ファスラン、ヘンデル、アンナ

48*いつものトコ




 帝都ガルディンベルク。国務庁特殊研究所大気エーテル測定室。



 突然扉が開き、大きなリュックを背負ったファスランが駆け込んできた。


「おい、3日間も何やってたんだよ! こっちはお前の仕事誤魔化す為に大変だったんだぜ!?」


 ヘンデルが、デスクから立ち上がって言った。


「ボンに行くって言ったでしょ? ありがとう、これお土産」


 ファスランはリュックをデスクの上に置くと、剣に龍が巻きつけられたデザインのキーホルダーをヘンデル手渡した。


「なんだよこりゃ! 小学生の修学旅行じゃねぇんだぞ!」


「これを見てくれよ」


 ファスランは、ヘンデルの発言を無視してタブレットPCを取り出して見せた。その画面には、以前ボンの街が存在した場所の写真が映っていた。


「なんだよこれ」


「ライネス総司令官とコダマが戦闘を繰り広げたとされるボンの街の跡地だよ。おかしいだろ?」


 ヘンデルはタブレットPCを手に取り、その映像を観察した。


「うーん……あー」


 ヘンデルは、その映像の異常性に気づいてしまった。


「お前、よくこれ撮れたな」


「大変だったよ、軍備部が最高レベルで管理していたからね。まるで、ラオム・アルプトが現れた海岸通りと同じように」


「で、お前はどう思うんだ?」


「まだエーテル波形の解析が終わってないけど、もしこれがラオム・アルプトのものだとすれば——」


 その時、部屋のドアが開いた。ヘンデルは、大切なものをかばうみたいに慌ててタブレットPCを白衣で隠した。


「あ……」


 そこには、アンナが立っていた。


「アンナ、どうしたの?」


 アンナは何も言わずにふたりのもとに歩み寄ると、一枚の小さなメモ用紙を取り出した。



 いつものトコ。



 そのメモ用紙にほ、その一言が記されていた。ふたりがそのメモを確認すると、アンナはメモ用紙を片手でくしゃっと丸め、それをヘンデルの口に突っ込んだ。


「ふがががが……ごくっ!」


 ヘンデルが紙を飲み込んだのを確認すると、アンナは何も言わずに部屋を出て行った。


「ぐはぁっ! 」


 ヘンデルは流し台に飛びついて、蛇口から水を流して飲んだ。


「ったく、なんだよあの女!」


「あのメモって……」


「あぁ? そんなん、一つしかねぇだろ」



 ヘンデルは水道の蛇口をキツく閉めた。



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