま)は地面に担架を投影し、今にも崩れ落ちそうな真一(しんいち)をその上に寝かせる。


「うが……、だ……れ……」

「だーいじょうぶ、私は屋島。私が来たからにはすーぐに落ち着くから、あーんしんしてお休みなさいっ!」


 簡易スキャン開始。膝立ちとなった屋島は、それまでとは打って変わった平坦な口調と共に、真一の体の上に手を滑らせる。


「簡易スキャン、しゅうりょ――うう?」

「屋島、疑問については後ほど説明します。今はバイタルの安定を」

「……りょーかい!そうね弁ちゃん、じゃあ引き続き周囲の警戒よっろしくーぅ!」


 そう言い、屋島は両袖に手を隠す。そして次に袖から出てきたのは多種多様なフレキシブルアームだ。その先端にはマスク、注射器、センサー類に用途不明な物まで多数ある。


「サービスするよー!」


 号令と共に、カンディルの群れが得物に襲い掛かるような勢いで、全てのフレキシブルアームが真一に向かっていった。





 部屋中に響き渡る笑い声を上げている男女が1組。女は牛若(うしわか)で、男は継信(つぐのぶ)だ。その部屋の逆側では壁に向かって体育座りをしている真一と、それを宥める屋島の姿があった。


「だっからー、悪かったってー、いやーほんと、反省してるよー、

 けどさー、やっぱ異世界人なんて面白――珍しいもの、色々いじりたくなるじゃーん」

「路上で……触手プレイ……いっぱい……もてあそばれた」

「はーはーはー、いやー主殿ご快復なによりでございます!」

「おう大将!面白れぇもん見させてもらったぜ!まぁ俺がやられたら即腹切ってたけどな!」

「ふっざけんなてめぇら!笑ってねぇでとっとと止めやがれ!なんで俺ばっかり羞恥プレイさせられなきゃいけねぇんだ!!」



「そんじゃ改めて自己紹介するぜ。俺は佐藤継信、そんでこっちが屋島だ」


 眼前の男は、胡坐をかき野太い声で簡潔に自己紹介を終える。

 佐藤継信、衛星画像からの映像じゃよく分からなかったが、こうして見ると威風堂々とした大男だ。身長は190cmはあるし、盛り上がった筋肉は虎の様で、全身に気力と熱を漲らせている。しかし、彫の深い人懐っこい笑顔で語りかけてくるおかげで、その威圧感は相殺されて、ガタイのいい気さくな男程度に収まっている。


 その隣で正座を崩して微笑みながらひらひらと手を振っているのは、つい先ほど俺に新なトラウマを植え付けてくれた新敵だ。身長は俺よりやや低く160cm後半程度。目鼻立ちのハッキリした派手なタイプだ。口調や、ころころ変わる表情から弁慶さんより幼く見えるが、アンドロイドの年齢設定なんか知った事ではない、ともかくこいつは敵だ。


 深呼吸して気分転換。あの仕打ちは絶対忘れないが、今は気持ちを切り替えよう、何時までもいじけていても仕方がない。


「俺の名前は佐藤真一。言いたいことは色々あるが、取りあえずは助けてくれてありがとう」





 ウジウジといじけていた小僧が頭を下げる。気を入れなおしていの一番に、礼を返してきやがった。克己復礼それこそ仁なりってか大変だねぇ、忠信の奴と馬が合いそうだ。それにお嬢の話だと勇も備えているらしい。まぁあの有様になるのが分かっていて、それでもなお足を出せると言うんなら、唯の末成りの青瓢箪じゃあるまいが。


「おぅ!いいって事よ大将。それより屋島が悪乗りしちまって悪かったな」

「誰が大将だよ。それよりあんた達……あんた達でいいか?呼び方?」

「おぅ。こっちも好きに呼ぶから、そっちも好きにしてくれ」

「分かった。じゃあ、あんた達が来てくれたおかげで事態はどれだけ改善するんだ?牛若はどうなるんだ?」

「話が早いのはいいことだ大将。だがその前に、屋島の報告を聞いてからだ」

「はーい、さっきはごっめんねー。でもおかげで色々分かったから診断結果を話すわねー」





 屋島さんの説明では、様々な検査を行ったものの、弁慶さんが下した診断を専門家が裏付けをしただけで、結局八正の摘出は不可能と言う結論が出ただけだった。

 また、八正跳展開後の俺の疲労については、過度のストレスによるショック症状を呈したとの診断。投薬により回復しており後遺症も確認されていないが、今後の使用についてはお医者様と相談してからとのこと。


