第二十八話:『ヒロインの実家の隣の佐藤さんの家の前の土(火山灰土)』

「ご飯できましたよー」

『ご苦労様です。おや、これは干物ですか』

「灰干しのキビナゴですね、友人が以前送ってくれた時のことを思い出して取り寄せてみました」

※火山灰を使った干物の製造法、手間が掛かる分美味しくなります。桜島灰干しとかオススメ。

『ふむ……干物だというのに硬さを感じず、ふっくらとした感じですね』

「塩焼き以外にも天ぷらも用意してあります。こちらには同じく灰干しのタカエビ、頭は殻ごと食べられますよ」

『海老煎餅みたいな触感ですね』

「そしてこちらが灰干しのホタテ、殻ごと食べられますよ」

『流石に騙されませんよ』

「バレましたか」

『仮に騙されて女神の歯が欠けたら、十年は貴方を貝の餌にするところです』

「ホタテ焼きますけど醤油だけにしますか」

『バターも少々お願いします。しかし穀物無しでこういった物を食べているとお酒が欲しくなりますね』

「女神様の肉体年齢的にお酒はNGなのでは」

『実年齢では問題ありません。清酒――は貴方のセンスが気になるので無難にジンジャーハイボールでも頂きましょうかね』

「チョイスが適度な酒飲みって感じですね。一応アルコールは控えめに作りますね」

『酔いたいわけではないのでそれで構いません。そういえば貴方はこの世界でお酒を飲んだことが一度もないですよね』

「酒臭いって女神様に言われたくないので」

『磯臭いや土臭い、最近では苔臭いとも言った記憶がありますが』

「一人で飲んでも美味しく飲めない性でして。地球にいた頃はご近所さんと飲みに行ったんですがね」

『時折で良いなら私も付き合いますがね』

「発作が起こると怖いので」

※女神様は十の倍数話は人寂しさでデレます。今何話だっけかな。

『アレは酒とは関係ないのです。私の酒癖は基本穏やかですよ』

「酔ってやらかしたこととかあるのですか」

『特には、ああでも一度酒に酔った勢いで他の神様と口論になった記憶がありますね。その後の記憶は無いのですが』

「その後その神様半殺しになったとかそんなオチですかね」

『さあ、行方不明になったまま音信不通です。お代わりお願いします』

「これは油断できないな」

『この程度の量ではほろ酔いも難しいですよ。女神のアルコール分解速度は常人のそれとは違いますから……とと、そろそろ異世界の時間ですね』

「それでは目安箱を取り出してっと。がさむまさらーっと」

『そろそろツッコミを入れるべきかで悩んでいるのですが、毎回お題を引く時の変な掛け声は一体何ですか』

「こうすると良いお題が引けそうな気がしまして、よっち~さんより『ヒロインの実家の隣の佐藤さんの家の前の土(火山灰土)』」

『因果を感じるお題ですね』

「前振りがお題に関連する可能性も出てきましたね。しかし二度目の土生活ですか、慣れたものです」

※第四話『ダンジョン手前の土』参照

『土に慣れている方は中々少ないでしょうね。しかし以前のダンジョン手前の土と比べると些か空気になりそうな立ち位置ですね』

「やだなぁ、なるのは土であって空気じゃないですよ」

『私にそんなつまらない説明をさせようというのであれば動脈に空気を流し込みますが』

「それは中々に危ない」

『普通の人間なら死ぬので中々で済まさないように』

「設定はこんな感じでっと……それでは行ってきます。あまり飲みすぎちゃ駄目ですよ、見た目的にアウトなのですから」

『多少言い方が気になりますが、一人で飲むときくらいは節度を守りますとも』



『ううむ、女神とあろうものが二日酔いになるとは……やはり鬼神と飲むのは控えた方が良いですね』

「ただいま戻りました。おや顔色が優れないような」

『二日酔いに近いバッドステータス状態です』

「それ二日酔いでは」

『バッドステータスです。他の神に掛けられたのです』

「ちなみに治し方は」

『普通の二日酔いと同じです』

「ではスープでも作りましょうか、干したらのスープで良いですかね」

『二日酔いに効くなら大丈夫だと思いますのでよろしくお願いします』

「では作りながら報告を済ませましょうか」

『ヒロインの実家の隣の佐藤さんの家の前の土(火山灰土)でしたっけ』

「ファンタジー世界、勇者の生まれた場所が海に浮かぶ島というスタートですね。活火山の麓に作られた集落でヒロインであるアメイリルも勇者の家の傍に住んでいました」

『活火山地帯が勇者のスタート地点というのはやや珍しい感じですね』

※パプ〇くんとかありますよね。

「勇者と同い年、密かな恋心を持つアメイリルでしたが天真爛漫な勇者からすれば時折会話する程度の関係。進展することなく、ついに集落に魔王の軍勢が現れます」

『故郷が滅ぼされるパターンではないと思いたいのですが、大丈夫だったのでしょうか』

「はい、そこは勇者が眠れる勇者の力を呼び覚まし、魔王の幹部を撃退して事なきを得ました」

『なるほど、そしてそこから勇者の冒険が始まると』

「はい、勇者はまず周辺の島を救おうと自分の集落を拠点とし頻繁に戻ってくるスタンスを取りました」

『そのヒロインはパーティには加わらない感じなのでしょうか』

「はい、アメイリルは多少の魔法は使えますが戦闘要員としてはちょっと難しいかなといった感じです。ですが簡易的な治療魔法が使えたため、勇者が帰って来る度に治療魔法を使いに勇者の家に顔を出していました」

『まるで通い妻ですね』

「集落全体が勇者の活躍を望んでおり色々サポートをしていましたからね。ですがやはりアメイリルは勇者から一定以上の好感度を得られず意気消沈して自宅に戻ります。ついでに道中で俺を踏んでいきます」

『帰り道に佐藤さんの家の前を通りかかりましたか』

「いつもため息をついていたアメイリルに俺は文句を言います、『いつもため息ばかりつきながら人様を踏みやがって。俺を踏むのを義務でやっているみたいで切ないじゃないか』と」

