第11話 弱いグッドスタイン数列の終了証明

 なんとかほとんど濡れずに部屋に戻ることで来た私とロクリアちゃん。ロクリアちゃんは逆に元気いっぱいになったようだが、私は息切れしている。なぜなら、走りながらいろいろ考えていたからだ。ロクリアちゃんの言葉、ω=11なのでは?という言葉は完全に想定外だったのそれがうまくいくかどうか検証していたのである。

 ω=11とすると、

 ω×ω=121

 となる。

 ひとつ前の数は120に相当する順序数になっていてほしい。しかし、実際には

 ω×10=110となって、11落ちてしまっている。ここまで考えて、ようやく話せる状態になった。雨に感謝である。

「うん、ちょっとルールを変えると、11のように見なすことができるよ。

 ω×ωの前に行くために、ω×10のグループに行くんだけど、さっきは、その先頭に並んじゃったよね。それはよくないから、そのグループの中の10番めにしっかり並ぼう

 すると、ω×ωの前は、ω×10+10になる。辿っていける順序数は、

 ω×ω

 ω×10+10

 ω×10+9

 ...

 ω×10+1

 ω×10

 ω×9+10

 ...

 となって、これは、

 121

 120

 119

 ...

 111

 110

 109

 ...

 とぴったり一致するよ」

 ここまで言って、図ってか図らずか、ロクリアちゃんはこんなことをつぶやいた。

「11進法みたい・・・ω進法ってあるのかなあ?」

「ロクリアちゃん・・・それ言っちゃう?」

「どういうこと?」

「その発想でね、ロクリア関数の計算がどの自然数でもできることを証明できる」

「どういうこと??教えて!」

「もう少しだけ順序数を広げるよ。

 ω×ω=ω^2

 ω×ω×ω=ω^3

 というように決めよう。もちろんω^ωまで考えることはできるけど、今はそこまで必要じゃない。ここで、例えば、ある進法で、

 3021サンゼロニイチ

 って書かれてたとしよう。これは4進法以上のなんらかの進法だよ。

 たとえば5進法だとすると、

 3×5^3 + 0×5^2 + 2×5^1 + 1

 を表していることになる・・・よね。何進法かによってこの表記が表している数は変わってくる。もしω進法だとすると・・・

 ω^3×3 + ω^2×0 + ω^1×2 + 1

 ってことになる。これはある順序数だ!

 だから、実は適切に割り込みルールを決めると、必ず1までたどることができる。

 ロクリア関数の話に戻そう。

 厳密に話すのは難しいから、この前計算した1000イチゼロゼロゼロを例にとってみよう。

 まず、2進法だったんだけど、ω進法のように書く。すると、

 ω^3

 という表し方ができるよね。

 で、次のターン、3進法になることをこう対応させよう

 ωの収束列の3番目に収束する列の3番めに収束する列の...の列の2番目

 面倒な言い方だけど、

 ω^3はω×ω×ωだから、これに収束する3番目の列は

 ω×ω×3

 だ。これは

 ω×ω+ω×ω+ω×ω

 だから、これに収束する3番目の列は、

 ω×ω+ω×ω+ω×3

 また計算すると、

 ω×ω+ω×ω+ω+ω+ω

 そして、これに収束する2番目の列(最後だからね)は、

 ω×ω+ω×ω+ω+ω+2

 となる。これはもうちょっとわかりやすく書くと、

 ω^2×2+ω×2+2

 こうなるんだけど、これは、ぴったり

 222ニニニと一致しているよね!

 ωはどんな正の整数よりも大きい順序数だから、何進法になってもまったく同じ計算ができる!そして、極限順序数に対して、それより前の順序数にいくルールが決められているから、必ず1にたどり着けることがわかる!わかりやすく対応を書くと、こうなるよ

 n進法...表記...対応する順序数...10進法での大きさ

 2進法...1000...ω^3...8

 3進法...222...ω^2×2+ω×2+2...26

 4進法...221...ω^2×2+ω×2+1...41

 5進法...220...ω^2×2+ω×2...60

 6進法...215...ω^2×2+ω+5...83

 11進法...210...ω^2×2+ω...253

 12進法...20B...ω^2×2+11...299

 23進法...200...ω^2×2...1058

 24進法...1,23,23...ω^2+ω×23+23...1151

 順序数は見づらいけど、やっぱり大きさとしては減っていっていることがわかる。

 そして、適切に減り方がさだめられているから、これはいずれ計算が終わるんだ!」

「ω進法って結局、何進法にでもなれるってことなの?」

「うん、今回はそういう使い方をしているよね。順序数は自然数と同じように、無限に減り続けることができないから、実は・・・

 √2は有理数でない。なぜなら自然数は減り続けられないから

 っていうこの前やった構造と、

 ロクリア関数はかならず自然数を返す。なぜなら順序数は減り続けられないから

 っていう今つかった構造はぴったり一致するんだ。難しい言葉では無限降下法と呼ぶよ」

「むげんこうかほう」

「もちろん今回は順序数について厳密に議論したわけじゃないから、すごく粗いけど、でも、あらすじ追うだけでも少し楽しいよね」

「でもやっぱり無限って難しい!どんな整数より大きい数っていうのも意味不明だし・・・、整数は増える方向にはいくらでもあるのに、逆側に辿ると1にたどり着くっていうのも変な感じ」

「うん、現実の物事とはちょっと違うから、それは少し難しい原因になってるね」

「でも変なところまで散歩できてちょっと楽しかった!またね!」


 定理6.

 弱いグッドスタイン数列はかならず有限数列である。


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