うつ イン、ザ  ラディヲ

八幡西県研究室

第1回 【花園】ラジオ

ウ)「なあ塩くん。本当にこの石段の先に花園があるんだろうな? 体力の限界なんだが……」


塩)「う、うん。それにしても長いね。辿り着く前にうずらちゃんが倒れそうで俺はヒヤヒヤしているよ」


ウ)「花のある場所は苦手だ。虫が寄る」


塩)「花といえば、百円ショップに造花コーナーがあったんだよ。うずらちゃん知ってた?」


ウ)「へえ。花って需要あるんだ」


塩)「そりゃあ花って可愛いから。可愛いものは期間限定であれど人気を獲得できるんだよ」


ウ)「それはつまり、期間が過ぎれば見向きされないのか」


塩)「でも、造花はどうだろうね。朽ちないから」


ウ)「というか、買う人っているのかな? 造花って腐らないから困るよね」


塩)「そう? 腐らないから、生花よりマシだよ。造花は安いし世話しなくていいし虫も寄ってこないし」


ウ)「虫が来ないのは素晴らしい」


塩)「あと枯れないからずっと美しいまま部屋に飾れるよ」


ウ)「待て。枯れないのは、デメリットではないか?」


塩)「そう?」


ウ)「捨てられるタイミングは買った人の都合ということになる。枯れて捨てられるほうが、花はまだ納得がいく」


塩)「む。飽きがくることを考えていなかった」


ウ)「どうせ捨てるなら、最初から手にしなければいいのに」


塩)「あ、わかった。花アレルギーの人のために造花は存在しているんだ。だって世の中では、花を贈ることはかけがけのないことなんだから」


ウ)「造花にも花言葉は有効なのかな?」


塩)「花言葉は……どうだろう? 花は花。意味や言葉って、あとから人間様が勝手につけたものだろ」


ウ)「塩くんは言霊を知っている? 生きた花じゃないと言葉に魂が宿らないよ」


塩)「言いたいことがあるのなら本人に直接言えばいいのに」


ウ)「簡単にいかないから物に意味を付けて、贈り物で示すんだよ」


塩)「メンドクセーな」


ウ)「これから行う作業と比べたら楽だよ」



カ)「おーい、二人ともー、こっちだよー」


塩)「カナモリだ」


ウ)「ほう、ここがカラフルな地獄か」





   【 うずらウツと『丹代(タシロ)塩』の『花園』ラジオ 】



ウ)「こんにちは」


塩)「こんにちは」


カ)「こんにちは。二人とも、お手伝いに来てくれてありがとう」


ウ)「ヘルプメールが届いたから来ただけだ。それで具体的な内容を説明してよ」


カ)「ラジオのお便りで、ある相談を持ち掛けられたんだ。ニセ庭師が花園の生態系を乱しているんだって」


塩)「ニセ庭師?」


カ)「この花園を見てよ。花がいっぱいでしょ? じつは、ほとんどが造花なんだ」


塩)「どおりで綺麗なわけだ」


カ)「造花にすり替えた犯人をここではニセ庭師と呼ぶね。造花を無理やり花壇に詰め込まれたせいで、もともと植えられていた花が居場所を失ってお寺に保護されているんだ」


ウ)「我々は何をすればいんだ?」


カ)「造花を回収するよ。ニセモノは環境局で再利用されて、銃火器となって活躍してくれるよ」


塩)「ああ、居場所を間違えただけで、害のない厄介者が危険物となってしまうのか」


カ)「世の役に立ってくたばるなんてステキじゃないか。さあ、造花回収にいそしむのはカナモリと」


ウ)「うずらウツと」


塩)「丹代塩だ」


全)「よろしくお願いします」











ウ)「大変だ! この花壇の花が全てバラに見える!」


塩)「問題ないよ。そこにはバラしか植えられていない」


ウ)「青一色で気持ち悪い」


塩)「青色のバラなんて見当たらないぞ」


ウ)「明暗や彩度は異なるが、どれも青色だ。どうしちまったんだよ塩くん」


塩)「え、俺?」


ウ)「さっき、指を切っただろう? 強烈に赤い血を見たせいで色彩感覚が狂ったんだよ」


塩)「俺が疑われているの? そんなバカな……。カナモリ! ちょっと来て!」


カ)「はーい。どうしたの?」


塩)「この花壇に植えられている花って、何色?」


カ)「寒色系」


ウ)「よし」


塩)「くそう」


カ)「梅雨じゃないのにアジサイが咲いているのか。綺麗だね」


ウ)「アジサイなんてあるか?」


塩)「だから、赤いバラしか植えられてないから……って、なんで意見が分かれるんだよ」


ウ)「ねえ、悪者を決めつけるように、誰が間違っているのか探るのは止めよう」


