第7話『ファーストステージ』その6


 アルストロメリアの演奏は終了し、気が付くと――ARガジェットにはプログラムがインストールされていた。


 どうやら、アイテムの入手条件はクリアできたらしい。その一方で、彼女には納得がいかない部分がある。


「クリアはできたと思うけど――それが全力と言われると――」


 彼女のスコアは、先ほどの曲よりも大きく下回っていた。クリア出来たことには変わりない。


 理論値スコアを最初に叩きだしておいて、期待をした割には、と言う反応なのだろうか? ネット上では、彼女の実力を疑問視する声があった。


 それに加えて――ファンタジートランスその物も炎上の危機を迎える兆候があったのである。


「このアイテムは――」


 ガジェットにインストールされたアイコンをクリックすると、バリアと表示された。


 リズムゲームでバリアと言うのも、と思ったが、リズムゲームにはゲージと言う概念のある機種もある。


 効果に関しては『一定のダメージを無効化』と書かれているが、どちらの意味なのかは分からない。


 何故かと言うと、ファンタジートランスにはリズムゲームパート以外にも用意されている物があったからだ。


 補足解説には『リズムゲームパート』と明言されている。つまり、そう言う事だろう。


 アルストロメリアは、アイテムの置かれていたエリアからは離脱し――再び矢印の指示に従ってステージを進み続ける。


 走って進む事も出来るだろうが、何か罠がある可能性もあって慎重になっていた。そうでもないと、この先が不利になる可能性が高いのである。



 アルストロメリアの懸念は的中しており、マップを移動するパートが存在していたのだ。


 矢印の段階で何か怪しいとは思っていたのだが、案の定である。既に、移動パートで敵の攻撃を受けて倒されたプレイヤーもいるようで――。


【まさか、前作のバトルパートが簡略化したのか?】


【マップは移動だけと思ったら、こういう事か。マニュアルには、そう言う記述がないように思えたが――】


【こういう余計な部分は、もう少し考慮すればよかったと思う】


【それでは、単純にゲームセンターのリズムゲームをプレイした方がマシと言う話になる】


【ARゲームだからこその疑似体験――それが必要だからこそ、あのシステムを導入しているのではないのか?】


 ネット上では、様々な意見が飛んでいる。ARゲームとしてリズムゲームのジャンルを広める為に必要な事――それが、間違っているのではないか?


 単純に楽曲を演奏するだけがリズムゲームではない。遠くのプレイヤーとのマッチング、ライバルプレイヤーとの切磋琢磨、SNSでの交流――様々な物があるだろう。


 だからこそ、運営はARゲームで可能な限りの事を行おうとしているのかもしれない。



 その一方で、アルストロメリアの動きを偵察していた人物がいた。


『あれがアルストロメリアか――』


 彼女のプレイ動画を視聴し、別のエリアへ向かおうとも考えていたのは重装甲のARアーマーを装着した人物である。右腕のARガジェットは、ある意味でも特徴のある形状をしているが――特徴的なのは、そこではない。


「あれが今回のアガートラームか――」


 常連プレイヤーとしてネット上でも有名な人物、アガートラーム。本名やハンドルネームも不明で、唯一の名前が分かる部分が――ARガジェットのアガートラームと読める英語表記。


 それもハンドルネームを刻印しているものかどうかも――判断出来ないだろう。それ程に謎が多い。


「しかし、あの人物は本物かどうか――試す必要があるかもしれない」


 特別ルームでコーヒーを飲みつつ、カトレアが映像を確かめている。アガートラームにはチートキラーと言う別名が存在し、それはネット上でも周知の事実だ。


 ネットで目立つ為に使う様な名前ではないのは、この名前の持つ意味を考えれば明白だろう。それを知らない訳では――ないはず。


「あの人物は――?」


 モニターを見ていたカトレアは、ある人物を発見した。その人物は、アガートラームにも似たようなアーマーを装備している人物――ランスロットだった。


「そう言う事か――ファンタジートランスにも特定炎上勢力の手が回り始めている。そう言いたいのか――アルテミシア」


 アルテミシアとは、このゲームでのラスボスを意味している。それは、会議でも決まった事。


 しかし、カトレアは思わず口に出してしまった。あの見覚えのあるアーマーを発見して。

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