第14話 急展開!

 俺は横向きに寝転んですーすー寝息を立てている由宇の髪を撫でる。あー、サラサラだしいいかおりが漂ってきて……く、首の下に腕を通して、こ、腰に手を回し、いい。

 お、おうおおう。なんだ、この感触うう。二の腕の内側ほどのプルンプルンした柔らかさといえばいいのか、ふかふかのクッションや肉まん……い、いや、俺の感想を述べている場合じゃあない。

 ど、ドイツ軍人はうろたえぬううう。

 

 だ、ダメだああ、「藍人くん、立てないけど立ってます」でここから動けない。


「ユ、ユウ……?」

「……んん、せんぱあい……」

「ちょ、ゆ、ユウううう。首に、腕が、腕が!」

 

 よ、酔ってる、酔ってらっしゃるう。あー、首に由宇の頬までえ。。

 スリスリしてるう。彼女にお酒を飲ませたらダメだ……俺は心に誓うが、いまこの天国を味わおうと手を合わせて拝もうとした……あ、両手が塞がってる。

 仕方あるまい、俺の心の中だけで拝んでおこう……「ありがたやー」。あー、この位置だと、パジャマの隙間から見えるんですよ。


「ユウ?」

 

 ダメだ、由宇の頭がだらんと落ちてしまって、完全に寝入ってしまった。

 い、今のうちに、ベッドに運ぼう。俺は由宇をそのまま抱え上げると、ベッドに寝かして布団をかける。

 ふう……これでよかばい。

 

 あー、このまま俺にここで寝ろというのか。隣は第二ラウンドに突入したみたいだし、由宇は酔っぱらって潰れてしまった。

 俺一人だけになってしまったからか、妙に声がハッキリと聞こえるのだ。あー、ああああ。

 

 ゲームやろっと。

 

 ◆◆◆

 

 ハッ! クエストを三つこなしたところまでは覚えているが、そのまま寝落ちしてしまったようだ。

 人のおうちで寝落ちするとは……な、なんたる失態。

 

 コタツに突っ伏して寝ていた俺へ由宇が毛布をかけてくれたみたいで、体が冷え切ることはなかった。

 

「……先輩、おはようございます」

「おはよう。ありがとう、ユウ」

「……いえ、先輩こそ……運んでくれたんですね。昨日、ログアウトしてから何も覚えていないんですけど……」

「そ、そうか」


 その方がいいよ。リアルでの騎士ユウのRPロールプレイは確実に黒歴史になる案件だと思うし……

 

「……わ、私、あの後……」

「あ、そ、そのまま寝ちゃったから風邪ひかないようにって運んだだけだよ」

「……そ、そうですか……先輩ともう少し『ローズ』をやりたかったです……」

「いつでもできるしさ、体調は平気?」

「……はい」


 二日酔いで頭が痛いとかは無さそうでよかったよ。あ、ああ、言っておかないといけないな、やっぱ。

 

「ユウ、防音パネルだけど、ダメだった。ごめん」

「……そうだったんですか、昨日は声がしなかったんで……」

「ユウが寝た後に聞こえてきたんだよ。他に何かできないか考えないとなあ……」

「……あ、ありがとうございます……」


 しっかし、どうすっかなあ。防音。壁とパネルの間にコンパネ板を挟むとか、何かうまい方法があればいいんだけど。

 ホームセンターの店員さんに聞いてみようかな。

 

「……せ、先輩、ケーキバイキングはお昼に行きますか……?」

「覚えていてくれたんだ! お昼前に入った方がいいって書いてたから、早めに行こう」

「……はい!」


 俺達は出かける準備をしてホームセンターに行き店員さんに相談すると、防音パネルと壁の間に挟む吸音材なるものがよいと聞き購入する。

 吸音材は柔らかい板状の材質だったから、クルクル巻いてもらうと持ち運びも問題なくできるものだった。なので、お昼を食べた後取りに来ることにしたんだ。

 

