あやかし冥菓見本帖

美木間

プロローグ

 銘菓――それは、日本各地に伝わるその土地ならではの歴史・由緒・いわくのあるお菓子のことである。

 

 それは、品格あるお歴々より、格調高く、ふさわしい銘を授けられるものとされている。


 それは、一子相伝、家伝の秘匿の法で作られることもあるが、それが全てではない。



 まじない菓子「冥菓めいか」――それは、魔除け、厄除け、招福、恋愛成就祈願、御利益願掛などに効果を持つ、特別な力を宿すものを取り混ぜて、古来伝承の「冥菓道」にのっとってつくりあげる、特別な力を宿したお菓子のことである。


 まじない菓子“冥菓”で重要なのは、冥菓道めいかどうにおける、目に見えないものが霊験れいげんあらたかであるということわりに基づいて、種々くさぐさの香味、妙味を重く用いる点にある。

 

 こちらは、一子一妖相伝「冥菓道」の継承家伝の秘匿の法でしか作られない。



 老舗和菓子屋「菓子司美与志かしつかさみよし



 表向きは、創業江戸時代の地元に根付いた和菓子屋の顔を持つ、懐かしい佇まいのよくある店だ。


 しかし、実のところこの店は、創業紀元前、否、神代かもしれない、まじない菓子“冥菓”の専門店であった。




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