『人様ではないですね土くれ、火山灰ですね』

「アメイリルは最初こそ驚きましたが、やがて俺が言語を話せる土であることを理解し打ち解けます」

『土相手に打ち解けるヒロインというのも妙な話ですね』

「勇者への片想いを一人で抱えるより、吐き出す機会があった方が彼女にも有益でしたからね。悩みを聞いているうちにすっかりというやつですよ」

『傍目から見れば地面に座り込んで語り掛ける危険な女性になりますがね』

「女心が分からずとも、男心はお手の物。俺はアメイリルの恋の行方を応援することになります」

『貴方の恋愛プロデュースって成功率は高くてもロクな流れにならないので心配ですね』

「最初に行ったのは勇者のアメイリルへの印象を強くする行為です。アメイリルと勇者の接点と言えばやはり治療魔法での治療行為、そこに目を付けました」

『以前のジョッキの様に依存性を持たせたりはしてないでしょうね』

※第二十七話:『魔王に恋する魔法少女(男)が毎日プロテインを飲むのに使用しているジョッキ』参照

「いえ、流石に治療魔法依存にしてしまうと他の者達の目もありますからね」

『それはなにより』

「なので俺が勇者を遠距離攻撃で瀕死に追い込みました」

『なんてことを』

「いやー超遠距離からの狙撃魔法は中々機会が無かったので成功するか半々でしたが上手くいきましたよ」

『よもや勇者も自分の集落にある土が遠距離魔法を放ってくるとは予想しなかったでしょうね』

「あと一度村長に命中しましたね」

『半々上手くいってないじゃないですか』

「より多くの治療魔法を必要となった勇者はアメイリルと長時間共にいることになり、僅かながらに距離が近寄りましたがそれでも結果としては微妙でした」

『勇者が瀕死にまでなったのに微妙で片付けられるのも悲しい話ですね』

「アメイリルは片想いが強すぎて勇者とまともに話せなかったのです。だから次に行ったのは人と話す特訓です。俺が土を勇者の形に変形させ、対話の特訓を行いました」

『土で模られた勇者の形で改善出来るのでしょうか』

「最初は緊張していましたからね、結構効果はありましたよ」

『土相手にも緊張していた程なら確かに特訓の価値はあったでしょうね』

「問題があったとすれば、佐藤さんがその光景を毎日目撃していてアメイリルのことを全力で心配していたということでしょうか」

『自分の家の前で勇者の形の土相手に話しかける特訓をしている女性を見たら心配もするでしょうね』

「しかし佐藤さんはアメイリルの一途な思いを知って、影ながらに応援していてくれました」

『良い人ですね佐藤さん』

「大分慣れてきたようなので今度は実践編、再び俺が勇者を瀕死に追い込み二人の時間を捻出します」

『勇者をサクっと瀕死に追い込まないであげてください』

「大丈夫ですよ、勇者は死の淵に立たされれば立たされるほど強くなりますから」

『それでも実家のある集落の土から瀕死にさせられることを知ったら集落から出ていきかねない気がしますが』

「特訓の効果もあってかアメイリルは勇者とそれなりに話せるようになり、勇者は多少ながらもアメイリルを意識するようになります」

