第27話 お披露目会

 龍巳たち異世界人三人とアルフォードたち王族三人が話し合ってから一週間が経ち、ついに貴族たちへのお披露目会が開催される日になった。

 すでに貴族たちはパーティー会場である大広間に集まり、異世界人が来るのを待っていた。その中には龍巳たちが召喚された当日にも謁見の間に来ていた貴族の姿もあり、その者たちは勇者である宗太と美奈を賛辞するが龍巳のことは『勇者の成り損ない』だの『役立たず』だのと誹謗していた。


 それをスキル『聴力強化』によって聞いていたアルセリアが苦い顔をする。

 彼女も美奈と同じように龍巳から『魔力操作』スキルのアシスト効果を聞かされたのだが、まず魔力操作スキルを会得した辺りからそれまで王女の技術として持っていたものが次々にスキルに昇華されていった。今使っている『聴力強化』もその一つで、王女としてパーティーに出ることの多かったアルセリアはそこで貴族たちが交わす会話から有益な情報を得ようと常に心がけてきたのだが、いつの間にか会話を複数同時に聞いたり、小声でも何となく会話を推測できるようになったりしていた。それがスキルに昇華された結果がこの『聴力強化』なのだ。

 他にも王女としての技能から生まれた、いわゆる『王女スキル』まだあるのだが、それはひとまず置いておいて今アルセリアがいるのは大広間のドアの外だ。

 そこにはアルフォードも含めて以前話し合いを行った六人全員が待機していた。

 これからアルフォードを先頭に六人で入場する予定なのだが、アルセリアの表情が暗いままなので未だに入れていないのだ。


「なあセリアよ、そろそろ気持ちを切り替えてはくれないか?これでは入るに入れないのだが......」

「大丈夫です、お父様。行きましょう」


そういうアルセリアだが、依然としてその表情は暗いままだ。

 すると、そこへ龍巳が声をかける。


「セリア、気にしなくていいよ。貴族たちの声が聞こえたんだろ?これは、それをもう言わせないための茶番だ。滑稽だと笑っていればいいのさ」


龍巳のあまりにもいつも通りな顔に気づいたアルセリアは、呆気にとられたすぐ後に笑みを取り戻す。


「はい!」


 アルセリアの声に張りが戻ったことを確認したアルフォードが、自分以外の五人に声をかける。


「よし、それでは行こうか。くれぐれも段取り通りに頼むぞ?」


アルフォードの言葉に全員が頷き、アルフォードが扉の前の衛兵に合図を送ると扉が少しずつ開き始める。


 扉が開き始め、六人の姿が見えると貴族の話し声が止んで六人にそれぞれの感情をこめた視線を向ける。

 アルフォードやアルセリア、ジュールには王族への配慮を込めたさりげない視線(全員が視線の出所には気づいていたが)。勇者二人には期待を込めた視線を送り、案の定龍巳には憎々しげな視線を送っていた。

 そして全員が部屋に入ると扉は閉まり、アルフォードが威厳を持った声で貴族たちに向けて話し始める。


「皆、よくぞ集まってくれた。今回の召集は前もって伝えた通り、改めて召喚に成功したことの報せとその異世界人たちの紹介だ。今日はそのまま料理を振る舞い、この三人との親睦を深めてもらう」


 元々は料理を振る舞う予定などなかったのだが、『模擬戦を貴族たちの希望により行った』という形に持っていくためにこれを入れたのだった。


「この者が”武の勇者”ソウタ・カヤマ。彼女が”知の勇者”ミナ・イシキで、彼がタツミ・ヤサカだ。」


この紹介の仕方も予定通りで、「勇者」の部分を強調することで逆に龍巳のことを印象づけるのが狙いだ。

 それから三人それぞれの訓練を担当するトッマーソ、ソフィア、オリバー、ライリーの紹介をして、ビュッフェ形式で料理を食べながらの親睦会に入った。


 現在、龍巳と宗太は二人で料理を皿に盛り付けながら話をしている。


「ここまでは予定通りだな」

「まあ、そうだな。あとは龍巳が貴族に絡まれて、そこに王のおっさんが割り込めばほぼ任務達成だな」


 この後の予定を確認したところで、二人とも料理を盛り付け終わったので二手に別れる。このまま一緒にいると話しかけられることが少なくなるだろうという判断だった。

 別れた直後から宗太には多くの貴族が群がり、食べるのを邪魔しないようにしながらも巧みに話を転がしていく。

 それを遠目に見た龍巳は、


(腐っても貴族ってことかな)


などとどうでもいいことを思いつつ料理を口に運ぶ。そんな龍巳の周りには貴族たちが寄ることもなく、今のところは美味しい料理を食べているだけであった。


(このまま何もなかったら予定が狂うけど、大丈夫か?)


