Extra Phase avenger 01

「……それで、お前はこんなことしてるってわけか」


 シロガネ白銀の前に座っている男が軽く頷く。

 彼は縄で全身をイスに縛られ、身動きが取れないようにされていた。


 飄々とした態度を取り続けているが、この部屋に連れて来た瞬間にその表情が歪んだことをシロガネは見逃さなかった。


 今この場所にいるのは、シロガネと30代くらいの男。

 それから、血やオイルまみれの死体が5つだ。


 死体は全身のいたるところに穴が空いていて、そこから腐り始めていた。


「いいのか? 仮にも俺は、お前を一年間食わせてたんだぞ? 感謝とかないの」

「……結局捨てたじゃん」


 男はシロガネの元上官、つまりは人形遣いパプティアだった。

 彼女は彼をこの小屋に拉致したのだ。


「ここでこれから何されるか、あんたにならわかるはず。痛いのが嫌だったらすぐに答えて」


 手近にあった鉄杭とペンチ、それから電動ドリルの入ったトレイを彼女は手元に引き寄せた。

 男の顔が、一気に恐怖に歪む。


「それじゃあまず。賀上重工と武器密売グループの関係について知っていることを詳しく教えて」

「そんな話は聞いたことがない。初耳だ」


 男が即答する。


 だがシロガネは、彼なら知っていると確信していた。こう見えて、彼は組織内ではそれなりに地位があったという。

 前に拷問した男が吐いていたのだ。


 シロガネは鉄杭とペンチを手に取り、鉄杭を男の歯茎へ深々と突き刺した。


「ああッ……!! あっ……あっ……」

「あんまりじたばたしないで。無駄に痛くなってもいいの」


 そう言って、今度はペンチで歯を引っ張る。同時に杭の持ち手を上へと動かし、てこの原理で根元から歯を押し出して補助する。


「ああああああああああああッ……あああああああッ!!」


 男がその身を痛みで悶えさせ、絶叫している。歯茎からは噴き出すように血が溢れていた。

 だがそれは、彼女にしてみればもう何度も見た光景だった。


 この半年間で彼女は、何度も拷問をくり返した。歯医者――麻酔をかけないまま歯を抜く――をしてみたり、電動ドリルで身体に穴を開けてみたり、薬を打ったりしてみた。

 その結果、一番やりやすいのが“これ”だった。


 すべては、共同戦線と賀上重工に復讐をするためだ。


 半年前のあの日から、彼女の義体はロクなメンテナンスをされることもなく、ひたすら朽ち続けた。

 彼女は、自分がそう遠くないうちに動けなくなることを知っていた。


 だけど十五歳の少女であり、愛するモノを失くした彼女には、ただ悲しみに暮れたまま余命を過ごすのはつらすぎた。


 だから復讐することにした。

 目的を持つことで悲しみを紛らわせ、シオン心音を破壊した組織に傷を刻みつける。それが、彼女が選んだ残りの人生だった。


「……あんたは、今この瞬間の痛みを感じている。だけどわたしは、ずっとあの日から痛みを感じ続けている。寝ても覚めても、戦っていても、こうしてあんたに拷問していても、ずっと胸が痛いんだ……それがどれだけつらいことか、きっとあんたにはわからない」


 込める力をさらに強くすると、肉の抵抗を受けつつも歯がじわじわと浮き始めた。とある一点を超えたところで一気に抵抗が軽くなって歯が抜ける。

 彼女は男の口から器具を抜き、歯をトレイの上に置いた。


「はあ……はあ……はあ……」


 しばらくしてようやく、男が呼吸を取り戻す。まだ過呼吸気味だが、会話は成り立ちそうだ。


「それで、話す? もう一回やってもいいけど」

「はぁ……はぁ……はっ、話すっ……! 話すからっ……!」


 所詮は素人だ。

 余裕のある態度は呆気なく崩れ、血まみれの口で彼は必死に話し始めた。

 男が話している間、シロガネは淡々と音声を記録し続けた。

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