4.暗い暗い世界




 私の世界は生まれた時から真っ暗だった。


 暗い 暗い 世界


 ママは私の頭を撫でてよく言う。


「もう少し、もう少しだからね。」


 私は生まれた時からずっと真っ暗だったから怖い気持ちはなかった。

 だけどママやパパはそうじゃなかったようで。



 私をこの暗闇から連れ出そうとしていた。

 だからママは、よく私に暗闇から出た後の話をよくした。


 その隣りでパパはきっと泣いていた。



 私は1人きりの中で、色々と考える。

 この暗闇が無くなったらどんなに楽しいだろうか。

 時々聞こえてくる、きっと私と同じぐらいの子達の声。


 みんな楽しそう。

 みんな幸せそう。


 それをたまたま近くにいたママに言うと、ママは私の頭を撫でる。


「ごめんね、ごめんね。ママのせいでごめんね。」


 ぽたぽたと私の顔が濡れる。

 ママが泣いているんだ。


 分かっているけれど、私じゃママの涙を拭えない。


「ごめんなさい。ママ。」


 謝るとママはもっと泣いた。

 パパがママを連れていくまで、私は何も出来ないでいた。





「やっとやっと!!」


 ある日、私の所に慌てて来たママは力強く私を抱きしめた。

 力が強くて苦しい。

 私は手を伸ばしてママの肩のあたりを叩く。


「く、苦しいよ。」


 そう言うとママはぱっと私から離れる。


「ごめんなさい!ちょっと興奮しちゃって……大丈夫?」


 ママは私の体をペタペタと触った。


「うん、大丈夫。それでどうしたの?」


「あのね、やっとあなたは自由になるのよ!」


 その後ママは楽しそうに色々と話してくれたけど、私には何が何だか難しくてよく分からなかった。

 それでもこの暗闇から出られるというのは理解した。


 それからパパとママはとても忙しそうだった。

 知らない人達とたくさんのお話をして、何かを決めていた。

 私はその近くで、ぬいぐるみとずっと遊んでいだ。



 そして、ついに私が暗闇から出られる日が訪れた。

 パパとママは私の手をそれぞれ握る。

 どこかで知らない人がパパ、ママ、そして私に話しかけた。


「準備はよろしいですか?」


 パパとママは返事をする。

 私はとりあえずうなずいた。本当は未だによく分かっていないけど、その事を言っても皆を困らせるだけだと思った。






 そして私に光が戻った。

 隣りでパパとママは喜んでいる。

 周りにいる人達も喜んでいる。






 でも私は





 光の強さが






 周りの騒がしさが





 まぶしい



 うるさい



 まぶしい



 うるさい



 まぶしい



 うるさい








 気持ち悪い




 気持ち悪い




 気持ち悪い





 気持ち悪い!!







 私はパパもママも他の人達も押しのけて走った。

 その場から逃げた。


 後ろでパパとママの叫び声が聞こえる。

 それでも私は止まらない。


 どこへ行くかは決まっている。

 今までずっと私のいた場所。



 暗い暗い、私だけの場所。






 私はすぐに目当てのものを見つけた。


 そしてそのまま……








 私はまた暗闇の世界にこもる。




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