「なるほど、つまり分からないと言うことが分かったと」

「うん、訳わかんない!」


 元気いっぱいに返事をする屋島さん。


「あのー説明を聞いたんですが、一歩も前に進んでないんですが」

「おぅ。そうなっちまったみてぇだな」

「一つ聞きたいんだが、これって絶対回収しなきゃいけないのか?」

「んー。嬢ちゃんの手前デカイ声じゃぁ言えないんだが。結局そいつは兵器として支給されたもんだ。だったら破損や損失もある意味そいつが辿るべき結果ともいえる」


 後ろで、牛若がうんうんとうなずいているが。あんまりそいつに余計な知恵を与えない方がいいと思う。まぁそうか、現場の発言としては当然そう言ったものも出るだろう。


「分かったありがとう。じゃあこれはそれでいいとして、GEN対策と牛若達の帰還は問題ないのか?」


 そう聞くと、継信さんは少し視線を強めて俺を見る。牛若の部下と言っても彼の方が年期は上だ、色々と裏事情も知っているのだろう。八正の価値を知りつつも牛若を安心させるために、あえてああ言ったのかもしれない。


「まぁ。嬢ちゃんの帰還については問題ないが、奴らの対策についてはまだこっちに来たばっかりだからなぁ」


 そう言って、頭をボリボリと掻く。まぁそれもそうだ、先程のを合わせて2体のGENを退治したがそれは応急措置でしかない。しかし、牛若の帰還が可能になったと言うのは良いニュースだった。





【佐藤がマイ ラブリー エンジェルに合わせてくれない】

【佐藤から麗しの君を救出すべき、そうすべき】


 蒸し暑い夏の夜、簡単な夕食を食べた後ゴロゴロとテレビを見ていた私に野島(のじま)君と山本(やまもと)君からLINEが来る。……私にどうしろと。先日押しかけてから3日と経ってないし、彼方の都合もあるだろうに。

 はぁ、とため息を入れてから、佐藤君のアドレスをタップする。


【佐藤君今晩は、馬鹿共がうるさいので、あの牛若――】


 そこまで打ち込んだところで指が止まる、あの2人、牛若と弁慶。あの後、ちょっと気になって自宅で調べてみたが、通り一遍の事しか出てこなかった。しいて言えば牛若丸の女体化はよく見たが、弁慶の女体化は珍しい、と言うどうでもいい事ぐらい。

 女体化、そう女体化だ。女性の偽名として牛若と弁慶は攻めすぎなのではと、他人ごとながら心配してしまう。あの2人は彼らのファンなんだろうか?


 ギャラリーからあの日取った写真を出す。拡散厳禁、軽んじて衆目に晒すべからずと言う条件のもとに、馬鹿共が撮影権を勝ち取ったものだ。まぁ私もそのお零れに預かってしまったのだが……。


 私を中心に3人で並んでいる写真がある。2人ともベクトルは違えどとびっきりの美人だ。優しくて人当たりのいい佐藤君だ、マイナー武道を真面目に行っているのもストイックに見えるらしく、紹介してくれと言う友達もいるが、この写真を見れば皆退散していくだろう、効果覿面の厄除け写真だ。同時に私の公開処刑写真であるので、絶対に見せることは無いが。


 しかし、なぜ佐藤君に……。はぁ、とため息をもう一つ吐き、LINE画面を開きなおす。まったく、あの日からため息が増えてしまってしょうがない。なんだこりゃ、夢見る乙女か私は。


【佐藤君今晩は、馬鹿共がうるさいので、あの2人が空いている時間はありませんか】


 むー、我ながら。可愛げもくそもない事務的なコメントだ――っとしまった、送信してしまった。って送信後すぐさま既読サインが出る。彼もちょうどLINEを弄っていたのだろう。


