重要なことは一瞬の中に込められているのだ

今まで1ページかかって表現していたものが、たった1行で現わせるようになるかも知れません。この作者、別の作品で知って凄いなあと思っていたらこんな物を書いていました。先人の知恵を知らずにそれを超えていくことはできません。
これを読まずに何かを書くなんて勿体ない。

私が生まれたのは、あのアニメに出てくるような田舎町でした。トラックの荷台に乗って移動することも、咎められることが殆ど無いのどかな文化です。
トラックの荷台に乗る時は、大人から「本当はいけないことだから、お巡りさんに見つからないようにね」と釘を刺されるので、ワクワクした気持ちと若干のうしろめたさが内在した非日常だったことが思い出されます。

 トトロの冒頭で、メイに「隠れて!」と言った心境は、まさにこの時の私のものと同じでした。このシーンで、私には朴訥な風景よりも、大人の言うことを真に受けてしまう純真な頃の自分を見てしまうのです。
 同時に、だいぶ擦れてしまった今の自分から見て、純真さを持った子供たちを前にそれを保ってあげたいと願う大人の目線の高さでも見ていました。

 もちろん観る人によって経験は違いますから、受け取り方も十人十色だったはずです。
 ですが、これらのほんの短い間に、少なくとも何かを狙って、人の持つ様々な情動に踏み込んでくる技術が込められていたことは間違いがなく、その緻密さには改めて驚嘆するものがあります。

 この創作論では、トトロを創作者の視点からミクロの技法に絞って解説していきます。数々のシーンに散りばめられた気付きは「トトロがなぜ名作たり得たのか」を理解する一助となるでしょう。
 是非、メモを取りながら読み進めることをお勧めします。
 そして、そのメモはこの作品の後半になって俄然活きてくるのです。この創作論の凄いところは、分析・論評に留まらず、後半はそれらで得た知見を基に実践に取り入れようとする応用編なのです。

 あなたがこれを読み、トトロ以上の名作を生み出すことを願って。

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