第5話 グッドスタイン数列に挑戦

 ロクリアちゃんはとにかく好奇心が旺盛だ。何事も知らないことを許せない。そういう心意気を感じる。そして、いつもいろんなことを考えている。もちろんくだらないこともいっぱいだ。いや、そのほとんどがくだらないことだと言っていい。もともと物事がくだらないかどうか、そういうことをロクリアちゃんは一切気にしていないようだ。ただ、どこかに楽しいことが転がってないかな?そういうことが一番大切なのだ。

「じゃあやってみようか。たとえば、5を遺伝的記法で、2を底にしてみたらどう?」

「2進法ってことだよね!」

「う~ん、2進法とはちょっと違うんだけど・・・でも似たような感じだからそう思ってもいいと思うよ」

「えっと、5はまず2の2乗より大きいよ、だから、

 5=2^2+1

 あれ?おわっちゃった。つまんないの」

「でも、このまえ7から始めて2046ターンもかかるゲームやったでしょ?だからあんまり時間がかかり過ぎないように、これくらいにしておこうよ」

「う~ん・・・」

 ちょっと不満そうである。でも計算してみればきっと目を輝かせるに決まってる。私はそう思って、なんとか説得する。

「とにかくさ、やってみようよ。小さい数から始めるのは練習になるし」

「いいよ。で、これを3進法にするんでしょ?」

「底を3にするのね。進法じゃないから、底って呼び方にしようよ」

「えー・・・」

 ますます機嫌を損ねるロクリアちゃん。今日は少し調子が乗らないな、と思いながらも説明する。

「まず、2^2+1にある2を全部3に変えて、それから1引いてみて。それが2世代目ね」

「うん

 3^3+1-1

 =3^3

 =27

 ってなったよ」

「そうだね。ところで、3^3って当たり前だけど、27の3を底にした遺伝的記法になってるよね。じゃあ、この3を4に変えて、1引いてみて。3世代目だよ」

「うん

 4^4-1

 =255

 あ、とたんに大きくなった!」

 すこし声が大きくなったのを聞いて安心する私。

「じゃあ、255を4を底にした遺伝的記法で書ける?」

「えーとねえ

 4^4=256でしょ、これは255より大きいってことは4^3だよね。4^3=64だから、255÷64=3...63ってことは、まず

 255=3×(4^3)+63

 こうなるよね?」

「いいぞいいぞ」

「次は63を遺伝的記法にすると、

 4^2=16だから、63÷16=3...15ってことで、

 255=3×(4^3)+3×(4^2)+15

 あとは簡単だ!

 255=3×(4^3)+3×(4^2)+3×4+3

 これであってる?」

 おそるおそる私をみるロクリアちゃん

「あってるよ!さすがだ!もう遺伝的記法はお友達になれたね!」

「うん!で、このあとどうするの?」

「いま、そこに出てきてる4を5に書き換えて1引いてみようか。これで4世代目」

「えっと・・・

 3×(5^3)+3×(5^2)+3×5+3-1

 でしょ?わー・・・計算大変」

 すこしテンション落ち気味のロクリアちゃんをみて、私は必死に関数電卓で計算する。もちろん一瞬で答えを出してくれる。

「467だよ」

「これまた遺伝的記法で書くの?」

「そうなんだけど、実は

 3×(5^3)+3×(5^2)+3×5+3-1

 をそのまま計算しちゃえば、遺伝的記法になってるから、

 3×(5^3)+3×(5^2)+3×5+2

 で大丈夫だよ」

「ってことは、あと2回は計算が簡単ってことよね」

「うん。だから、2世代一気に進めちゃって、6世代目、底は7のとき

 3×(7^3)+3×(7^2)+3×7」

「いくつ!?いくつ!?」

「1197になったよ」

「へえーその次はどうなるんだろ」

 ちょっと調子を取り戻して安心する私。

「7世代目、底が8になるんだけど、

 3×(8^3)+3×(8^2)+3×8-1

 これを計算すると、最後の項が

 23=2×8+7

 になるだけであとはそのままだね

 だから、結局

 3×(8^3)+3×(8^2)+2×8+7」

「ってことはまた7世代スキップして大丈夫だね」

「うん。スキップしちゃうと・・・

 14世代目、底が15で

 3×(15^3)+3×(15^2)+2×15」

「すごい!いまどのくらいの大きさ?」

「10830になってるよ」

「大きくなるんだねえ」

「次は最後の2×15が崩れそうだよ。15世代目、底が16のとき・・・

 3×(16^3)+3×(16^2)+16+15」

「15世代スキップ!私が書くね!30世代め!

 3×(31^3)+3×(31^2)+31」

「いいぞいいぞ。次は31が崩れて・・・」

「31世代スキップ?」

「ううん、ここはちょっと注意が必要。次31世代め、底が32のとき

 3×(32^3)+3×(32^2)+32-1

 こうなるはずだから、ここから31世代スキップだ」

「そっか、ただの数になっても増えるんだ」

「それで、62世代め、底が63になったとき

 3×(63^3)+3×(63^2)

 になるよね」

「値は!?」

「762048だよ」

「ななじゅうろくまんにせんよんじゅうはち」

「うん」

「70万円かあ・・・あったらなんでもできるのになあ・・・」

「ここで70万円もらうより、もっともっとおおきくなりそうだから、もうちょっとつづけてみようよ」

「次は?」

「63世代目、底が64のとき、

 3×(64^3)+3×(64^2)-1=

 3×(64^3)+2×(64^2)+63×64+63」

「ふわー計算早い・・・」

「うん、えっとね、3×(64^2)から1を引くんだけど、3×のところが優先して引かれて2×になるのね。それで、分配法則とかつかって計算して・・・

3×(64^2)-1=2×(64^2)+64^2-1

 になるんだけど、64^2-1って、64×64-1でしょ。だから、63×64+63だねってこと」

「意味わかんない!疲れた!また明日ね!」

「え~まだこれから先の計算残ってるのに・・・」


 定理3.

 5を与える。(第1世代)

 次のルールに従って世代を進める操作を続ける。

 第n世代の数を底がn+1の遺伝的記法で書く。この式の中の文字のうちnとなっているものをn+1に書き換えて計算する。それが第n+1世代の値である。

 このとき、少なくとも63世代以上続き、63世代目の値は798719になる。

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