「あー、まっいいか」


 後悔後に絶たず。覆水盆に返らず。やってしまったことはしょうがない――とおや、彼からの返信が帰ってきた、写真――

 そこには見たことない茶髪美人とのツーショット写真が表示されていた。佐藤君は彼女の豊かな胸の中に埋まり、頬を赤らめていた。





「あ゛ーーーーーー!!!何送信してんだあんたーーーーーー!!!!」


 佐藤様がまた絶叫を上げている。まぁこの建築物は私が手を入れているので、多少暴れた位では問題はないが、牛若様が悪戯に加わりたそうにうずうずしているのは問題だ。屋島には牛若様をあまり刺激しないように注意しておこう。


 屋島の話では、今回の救援部隊として。先着した2人に加え、佐藤忠信様と吉野、そして伊勢義盛様の計5人と言うことだ。忠信様、伊勢様は言うに及ばず、情報処理を得手としている吉野が来てくれるのは何よりありがたい。正直私では対応が追い付かなくなってきている所だった。梶原様と石切を失ったのは大きな損失だが、5人の補充が揃えば余裕をもって対応できる。

 取りあえず、現状もっとも助かるのは佐藤様の事だ。


「おぅ、弁慶(べんけい)。屋島が喧しくてわりぃな」


 台所にいた私に、冷蔵庫を開けながら継信様が語り掛けてきた。


「問題ございません。要塞化処置は完了してございますので、多少の爆撃程度の騒音・衝撃には対応可能でございます」

「はっ、相変わらず働きもんだねぇ。ウチの屋島は遊んでばっかりだと言うのに」

「私は戦闘用なので、柔軟な対応が求められるメンタルケアは不得手でございます。屋島の働きには感謝しているでございます」

「まぁ、適材適所って事か」


 そう言いながら継信様は壁に寄りかかりながら、冷たい麦茶を一飲みする。どうやら暫し腰を落ち着けて会話をする模様だ。


「どうだい、あの大将は」

「牛若様から聴取はおすみなのではございませんか?」

「はっ、唯の暇つぶしの世間話だよ。俺は嬢ちゃん以上に戦働きに特化した戦闘要員だ。平和はいいことだが、暇でしょうがねぇ」

「私は、数値でしか人物評価は測れないのでございますが」

「やけに渋るねぇ、大将はウチの社員ってわけじゃねぇし、俺も人事担当って訳じゃねぇ。唯の暇つぶしだよ」


 継信様はカラリとコップの中の氷を鳴らしながら、私を指さし回答を要求してきた。


「了解でございます。佐藤様の評価ですが、今まで戦場に縁がなかった一般人としても戦力として数えられる人物でございました」

「ほぅ、随分と高評価だな」

「ですが、継信様がご到着されたので、今後は警護対象として取り扱いますでございます」

「そいつは、八正のことかい?」

「肯定でございます。そもそも我々の不手際で、佐藤様を戦力としてカウントしなければならなかった今までが異常でございました。八正を除いた佐藤様の戦力は零に等しいでございます」

