星降るかふぇ

Arenn

星降るかふぇ


  18才になったら、コーヒーを飲もうと決めていた。


私は地方からのいわゆる上り組のひとりで、東京に強い憧れがあった。

なにげなく買った雑誌に載っていたカフェを見て、ここに行きたいと一目惚れしたのだった。

 * Cafe & gallery LUPOPO *

 三軒茶屋の薄暗い地下の駅から地上へと階段を昇るとまぶしい光。見上げると首都高の古いコンクリートが天井のようにのびて、地上も車と人の往来が目まぐるしい。その雑踏を掻き分けて、コンビニの後ろの路地を斜に進んだ。

 表の通りとは違って、女学生の歩く姿が多い。学校の通り道なのだな、と思いながら少し進んで十字路を右に曲がった。

 静かな住宅街の中をぼうっと歩いているとレストランやケーキ屋など小さな個人の店も多い。

 そしてついに、店を見つけた。

 外装は絵本にでてくるような、森のなかの家のような佇まい。素朴な白壁に窓が5つ。物語がはじまりを告げる扉の、年季の入った黒い金属のドアノブに手をかけた。

 扉をあけるのに、すこしためらっていたら、足元に小さなイスの置物があり、その上にかわいらしく乗った黒板に「Open」の文字。思わずほほえましくなり、ぐっと扉を開けた。

 店の中は木でつくられた大小それぞれの棚がぎっしりと飾られている。棚の中にはたくさんの雑貨が展示されている。それらは穏やかなやわらかい光に包まれていた。

 奥のカウンターより、ニット帽姿の男性が顔を覗かせ「いらっしゃいませ」と、にこやかに迎え入れてくれた。

 平日の昼過ぎだからか、たまたまカフェエリアには先客はおらず、どこでも好きな机を選べた。私はアンティークのような小さなステンドグラス窓の下のカウンター席へ腰かけた。

 そのカラフルな溢れる色をうっとりと見つめた。

 男性よりメニュ-を受け取り、しばし悩む。ホットサンド、マグロ丼、ジャージャー麺、そしてデザートにはチーズケーキとチョコブラウニー。おいしそうなものがたくさん。

 悩んだ末に、ジャージャー麺とコーヒーを注文した。それが終わると、立ち上がり雑貨エリアに足を運んだ。棚のなかはそれぞれに違うようで、アクセサリーやぬいぐるみ、ステーショナリー、イラスト、陶器まである。すべて手作りの作品ということで、棚の中は小さな宝石箱のようだ。ずっと見ていても飽きない楽しい空間。

 店の奥の厨房から、トン、トン、トンと野菜を刻む包丁の音が聞こえてくる。手作りの作品と手作りの食事。とてもあたたかい気持ちになってくる。

 しばらくして席にもどり、またステンドグラスをぼんやり見つめていた。その窓のまわりはくすんだ灰色の壁になっていて、天井下には横長の窓がある。そこには店のミニチュアが飾られていて、ほんわかした景色だ。

 しかし、先程まで晴れていたのに段々空が暗くなってきた。にわかに雨が降りだしたようだ。バラバラと雨が打ち付ける音がしてきた。

 外とカフェが切り離されたようだった。ぼんやりと丸型電球の明かりが揺れる。

 ほどなくしてジャージャー麺とコーヒーが運ばれてきた。つやつやとしたキュウリとその下の乳白色の麺がおいしそうだ。

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