第28話氷の魔道士
俺はこの状況がかなり不利であることを感じていた。
黒髪の男はかなりの強さであることは間違いなかった。しかし、周りにいる魔道士もA級でしかも、20人くらいいる。
こっちが例えS級魔道士2人だとしても、数の多さには敵わないものがある。俺の選択肢は一つに限られていた。
「アスカ!逃げるぞ。」
「あれ〜、少し頑張らなきゃとか言って気がするんですけど。」
「俺が頑張る?戯言を…。」
「強がりは良いわ。私もこの状況はまずいと思ってるのよね。あなたに賛成だわ!」
俺とアスカは敵を背にして、猛スピードで走り出した。逃げる際、俺は巨霧を使い、相手を欺いた。
地下街は一方通行ではなく、何本も道が分かれていたので、隠れやすかった。
俺は急に走り出したので、かなりの疲れを感じた。元々帰宅部で体力がある方ではない。そのため、短距離走でも、かなりきつい。
そして、俺は立ち止まった。
「龍真、逃げるのは良いけど、逃げてばかりじゃ時期に捕まるわ。どうするの?」
「狙いは分散させるのが狙いだ。少人数であったら、勝算はある。でも、大人数で来られたらひとたまりもない。」
俺は一つ気になることがあった。それはミリナの動向だ。アスカを守りたいならば、俺の怪我の状況を見ても、援軍を出すはずだ。後、基本時にギャンブル狂のウィリアムがすんなり人に従うはずがない…。
その時、爆発音が地下街に響いた。俺たちの目の前には10人程度の魔導士が現れた。
なんも対策も立てないまま、無駄な時間を過ごしてしまった…。
「お前の魔法で、あいつら一掃できるか?」
「魔法が暴走しない限り…。」
「分かった。じゃあ魔法を打て」
アスカは目をつぶり、魔法陣を自身の前に展開させた。相手の魔道士はそんなの御構い無しにアスカに向けて、巨大な火球を撃った。
「火属性魔法 鬼火」
魔法陣からは、紫がかった炎が現れ、巨大な火球を飲み込み、大きさを倍増させ、相手の魔道士を襲った。
相手からは悲鳴が聞こえ、今の攻撃で、8割型は地面に倒れていた。
「暴走しなかった!」
アスカは嬉しそうな顔をして、俺を見てきた。
しかし、アスカの溢れ出る魔力を調整し、魔法陣に注ぐのはかなり至難の技であった。
俺は、額に滲む汗を拭った。
「俺が調整しなかったら、目の前で爆発していたがな。」
「誰も倒してない、あんたに文句を言われたくないわ。」
「そりゃ、大したもんだな。敵を倒して…。」
俺たちの間には一瞬ピリピリとした空気が漂ったが、それは次の瞬間消え去った。
外壁が急に凍り始め、地下街には冷気が漂った。
目の前には銀髪のショートヘアの少女が立っていた。
「私は、ルーチェ・クリスタル。よろしく…。」
ルーチェは、無表情でどこを見ているのかわからなかった。異質な人間であることは間違いなかった。
「私は、団長からあなた達を生け捕りにしろって命令されてるから、今から生け捕りにするわ。」
「何言ってるか、分かってるの?あなた。私達はS級で、貴方はA級よ。」
「うん。でも、氷の妖精が私ならあなた達に勝てるって、言ってるの。」
「話にならないわ。」
「ああ、話にならないのは確かなんだが…。なんか、俺の危険センサーが作動しているだよな。」
その瞬間、俺たちが立っていた地面は急に凍りつき始め、足が凍っていった。
呪文を言わずに、魔法が発動した!?
俺は、すぐさま自分の周りに魔力を流し込み、氷にかかっている魔力をゼロにし、凍りつくのを止めた。
アスカは地面に火属性魔法を放ち、俺と同じく軽々と抜け出した。
「あなた、単極魔道士ね。」
「うん?」
ルーチェは、首を傾げてこちらを見ていた。実際俺も分からなかった。
「単極魔道士は、普通の魔道士は基本的に複数の属性の魔法を使えるわ。でも、単極魔道士は単一属性魔法しか使えない代わりに、呪文を唱えなくても、自分の意思で魔法を操れる。
この子の場合は自由に氷を張り巡らせることが出来る。」
あたりはますます冷気が漂い、俺の体は凍えていった。つまり、ルーチェはAランクの中でも、Sランクに近いと言える。
つまり、もっとめんどくさくなったってことだ。
「俺たちを生け捕りにするのは無理だぞ、ルーチェ。
」
「無理じゃない。無理じゃないって、妖精さんがいってるもん。」
その瞬間、アスカは通路に沢山の魔法を展開させた。
「火属性魔法 灼熱」
氷は一瞬のうちにして溶け、水と化した。
そして、冷気も消え、あたりは生暖かい空気が流れた。
「氷が溶けちゃった…。溶けちゃった…。」
その瞬間、壁や床や天井から、何本もの氷の刃が俺たちめがけて現れた。
俺はとっさに防御魔法を使い、俺とアスカを包んだ。
今の一撃は防いだものの、少し遅れていれば串刺しであった。
「危ないな。」
ルーチェという人間があまりにも俺には理解できなかった。
思考が全く読めない…。どうしたものか。
「火属性魔法 炎刃」
アスカは炎の刃をルーチェにめがけて飛ばした。
勢は凄まじく、かなりの速さであった。
しかし、瞬く間にルーチェの氷壁に防がれた。
「また、氷が溶けちゃた…。」
ルーチェは変わらない無表情な顔を浮かべながら、俺たちの目を見た。そして、一言いった。
「つまらない…。」
その瞬間、あたりは一瞬で凍りつき、俺とアスカも氷に閉じ込められ、身動きが取れなくなった。
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