「まー、そらしょうがない。こっちの世界の人間は総じてひ弱みてぇだしな」

「肯定でございます」

「となると、屋島が大将のお守をして、残りで前線を張るって事になるかね」

「場合によっては肯定でございます」


 通常ならば、味方戦力とGENのみを対象に八正跳を展開することが可能なのだが。佐藤様は八正そのものでもあるので、否応なしに巻き込んでしまう。


「八正と言えば、前々回か、大将はヤバかったんだってな」

「肯定でございます。ヤバイと言うか心停止していましたでございます。私は同人物が2回も死亡したものを見るのは初めてでございます」

「はっ、俺だって見たことねぇよ。大将初回は胸に大穴で、次は七孔吻血の心停止ってか。なかなか面白い人生送ってるようじゃねぇか」

「面白いかどうかが判断不能でございます」

「けど今回は、ギリギリで耐えたってか」

「屋島の働きもありましたが、目を見張る進歩でございました」

「進歩ねぇ……」

「慣れや耐性と言い換えることも可能でございますが、何か疑問がございますでしょうか」

「疑問を持ってるのは屋島でね。まぁこんな事は初めてなんで分からないことだらけでもしょうがねぇが」


 GENの事と言い、世の中わかんねぇ事ばかりだな。と言い残し継信様は台所を出ていかれた。





 ピンポーンと玄関から呑気なチャイムが鳴る。恐る恐るドアを開けるとそこには氷点下の視線で俺を見る美綴(みつづり)の姿があった。

「やあ、おはよう美綴。今日はいい天気でなによりだ」

「ええ、おはよう佐藤君。それじゃあお邪魔するわよ」


 凍った視線のまま俺の隣をすり抜けて奥に入っていく彼女。


「「おい、お前美綴に何やったんだ」」


 ガヤガヤと俺を糾弾してくる馬鹿2人。ここに来るまでの道中安全ピンの緩んだ手りゅう弾を持ち運ぶような気分だったのだろう、心中察するが全て屋島さんが悪い。

 あの後、美綴についた言い訳はこうだ。屋島さんは、牛若の親父さんの秘書の1人で、休みを利用し牛若の様子を見に来た、と言う設定だ。

今日は継信さんと屋島さんには席を外してもらっている。流石にあの2人が加わると人口密度が高すぎるし、かたぎの人間には濃度が濃すぎる。因みに、場所は隣の部屋。以前から空き部屋だったがいつの間にか弁慶さんが契約をしていた。また、当然の様に、こちらの世界での牛若と弁慶さんの住民票も取得していた、何をどうしたのかは聞かないし知らないが。





「うふふ。まぁ屋島さんはお茶目な女性ですからね。美綴様にはご迷惑をおかけいたしました」

「えっ、いや別に私はそんな」

「まぁありがとうございますね」

「ひゃっ!」

「あらっ、私ったらついはしゃいでしまいました。ごめんなさいね」


 ぶんぶん振った手を、牛若ちゃんにふわりと握られてしまい、ついビックリしてしまった。うぅ、それにしても間近で見るとますます美少女だ。

 今時の子にしては眉が太めだが、それが野暮ったいと言う訳でなく、涼しげな切れ長の目と合わせてシッカリとした芯を感じる。そうかと言って決して冷たい雰囲気ではなく、ころころと変わる表情も相まって、ポメラニアンやパピヨンとかの超小型犬を連想させる。

 こんなお嬢様キャラのきゃぴきゃぴした子は本来苦手なんだが、そんな事お構いなしに魅力がビンビン刺さってくる。いやー参った、私もあの2人の事を馬鹿になんかできないわ。しかし、同性の私でも気を抜いたら魅了されそうなのに、佐藤君はよくあんなにフランクに付き合えるものだ。





 前回の訪問と同じく、くだらない話で盛り上がったり、夏休みの予定だったり、ゲームをしたりして騒がしい時間が流れる。

 帰省の話に絡めて彼女の実家の事に探りを入れてみたが、ふんわりと自然にはぐらかされてしまった。あと、相変わらず牛若ちゃんはゲームが上手く、アクションゲームでは全くかなわなかった。





「それじゃあ、おじゃましました。佐藤君もあまり羽目を外さないように」

「そうだぞテメェ。マイ エンジェル牛若ちゃんに手を出したら承知しねぇぞ」

「ああ弁慶様。貴方とお別れしなければならないとは、この身が引き裂かれる思いです」

「あぁ、まぁ、うん。気を付けてとっとと帰れ」


 佐藤君の家を出て、集合場所だった国道沿いのスーパーまで3人で歩く。途中、天使だ女神だ、わいわい喋っていた2人がふと私に話題を振ってきた。


「ところで美綴。お前さん、あんまりあの2人の事探るのはどうかと思うぞ」

「そーだー、まぁ嫉妬するのは分からんでもないが」

「……だーれが、何に嫉妬してるってんのよ」


 咄嗟に顔を背けてそう言うが、彼らの視線が外れた感はない。うーむ、出来るだけ自然に探りを入れていたつもりだったが、第三者視点では露骨に映ってしまっていたようだ。

しょうがない、嫉妬云々は置いといて、彼女たち2人を疑っているのは確かだ。ここはひとつ彼らの意見も聞いてみよう。


 スーパーに内設されているファーストフード店に2人を促す。最近改築されたと言うこのスーパーは通路を広くとってあり解放感と清潔感がある。ただ内設のファーストフード店は席数が多いとは言えず、密談に向いていないのだが、まぁそれほど込み入った話が出来るほどではないので、気にしなくてもいいだろう。


