第5話 奴隷の少女

俺は、後ろを振り返らず歩いたが道を忘れたのでその場に立ち尽くしていた。


「まさか、家の場所忘れたの?」


「俺が忘れたとでも・・・。忘れたよ、さっぱりな。」


「そうだと思った。私に任せて。」


そういうと、エルゼの手には星型の魔方陣が浮かび上がった。


「頭の中で、家の場所を思い浮かべて。」


俺は、いわれるままにツルで覆われているケールの酒場を思い浮かべた。


「無属性魔法 サーチ」


そういって、エルゼは俺の頭に手を乗せた。俺の頭の中の記憶を読み取るかのように青いわっかが、俺の頭の上か下までをスライドした。


「場所はわかったはよ!ついてきて。」


自分で来た道を忘れ挙句の果てに他人に頼ることになった。なんて情けない。

俺はそんな感情を思いながらエルゼの後を歩いた。


辺りは街灯がつき暗くなっていた。まだ、商店街は賑やかであった。


「少し寄り道してもいい?」


「別に構わないが・・・。」


そして、エルゼは坂道を上り、浮遊島の中でもかなり標高の高いところまで俺を連れてきた。そこは周りを見渡せるようになっていて、町の景色を一望できた。

街は光で彩られとても鮮やかな色彩を見せていた。


「ここ綺麗だよね。この島に来たのは最近だけどこの風景が気に入ってるんだ。」


「綺麗だともうぞ。俺もこの風景はなんか好きだ。そんなことより早く帰りたいのだが・・・。」


「興ざめしちゃうな~。」


そういって、エルゼは振り向き笑顔を見せた。その笑顔はどこか悲しげであった。

俺はここである大事なことを思い出した。


「お前に魔法教えてもらってないのだが・・・。」


「あーそうだった。またあとでね。」


後という言葉に何か引っかかりを覚えたが、俺は時間も遅くなってきたのも考慮して、しぶしぶ了承した。


そして、暗い路地に入っていった。その時遠くから鎖の音がした。俺たちが歩いていくにつれ鎖の音はでかくなった。そこには鎖を首に着けられた少女が二人の大人たちによって売買されていた。


「あれは何だ?」


「奴隷の人身売買だよ・・・。」


「見過ごしていいのか?」


「見過ごすも何もないわ。法律で禁じられているわけでもないし。」


俺はこの世界の不条理を垣間見た。おびえている少女の傍らを通る階級が高い人間、そんな自分がなぜか無性に腹が立った。この世界がどうであれ、間違っている。

少女の顔をよく見ると、俺の妹の顔にそっくりであった。

だから、なぜか見過ごせなかった。


「おいお前、その娘おびえているじゃねーか。離せよ!。」


「何言ってるの!龍真。」


「俺の取引を邪魔しないでもらいたい。」


俺の周りのは黒い魔力が渦巻いていた。


「こいつなんかやべーぞ。どうする?」


「二度と口をきけないくらいぼこぼこにすれば大丈夫だろ。俺たちこれでも魔力ランクはBだ。」


そして、二人の大人も魔力を高め始めた。俺の手には魔方陣が浮かび上がっていた。


「闇属性魔法 闇夜の幻影・・・。」


俺の魔方陣からは黒い煙みたいのが現れ男たちはなすすべなく、黒い煙に包まれた。

二人の男は一瞬悲鳴を上げ、眠りについた。


「無詠唱魔法にこの魔力・・・。しかもタリスマンもなしで。」


俺の周りをまとっていた黒い魔力もどこかへ消え、俺は少女の鎖を外した。

少女は最初はおびえていたものの、笑顔を見せ、


「ありがとう・・・」


と小さな声で言った。俺は衝動的に自分の妹に似ている少女を助けたものの後先のことを考えていなかった。


「その子どうするの?」


「考えてなかった・・・。」


「あなたも後先顧みず行動するのね。」


「俺も驚いた。なぜか分からないが・・・。」


そして俺は少女を連れケールの酒場へと入っていった。エルゼはなぜか外で待っていた。不気味な笑みを浮かべて・・・。


俺は少女のことを説明すると、ケールは表情を変え、急に怒鳴りだした。


「早くそんな子捨ててきなさい。出来ないのなら、あなたもここを出なさい。」


そういわれたので俺はしかたなく、ケールの酒場を出た。


「なぜ・・・。」


「当たり前だよ。℉ランクの少女なんかを店においていたら評判駄々下がりだよ。」


「そんなもんか・・・。」


俺はケールの人当たりの良さを信じ事情を話せば通ると思ったがそんな簡単なもんじゃなかった。


少女は不安そうな顔を浮かべ


「私のことはいいよ・・・」


そういって悲しげな表情を浮かべていた。俺はお金は100エルクしかなく、家もない、俺は途方に暮れた。


「あなたが私と組むのなら、報酬も山分け、この子も連れていいわよ。」


俺は考えたが、結局それしか選択肢がなかったのでそうすることにした。俺が、少女の茶色い頭を撫でると少女はあどけない顔を浮かべていた。


「名前はなんていうんだ?」


「名前はルイ。」


「お父さんとかは?」


「分からない。」


そういっていたが、悲しそうな顔はしていなかった。俺はなぜかそれを見て胸が締め付けられた。


「これから世話になるエルゼ・・・。」


「夜のお世話も?」


「まじか本当か!」


「そんなわけないでしょ。」


そういって、エルゼは舌を出し無邪気な笑顔を見せた。辺りはもう真っ暗であった。俺はエルゼが泊まっていた宿屋まで案内された。そこは比較的広く快適な場所であった。


俺はベッドに腰を下ろすと、エルゼは真剣な顔をして俺の目を見た。


「これから、この国が計画していることを話すわ・・・。心して聞いて。」


「やだ、もう眠い。」


「あなたのつけにするわよ」


「すいません」


と俺は、すぐさま謝り話を聞くことにした。ルイはもうベッドの上でぐっすりと寝ていた。畜生、うらやましい・・・。


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