 待望のケーキバイキングでは、店内の女子率にビビったが由宇と一緒だったしいかにも「連れの女の子のケーキを取ってます」な顔をして次から次からケーキを皿に取りもしゃもしゃっと。

 いやあ、甘い物っておいしいよなあ。うんうん。

 由宇も小さなサイズになっているケーキを一種類づつ取って食べていた。


「付き合ってくれてありがとう」

「……いえ、私も甘い物大好きです……こういうところに一人じゃ中々これませんし。いろんなケーキがあって目移りしちゃいますね!」

「俺は全部食べて、さらにおかわりも」

「……先輩、甘い物好きなんですね……なんだか、可愛いです……」

「あ、う、うん」


 余りの食べっぷりに引かれるかなあと思ったけど、そうでもないようだし、ガンガン食べよう!


「……先輩、体の割に食べるんですね……」

「こういう時は食べられるだけ食べておかないとな!」


 由宇の言う通り、俺の身長は高くない。体も高校を卒業して以来運動をほとんどしていないから、筋肉も落ちてしまったし……ますます貧弱に見えるんじゃないかと思う。

 あー、鍛えないとなあ……といってもいくら俺が小柄だとはいえ、由宇より頭一つ分くらい高いのだ。キノは俺と同じくらいの身長だけどな!

 

 まあ、そんなことはいいんだ。今は食べる、食べるー。


「……先輩、夕方頃お暇ですか……?」


 由宇がケーキを食べる手を止め、俺へと目を向けた。

 

「あ、うん。特には」

「……あ、あの、先輩。この前のコンビニでキノに会いませんか?」

「そ、それはいいけど、キノの予定は?」

「……夕方からは大丈夫だそうです」

「じゃあ、会いに行こうか」

「……はい!」


 由宇とキノこと梢はローズの話で盛り上がっていたし、楽しそうな様子は彼女達の雰囲気からすぐに分かった。見ている俺も幸せな気持ちになれるほどに。

 あ、ああああ。ひょっとして由宇はまだ俺の女装を諦めてないのか! 誤魔化してそのままなし崩し的にオフ会を迎えようと思っていたのに!


 ◆◆◆

 

「うん、俺がアイなんだ、キノ」

「ええええ! ビックリ! メイクしてないんだね」


 いや、そこ、おかしいから。俺が男の娘だっていつ言ったよ。あ、由宇が言ったか……誤解を先に解いておいて欲しかったなー。

 俺達はケーキバイキングのお店を出た後、吸音剤を持って由宇のおうちに帰宅する。キノと会うまでまだ時間があったから、吸音剤の設置にとりかかった。

 ちょうど設置し終わる頃にキノへ会う時間が迫ってきたので、ファミレスにやってきたというわけだ。

 

 会ってしばらく、由宇とキノはゲームの話で盛り上がっていたんだけど、俺は自分からキノへアイが俺だと言う事に決めていたんだ。

 俺がアイだってことをバラすことについては、由宇にもここへ来る前に言ってあるし、いずれにしろオフ会で分かるわけだからな。

 それだったら、俺もこの楽しいローズ話に参加したかったってわけなんだよ。

 

「……梢さん、あの、その、先輩はメイクが苦手で……」

「そうだったのお。可愛い顔しているのにもったいないわね! 山岸くん、私が教えてあげる!」


 待て、待てええ! 由宇、違う、違うって! そうじゃなくて、俺が男の娘じゃないし、メイクもしないって言ってくれよお。

 変なところで責任感を発揮しないで……

 

「い、いや、俺は男の娘じゃなくて……ごくごく普通の……」

「またまたあ、例えそうだとしてもおもしろそうだし、ね?」


 ね? じぇねえよ! キノぉ。あー、嫌らしい笑みを浮かべやがって。

 

「ものは試しよ、絶対可愛くしてあげるから!」

「あー、もうどうにでもしてくれえ!」

「やったー! 山岸くん、話が分かるー!」


 まあ、オフ会で一発限りだし、由宇にメイクしてもらったけど気持ち悪かった結果になったから、今回も多分そうだろ。

 すぐに洗い流して終了だー。

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