「だから怪しいでしょうあの2人」


 私は名物のアボカドを使ったハンバーガーを口にしながらそう言う。デミグラスソースがたっぷりとかかったパティに、甘くとろけるアボカド、その上にしっかりとタルタルソースがかかったコッテリこてこてのバーガーだが、日々運動しているので大丈夫、たぶん。


「怪しいとは何のことだ?目にもハイになるあの美しさの事か?」

「まぁ確かに実在を疑う美しさだが、あの手のぬくもりが確かにこの手に残っているからな。これが虚構だと言うのなら、もはやこの手は枯れ枝も同然。今後一切の触感に感動は覚えないぞ?」

「真面目な話」

「「我々は至極まじめだが?」」


 真顔でそろって首を傾げる馬鹿2人。こいつらに相談したのが間違いだったかと思いつつ、睨みつける。


「そう怖い顔をするな、牛若ちゃんに100歩劣るがまぁまぁ美人な顔が台無しだぞ」

「そうそう、弁慶さんに1000歩劣るがそこそこ見られる顔が台無しだ」


 うーん、ぶん殴ろうかこいつ等。


「しかし美人には1つ2つの秘密は付き物だろう。隠し事が全くない人間なんか逆に気味悪いよ」

「まぁそうだ、俺らは暇なマスコミじゃなし。相手の秘密を漁って喜ぶ性癖はないぜ」

「私もそんなつもりはないけど、彼女たちはそれこそ1つ2つしか明かして無いじゃないの」


 そう、これまで判明している事は彼女たちの名前ぐらいなものだ。それ以外は尻尾をにおわせる程度で決して捕まえなさせない。もっともその名前も尻尾も唯のブラフの可能性が大いにある。


「だとして何が問題なんだ、美人に罪はないぜ?」

「いや、俺達を惑わす大きな罪があるな」

「……それよ。美貌を餌にして佐藤君をたぶらかして何かよからぬことを企んでいるんじゃないかってこと」

「んー。よからぬって何すんだよ?」

「……………………どこかの工作員とか」


 私が色々と振り絞って出した答えに大笑いする2人。こうなるって事は分かっていたから言いたくなかったのに……。あぁ自室にサンドバックが欲しい。思う存分ぶん殴りたい


「まぁ一番可能性が高いのはそこらあたりなんだがなぁ」


 わざわざ買わなくても目の前に2本突っ立っているじゃないか、と思い始めた頃。笑い終えた野島がポツリとそう言った。


「んー。そうなんだけど、その他大勢枠のあいつってところがなー」

「それを言っちゃ俺らもだけどよ。将来有望なエリート候補に目をつけるんならもっといい学校の奴をターゲットにするはずだしなぁ」

「実はあいつは未来で大発明をする予定で、監視か護衛のために未来から送り込まれたってのはどうだ?」

「ぎゃははは。そりゃドラえもんかターミネーターのどっちだよ!」


 馬鹿笑いで盛り上がる2人って!


「なによ!あんた達も少しはそう考えてたってこと!」

「まぁちらっとはな。それ以外に、あいつにあんな美少女が寄ってくる理由が思いつかん」

「そうなんだよなー、むしろ工作員云々よりも荒唐無稽なSF話の方が、あんな美人が寄ってくる理由としちゃ現実感がある」


 いやどんな評価よ、そりゃ超絶イケメンって訳じゃないけど。優しくて誠実な所を買って陰ながら噂になる程度はあるんだけど、って彼の事は今はいい。それよりもこの馬鹿2人が少しでも彼女達の事を疑っていることに安堵した。頼りないけど味方になってくれる人がいるのは心強い。


「じゃあ、彼女たちの正体を探るのに協力してくれない」


 すっかりと馴染んで自然な空気を醸し出している、彼と彼女たちの関係に楔を打ち込むのは多少気が引けるが、これも彼の為を思ってだ。


「ん?なんでそんな事せなならんのだ?」

「おう、さっきも言った通り。俺には相手の秘密をあばき出して喜ぶ性癖はないぜ」

「なんでよ!貴方たちもあの2人を怪しいって思ってんでしょ!」

「へいへい、声がデカいぜ美綴」

「そうそう、虎穴に入らずんば虎子を得ずって言っても。我が子を取られる母虎の気持ちを無視するもんじゃないぜ」


 でも、と反論しようとした時だ、お店の外から建物全体を揺るがすような激しい衝撃音が響いてきた。

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