第5話 理加編(5)

とにかく、次の料理教室で二人に謝らなくては、とベットに横たわりながら悶々と時間が過ぎていく。


気晴らしに、テレビをつけると、ちょうどクッキングの番組だった。

今、まさに視たくない番組なのに。

チャンネルを変えようとすると、観覧者の色めき立つ声が聞こえてきて手を止めた。


若手イケメン料理研究家の神崎春斗がゲスト出演しているようだった。

そう、この神崎春斗こと、はると様は、私の通っている料理学校の講師なのだ。

はると様、目当てに通っている人もたくさんいるのだけれど、はると様のクラスは、定員オーバーでいつも予約待ちで大人気だった。

私も、いつもテレビ越しでしか、はると様を見たことがない。

料理教室でも、私の通っている金曜日は、メディア出演なのか、いつも不在だった。

しばらく、テレビを見つめていると、はると様が華麗に魚をさばいている様子だった。

よりによって、また鯖ではないかと。

もう鯖、私の記憶から消えて。

私の気持ちをよそにテレビの中では、アシスタントの問いかけに、はると様が笑顔で、

「もちろん、今日は、鯖の竜田揚げを作ります。」と答えていた。

やはり、衣は片栗粉でカラッと揚げている。

出来上がった料理をゲストたちは、美味しそうに食べて絶賛している。

その様子に、録画ボタンを押し忘れたことを後悔した。

そして最後に、はると様が、

「くれぐれも、片栗粉と小麦粉を間違えないようにお気をつけて下さい。」で番組が終わった。

次の週、ルイに頼んで作り方を教えてもらおう。

そう思い立つと、もう一度レシピノートを開いて、ルイが書いてくれた文字を確認した。

今度、一緒に料理しましょう。

もちろん竜田揚げをね。

あなたから声をかけて。






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