カ)「そういえば、呪いのアジサイを引っこ抜いたら呪われるから気を付けて」


ウ)「呪われたらどうなるんだ?」


カ)「目に映るすべての花が青く見える。最終的には全ての花がアジサイに見える」


塩)「カナモリお前……末期症状でてるぞ」


カ)「でも大丈夫! 呪いを解く方法は知っているからね。花壇の下に眠っているアジサイ姫に青サバをお供えすればいいんだよ」


ウ)「そうか、ならカナモリは急いでお供えしてこい。いいか、すぐに帰ってこい。それまではワタシと塩くんで頑張るから」


塩)「ねえ、うずらちゃんも呪われていなかった?」


ウ)「花の色がなんだろうと、ワタシの生活に支障はない」


塩)「アジサイ姫があらわれても平気?」


ウ)「全然」


カ)「あ、噂をすればなんとやら」


ウ)「ヒギャアア! お化けコワヒぃぃ!」


塩)「落ち着けよ、うずらちゃん。目をつぶってやり過ごすんだ」


カ)「人員が減ったら作業の効率が悪くなるだろ! おのれ怪異め」


塩)「ハッ! カナモリが太ったイワシで、肌も髪も青い幼女に殴りかかった! 一回、二回、三回、はいノックダウン!」


カ)「もう大丈夫だよ、うずらちゃん。うずらちゃんを、アジサイを枯らした犯人にしたてあげた酷い友達はいなくなったよ」


塩)「違うよカナモリ。あれはアジサイ姫だよ」


カ)「よりによって、うずらちゃんをいじめていた子と外見がそっくりだったとは……」


塩)「似ているのならうずらちゃんが発狂なさっても仕方がないや。おーい、うずらちゃーんー


ウ)「うう、芋虫なんて食えない……」


塩)「まずい! フラッシュバックしておられる」


カ)「うずらちゃーん! 戻ってきてー!」









ウ)「……ん? もう夜? 二人はワタシを起こさずに帰ったのかな」


庭)「おや、お嬢さん……夜はお化けの時間です。お家へ帰りなさい」


ウ)「な、誰だ? お化けさんか?」


庭)「違う。僕はニセ庭師……しまった言っちゃった」


ウ)「聞いちゃった。それで、ニセ庭師さんは何をしているのですか?」


庭)「誰もいない時間帯に、この造花を花壇に植えているんだよ。あ、言っちゃった」


ウ)「やめてください。結局我々が造花を回収するんですよ」


庭)「それでも僕はやめないよ」


ウ)「無駄なのに、どうしてですか?」


庭)「あれは僕が小学生の頃だ」


ウ)「説明してくださるのですね」


庭)「聞いてくれ。夏休みに学校の花の水やりを忘れて花を枯らしてしまったことがあったんだ。たかが花だと思ったんだ。だけど同じクラスの女子を泣かせてしまってな」


ウ)「ふーん」


庭)「その時気づいたんだ。枯れないために花壇を造花で埋めれば誰も傷つかないし、あの子は泣かないって」


ウ)「でも、それではつまらない……」


庭)「つまらない? 何故?」


ウ)「いつまでも変わらないと、やがて飽きられてしまいます。理不尽ですよね。変わらないことを望んでいるのに、変わらないと変わらないで、悪なのですから」


庭)「そんな」


ウ)「造花は花束にしたり、花瓶に飾った方がいいですよ。一人で夢を実現するには、この花壇は広すぎます」


庭)「……」


ウ)「回収された花園の造花は、結局人を悲しませてしまいますよ」


庭)「え? そうなの?」


ウ)「お互いに大変な思いをするのだから、無駄なことはやめましょう」













塩)「うずらちゃん。起きて。また夜更かししたでしょ?」


ウ)「ん? 塩くん……」


塩)「準備ができたよ。早く行こう」


ウ)「準備? 全ての造花を回収したのか?」


塩)「何の話? これから花園でラジオをするんでしょ」


ウ)「そうなのか? 言われてみれば、そうだったな」


塩)「夏の昼間にやるなんて、カナモリさんは頭がいかれているよ」


ウ)「あれ? じゃあ造花の回収はどうなったんだ?」


塩)「造花? 百円ショップで売っていたよ」


ウ)「そうじゃなくて花園に……あれ? なんだっけ。思い出せない」


塩)「どうしたの? へんな夢でも見てたんじゃない? それともタイムワープでもして、未来を変えたりして」


ウ)「ちょっと塩くん、さらりとSF発言かまさないでよ」


カ)「うずらちゃーん。塩くーん。早くおいでー」


塩)「はーい。今行きまーす」


ウ)「そうか……。全部、だったのか」

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