そんなことを心配しつつも、まだ始まったばかりだと自分を納得させて食事を続ける。この親睦会は一時間ほどを予定しており、それまでに絡まれればいいのだからと呑気に構えているのだった。


 それから四十分後。


(やっべぇ、完全に見向きもされねぇ......)

 

龍巳は未だに一人で黙々と食事を取っていた。

 これまでに話しかけられた数は見事にゼロ。このままでは計画が破綻してしまうと焦り始めた頃、少し会場が騒がしくなっているのに気づく。

 その騒ぎの中心を見ると......


(あれは......美奈とセリアか?なんでお前らが絡まれてんだよ)


宗太に助けに行ってもらおうかとそちらを見るが、今なお宗太の周りには貴族が群がっていて、機嫌を害さないように抜け出すのは宗太には不可能だと察した。


(はぁ......仕方ないか)


 覚悟を決めた龍巳は、二人の方へと向かう。実は宗太の方を見に来たときには無意識に体は二人がいる方に向いていたのだが、本人はそれに気づいていない。


 一方で騒動の中心の美奈とアルセリアは、一人の若い貴族に絡まれていた。


「ちょっと、私はあなたに用はないの!」

「私もです。一度離れてくださいませんか?」


二人はその若い男を遠ざけようとするが、その男は離れようとしない。

 その男、ユーゴ・チャンブルはここ数年で武勲を立て、一気に侯爵にまでなった猛者であった。爵位としてはその上に公爵もあるのだが、それは王族の親類しか与えられないものなのでアルフォードたちの他に王族のいないこの場では、最も爵位の高い貴族と言える。

 彼は短期間で成り上がったことで自分に絶大な自信を抱いており、こんな勘違いを抱いていた。


(俺ならこの国の姫とだって釣り合う!勇者もだ!)


この勘違いが招いた結果は、アルセリアと美奈への同時のであった。

 当然二人はにべもなく断ったのだが、未だに勘違いの続いているユーゴは二人から離れようとはせずにしつこく付きまとっているのだった。


「なぜですか!なぜ私の求婚を拒むのです!?まさか、すでに婚約でもされているのですか!?」

「「い、いません!」」


ユーゴの言葉に、二人は大きな声で否定するがその顔には朱が差し込んでいた。必然とも言えるが、その際に浮かんだ顔は二人とも同じであった。


「ならなぜ......「そこまでです」」


 ユーゴの言葉に被せて制止の言葉をかけたのは、龍巳であった。


「貴様は......ああ、『成り損ない』か。この場になんのようだ」


『成り損ない』の部分にアルセリアと美奈の眉がピクッと動くが、二人ともなんとかこらえて沈黙を続ける。

 ユーゴの言葉に龍巳が返す。


「いえ、どうやら二人とも本当に嫌そうなので、止めに入ろうかと」


龍巳の言葉に今までのアルセリアと美奈の態度でフラストレーションが溜まっていたユーゴが爆発する。


「な、なんと無礼な!俺を侯爵と知っての態度か!」

「いえ、存じません」


 ユーゴが怒り心頭になっても変わらない龍巳の態度は、さらに彼の怒りに油を注ぐ結果となりユーゴがこんなことを言い出した。


「もう許せん!貴様、勇者になれなかったただの異世界人のくせに、なぜ騎士団と魔法師団の副団長がついているそうじゃないか!完っ全に人材の無駄遣いだ!皆の意思を代弁して、私が直々に引導を渡してくれる!」


 ここで龍巳は、やっちまったかもしれないと初めて思った。が、すでに後の祭りで、事態は最初の計画とはずいぶんと違う方向に進もうとしていた。


「決闘だ!」


 ユーゴのその言葉で、宗太との模擬戦の予定が決闘に変わったのだった。

 


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