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懐かしい声がした。
どこで聞いたのか、いつ聞いたのか、もう思い出すことができない。
ただ懐かしいような――ひどく焦がれたような、そんな気がする。
「――イ」
最初は何を言われたのかがわからなかった。
「レイ!!」
やがてそれが、わたしの名前だと思いだした。
もうとっくに消えてしまったと思ったのに。
わたしの名前を呼ぶ声が近付いてくる。懐かしい声がすぐ傍にある。
懐かしい、優しい、あたたかい、そうだ、ひとりだけ――たったひとりだけ、わたしを名前で呼んでくれた人。
「それ」でも「シスター」でも「聖女様」でもなく、蔑むでなく崇めるでもない、ただひとりの女として扱ってくれた人。
「お前が憎むべきは俺だろうがバカが」
視界はとうに無かった。手足の感覚も無かった。胸を焼く苦しみだけがすべてだったわたしを、灼熱の泥の底から救いだしてくれた人。
「憎んで――など」
果たして声が出たのかどうかわからない。ただ、伝えなくてはいけない。伝えなくては終われない。
「お会い……しとう、……ございました」
視力が残っていればよかった。記憶の中の笑顔はあまりにも遠い。
昏く混濁する視界の中で、それでも笑う気配が確かにあった。
「ああ、俺もだ」
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