パトロール

 日中だというのに、シャッターが降りている店が目立つ商店街をわんわんヒーローの三人は歩いていた。


「ようやっと暖かくなりまして、結構なことで」

「だから付いてきたのか」

「勿論、寒いのは嫌ですから」


 いつもは車の中か、仕事場で待機しているデットが今回は帯同していた。


「……まあ、場所が場所ですからね、人は多いほうが良いでしょう」

「お前の図体は目立つから、今回は留守番させておこうと思ったんだが」

「まあまあ、デットさんがやる気になるのは珍しいですから、嫌味はそこら辺で」

「……クレイン君も、随分と馴染んでいるようで」


 涙を拭う仕草をするデット。


「けど、変装もしなくていいんですか」

「なぜ? 我々はただパトロールしているだけだ。やましい事など何一つとしてない」

「この人、基本的に諜報とか向いてないですから」


 デットの言葉は周知だが、今回ばかりは必要性を感じているクレインである。


「犯行時刻は夜ばかり、それに今日は現場を見に行くだけだ。問題ない」

「けれど万が一ってことも」

「それならそれで、蹴散らすだけだ」


 処置なし。テッドが首をふるのを見てクレインも諦めるのだった。


「――それにしても、珍しいですよね。イービルが“被害者”だなんて」

「そうでもないさ」

「縄張り争いで殺されるイービルも、時々いますからね」


 こればかりは場数が違う二人、クレインよりも事情には詳しい。


「でも相手が……」

「だから調べるんだろう」


 切り返すオブレイナだがそう、件の被害者、その数は十二。イービルが蔓延るセンチナル、その中で更に密度の高い港区、それであっても二週間でこの数は異常の一言だった。それも殺されたのは一人のヒーローを除いては全てがイービル。派閥争いとも思えぬ無軌道さは、危険な匂いを漂わす。


「まさかあの断罪――」

「違う」


 言いかけた言葉を遮り、オブレイナが断言する。


「これはあいつの仕業じゃない」

「そう、ですか」


 オブレイナと断罪人の関係、少なくともオブレイナ側には因縁があるようだが、それは単なる怒りとは違う、そう朧気に感じるクレイン。話している間に商店街は終わりに近づき、建物が減る代わりに、バラックが増えてきた。


「ここか」

「これは……」


失職者が増えている港区に、政府が暫定的に用意したものだが、とても衛生的とはいえない状況、ゴミが散乱しバラックの間には生ゴミが打ち捨てられ、トイレは仮設、その様子にクレインは眉をひそめる。粗末なコンクリート製バラックの中には人の気配があるものの、空気は淀み、歩くものからも気力を感じない。


「成る程、イービルも増えるわけだ」

「政府のお偉いさんも、親切なものですなあ」


 デットも皮肉る姿には不快感を隠していない。


「この辺りを支配しているとかいうやつらはなんと言ったか」

「『クラッシュ』、ですが最近は『フェア』に押され気味だとか」

「物騒なもんで」


 調べたのはクレインだが、二人も知っているはずである。他人事なデットなど、知識には聡い。


「つまりイービルはわんさか居るわけだ」

「嬉しそうですなあ」


 慣れたように、けれども諦め気味に言うデット。


「狩り甲斐があるじゃないか」

「……時々この人が、イービルより危険なのではと、思ったり」


 小さく漏らしたクレインの言葉だが、オブレイナと目が合ったことにより、彼女が地獄耳なのだとまた一つ覚えたのであった。

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