ブーゲンビリアの花のように


(咲くだけで気持ちが伝わればいいのに。)


高校の図書室の窓を打つ雨粒たちに、そう話しかけてみるが返事は次第に消えていった。

今朝はセーラー服のしわ取りに必死で、天気予報をチェックし忘れていた。だから、傘を持っていなかった。

と言って、校舎から五分とかからないコンビニで、ビニール傘を買うのは勿体無い。そのコンビニの真横にある駅を思い出して、昨日で切れた定期を恨みがましく思う。そのために今日だけ自転車で来てしまった事に、ため息をついた。

定期を買わなければいけないのに、とんだ足止めだ。ついていない。


(ついてないことばかりだ)


定期は切れた。

傘を忘れた。

失恋した。


(あんな可愛い子が彼女とか、普通話すだろ)


ちょっと抜けてる性格が、こんなとこでも出てくるなんて最悪だ。

なんで話してくれなかったんだろう。いくらでも話せたはずだ、毎日、一緒に登下校してたのに。

じゃなきゃ、こんなに好きにならなかった。多分。

なにより、それを知らないままの方が、素直になって告白もできたかもしれない。

秘密にするなら、最後まで秘密にして欲しかった。


(ブーゲンビリアの花になりたい)


大好きな花の花言葉。

私が花だったならば、気持ちを誰よりも早く彼に渡せたことだろう。ため息を吐いて、窓越しに空を見上げた。

小雨に変わった。

これなら、傘がなくても歩けそうだ。

図書室を後にし、校舎脇の駐輪場から小雨混じりの曇天を恨みながら、自転車を押して歩く。


「おい!お前、なんで今日に限ってチャリ通なんだよ!?雨降ってんだろうが!」


唐突に、聴き馴染んだ声に怒鳴られた。

驚いて視線をあげれば、そこには私の好きな人が不機嫌な顔で仁王立ちしていた。ブレザーが乱れている、余程必死で探してくれていたのだろうか?

告白してもないのに、振られるのかな。そんなこと言ったら、間接的に振られたわけで。

だとしたら、一緒に、登下校できなくなるのだろうか?嫌なことばかりが駆け巡る。定期買うのやめようかな。


「いや、昨日で、定期切れちゃって…雨、ほら、もう止みそう。」


必死で平静を装っていた。


「それ、言えよ!朝から今まで探し回っただろうが!」


「一応、ラインしたんだけど…?」


「俺は、今日に限ってスマホを家に忘れたんだ!」


「…いや、うん、なんかゴメン?」


らしくないな、と思う。

ぬけてる私をカバーできるくらい、しっかりした性格なのに。

また驚いて言葉を探していたら、不機嫌な顔がなぜか真っ赤になった。そんなに、怒らなくても良くない?


「今日こそ告ろうと思ったんだよ!でも、緊張し過ぎて、忘れ物ばっかして、散々だったんだ!お前のせいなんだから、責任取れよ!!」


「…ブーゲンビリアみたい」


「あ?へ、返事は!」


「一緒に定期買いに行くなら…返事する。」


驚きすぎて、冷静になってしまった。

だけど、嬉しくて仕方がない。

あの憂鬱な時間は、あの彼女は、なんだったんだろう。馬鹿みたいだ。

ブーゲンビリアになれたらいいのに。

そうすれば、「あなたしか見えない」なんて言葉を、恥ずかしがらずに言えるのに。

あぁ…ブーゲンビリアの花になりたい。

心の中では、こんなにも詩人のように饒舌なのに。


「私も…好き過ぎて、今日は一日憂鬱だった。」


自転車じゃなかったら、手くらい繋いでもらえたのかな。

雨は、いつのまにか止んでいた。



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