『瀕死になった甲斐はあったのでしょうか、そこは気になりますが』

「この進展に影から見守っていた佐藤さんもガッツポーズ」

『佐藤さん暇そうですね』

「話せるようになったのであればいよいよ勇者攻略に向けての作戦会議です。俺は様々なプランを近場の壁に記し、アメイリルと打ち合わせを進めていきます」

『人の家の塀に落書きしていませんかね、それ』

「これを目撃した佐藤さんは油性ペンで書かれていないか心配していましたね」

『そこは自分の家の塀を心配したのですね、ちなみに油性だったのですか』

「いえ炎魔法による焼き入れです」

『スプレーで落書きをする不良少年もドン引きする所業ですね』

「勿論情報を残したままではバレる恐れがありますからね、最後はしっかりと周辺ごと焼き尽くして証拠隠滅しましたよ」

『佐藤さんの家の塀が全焼したと言うことですか、家は無事だと良いのですが』

「これには佐藤さん、塀がアンティークっぽくなったと大喜び」

『物は捉えようですね』

「何気ない会話から自分のことを女性と意識しているのかという質問を投げかけ、勇者に意識してもらおう作戦を決行します。ちなみに内容ですが」

『内容のままの作戦でしょうに』

「先ずは俺が遠距離魔法で勇者を狙撃、瀕死に追い込みます」

『そのうちうっかりで仕留めそうで心配になりますね』

「その後勇者とアメイリルを二人きりに、邪魔者は狙撃で排除します」

『物騒過ぎる、そこは結界でも張れば良いでしょうに』

「生憎攻撃魔法のオプションくらいしか持ち込まなかったので」

『土ならば土らしい感じにしたらどうですか』

「そこはぬかりありません、アメイリルには俺で作った灰干しの干物をお土産に持たせていましたから」

『申し訳程度の灰要素、ちなみに他に灰要素って出てきますか』

「火山が噴火し、灰が降り注ぐ毎に俺の体積が増えていきます」

『ただの物理的結果ですね』

「俺の考えた作戦は効果てきめんで勇者はアメイリルを女性と意識し始め、時折顔を赤くするようになります」

『多少は上手くいったようですね』

「赤みが足りないときは遠距離魔法で狙撃しましたね」

『それ血』

「しかしここで問題が発生」

『また佐藤さん関連でしょうか』

「いえ、佐藤さんは佐藤さんで親知らずで悩んでいましたが別の話題です」

『佐藤さんの親知らずの話は要らない気がしますね』

「なんと勇者を狙撃している存在がいることを村人達が突き止めたのです」

『散々村内で被害に遭っていればもう少し早く察しても良いでしょうに』

「さらには狙撃が行われたとされる場所まで特定され、俺の上に大勢の村人達が集まります。そして一人の村人が言ったのです、勇者が狙撃された時、この場にアメイリルがいたと言うことを」

『狙撃ポイントに控えさせていたんですか』

「世界を救おうと奮闘させている勇者を奇襲していたのではとアメイリルは村人達に問い詰められます。ここで俺の存在を打ち明ければ良かったのですが、アメイリルは俺を庇って罪を認めようとして来たのです」

