41話 散歩
出発の朝。
砂浜では多くの人々が集まっていた。
「……」
人だかりから少し離れた場所で、ギャルの元カレは静かに見守っている。
これから大海原へと出発する者達に声を掛ける者、筏へと荷物を運ぶのを手伝う者。
そう言った者達に混ざることができなかった。
「……焦りすぎだ」
急ピッチで作った筏はやはり頼りない。
古代人でももっとまともな物を造ったろう。
それに天気も悪い。
空を覆うような灰色の雲は分厚く、この先の天候は不安としかいいようがない。
しかし海は不思議と穏やかで日差しは厚い雲に遮られている。
嵐の前の静けさ。
遠く、もう帰ることもままならないほどに遠く。
荒れ狂う海に飲み込まれる彼らの光景が頭に過る。
「無理矢理にでも、止めるべきだった……」
今からでも止めることは出来るだろうか?
彼らに期待を寄せる人々。 その彼らを前に、やっぱり辞めますとは言いずらい。
すでに海に向かう者達の退路は断たれているのかもしれない。
多くの者達が見守る中。 皆の期待を背負った五人の男性を乗せた筏は静かな海へと旅立つ。
何もかもが足りない状況。 しかしその筏には期待だけは大きく乗り掛かっていた。
◇◆◇
狼煙台の置かれた小高い山の上。
コバルトブルーの海へと向かう筏は、プールに浮かぶ虫のように見える。
「なんてことを……」
機長は呟いた。
魂の抜けたような呟き、顔からは表情が抜け落ちている。
「やはり、離れたのは間違いだったか……?」
自分がいる事で彼らの神経を逆撫でしてしまう。
距離を置くという大人の対応は、目を疑う光景を作り出してしまった。
砂浜に残っていれば彼らにあんな真似は絶対にさせなかった。
自責の念に駆られる機長の体から力が抜ける。 肉体的疲労も、精神的疲労も限界を超えてしまったようだ。
「機長!?」
「あぁ、大丈夫だよ……」
機長は年齢では恐らく一番上だ。
よろけた機長にCAの一人が慌てて近寄る。
日に日に顔色の悪くなっていく機長を心配していた美人CAだ。
「一度砂浜に戻るべきだろう」
「無茶ですよ! 少し休んでください。 お願いですから……」
この十日間に蓄積された疲労の色は濃い。
慣れない環境、敵意ある者達からのクレーム処理に、弱った者達から頼られ頼みを聞くのもまた疲労は大きく溜まっていく。
また砂浜までの道を行くのは過酷で危険だ。
「機長に倒れられたら、どうしていいか分かりません……」
それは指示をする者がいなくなるからなのか、それとも機長だからなのか。
美人CAに腕を掴まれた機長は、立ち尽くしたまま筏の行方を追っていた。
◇◆◇
失敗した。
明らかに俺の失敗だ。
焦ってしまったのだ、もっと慎重に、狡猾に攻めるべきだった。
「いや、まだチャンスはあるはず……」
未知の領域への挑戦。
「必ず掴んで、いや、揉んで見せる!!」
お嬢様のおっぱいは逃げたりしないのだ。
「何を揉むんですか、山ピー?」
「っ!!」
沢の上流を目指し上っていると、唐突に後ろから声を掛けられた。
驚き振り返ると、ピンク服の女――亜理紗が近づいて来た。
初日森に入った時も声を掛けてきたダークブランのハーフアップの髪型の天然系娘。
身長は少し低く、けれども発達した胸はフリフリのブラウスを押し上げている。
俺に気配を気づかせず背後を取るとは、こやつなかなかやりおる。
「ふぅ……。 脅かすなよ。 ついてきたのか?」
「違いますよぉ。 そこでカエルさんを追いかけてたんですよぉ。 でも山ピーが見えたので隠れて観察してたんです!」
それはついてきてた、と言うのではないか?
そこと指さした場所はカエルやエビのいた泉の方だろう。
そう言えば、小魚やエビを捕獲するための簡単な罠を仕掛けて置いたな。
「どこに行こうとしてたんですか、山ピー? 機長さんにも危ないから一人では動くなーって叱られてませんでしたか??」
おっぱいが当たる。
近い! 急接近する亜理紗。 甘い色香が漂ってくる。
「ん、ちょっと探索にな」
「わぁっ! 探検ですかぁ〜。 いいですねぇ。 亜理紗も行きたいです!!」
めんどくせぇ。
テンションの高い天然系ほど厄介なモノはない。
そんな上目遣いでおっぱいを当てて目をキラキラさせても無駄だ。
「ダメ、ですか……?」
シュン……、とするな!
「濡れるぞ?」
「大丈夫ですぅ!」
亜理紗は元気よく返事をする。
仕方ないか……。
塩の借りもあるしな。 あれにはだいぶ助けられた。
少なくなってきたから後で作らないとな。
「しょうがないな」
「やったです! ウサギさんいるといいなぁ〜〜」
ウサギか。 あまり肉に栄養は無いんだよな。 美味いけど。
「いると、いいな」
「はいです!」
上流の行く手を遮っていた十メートルほどの滝。
そこをチャレンジしてみようかと思ってたのだが、やはり迂回ルートを探すか。
背後を取るのは上手でも、ボルダリングは無理は難しいだろう。
「デートですぅ〜〜」
はしゃぐと転ぶぞ?
沢の側の石は滑るから危ない。
「デート……?」
数歩先に行くと立ち止まりこちらを振り返る亜理紗。
キラキラと瞳を輝かせ、柔らかな髪は揺れる。
たしかに、男女二人での散歩デートのようだが。
「犬の散歩みたいだな」
犬の散歩は嫌いじゃないけど。
曇り空。
雨が降ったらすぐに中止にしよう。
「んん! 冷たいですっ……」
案の定、尻もちをついた亜理紗のお尻は濡れていた。
「やっぱり、ピンクか」
透けた下着はピンク色っぽかった。
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