『少なからず勇者との関係を築く切掛けを与えてくれた恩人ですからね。自分も噛んでいたというのも理由でしょうか』

「しかしここでアメイリルが罪に問われてしまえば勇者との関係も終わってしまう」

『マッチポンプですからね、良い印象は無くなるでしょう』

「だから俺は思わず叫びます、『俺がやったんだ』と」

『殊勝な態度ですね。まあ流石にヒロインを見捨てて生き延びたところでろくな人生にはなりませんからね』

「ガツンと言ってやりましたよ、佐藤さんの声色で」

『ろくでなし過ぎる』

※この作品の主人公の特技に声色を変えるというのがあります、第5話参照。

「佐藤さんは最初驚きましたが、アメイリルのことを考えた後、自分がやったと認めます」

『良い人過ぎませんかね佐藤さん』

「しかしここで佐藤さんが罪に問われてしまえば佐藤さんの家が無くなり俺の人生が終わってしまう」

『理由がろくでなし度を上げていますね』

「だから俺は思わず叫びます、『俺がやったんだ』と」

『誰の声色ですか』

「村長です」

『責任転嫁の先が酷い』

「村長は最初驚きましたが、問い詰められたことで罪を認めます」

『冤罪生みすぎじゃないですかね』

「いえ、実は村長は魔王の幹部が村長に成り代わっていたのです」

『唐突な展開ですね』

「魔王の幹部曰く、ちょうど村長が家で安静にしており成り代わるのにちょうど良かったと」

『誰かさんの遠距離魔法で狙撃されていましたからね』

「こうして俺の行動は全て魔王の幹部がやったものとなり、その後なんやかんやで勇者は魔王の幹部を倒します」

『魔王の幹部も関係のない罪も一緒に償わされて悲惨でしたね。ひょっとして紅鮭関連でしょうか』

「いえ、奴の名前はレフトチョッパーと言う名前でした」

『そちらでしたか』

※第三話、第九話辺りで登場。

「中々の強さでしたが散々死の淵から蘇っていた勇者の強さは中々でしたからね」

『よもやラブコメの為に死の淵を繰り返していた結果が異世界転生者を倒すことに繋がるとは予想できなかったでしょうね』

「その後アメイリルは順調にヒロインとして勇者と結ばれ、勇者も散々強くなったおかげで危なげなく世界を救います」

『その辺がメインの話でしょうに、端折りましたね』

「流石に外に冒険に出る勇者の話は出来ませんからね」

『それもそうですね』

「世界を平和にした後、勇者とアメイリルは結婚式を挙げます」

『まあハッピーエンドと言ったところでしょうか』

「仲人は佐藤さん」

『罪を被ってまで二人を応援していましたからね』

「そしてこの日、同時に俺の最期の日となります」

『おや、妙なタイミングですね』

「アメイリルが投げたブーケをついキャッチしてしまい、存在が村全土にばれてしまいました」

『佐藤さんの家の前でブーケトスしていたのですか』

「式場は佐藤さんの家でしたから」

『随分と信頼されているようで』

「突如地面から現れた腕に魔物が現れたと周囲はパニック、勇者は即座に攻撃魔法を打ち込みます」

『今までの仕返しになる形ですね、因果応報とはよく言ったもの』

「しかしそれを庇う佐藤さん」

『おっと予想外』

「魔法の直撃を受け瀕死になった佐藤さんにアメイリルが駆け寄り言います。『どうして貴方が』と」

『本当ですよ、散々迷惑を掛けられた相手だというのに』

「佐藤さんは言います。『うちの家の前の土に妙な自我があることは知っている。私が応援したかった君たちの恋路を上手く行くように取り計らった存在であることも。私に出来ることなんてこの身を張ることくらいなのだ』と。そして息絶えました」

『それでも土を庇おうとは』

「流石にそこまでされちゃあ俺としても寝覚めが悪い、自らの命を渡す蘇生魔法を使用して佐藤さんを復活させます。『もう俺の役目は終わった、アメイリルにはこれからを見守る人が必要だ。佐藤さん、それは貴方にこそ相応しい』と」

『ろくでなしだった土が最後の最後で良いことを言いましたね』

「『俺の死体は火葬して、海に撒いてくれ』と最後の言葉を残して俺は命を失いました」

『もともと火山灰でしょうに』

「佐藤さんとアメイリルはその言葉に従って周囲の火山灰を海に撒きました」

『家の前が落とし穴状態になってませんかねそれ』

「そんなわけで帰ってきました。スープどうぞ」

『いただきます。……ふぅ、落ち着く味ですね。頭痛が取れます』

「ちなみにお土産でキャッチしたブーケなのですが」

『造花で作られていますね、中々見ない花ですし飾ってしまいましょうか』

「ではどうぞ」

『何故投げ渡すのです』

「特に意味はありません」

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