17*辛い時ほど笑っていよう



 どれくらい進んだのだろう? 



 荒野を抜けると、森があった。大木がぎっしりと立ち並び、地面には雑草が生い茂っている。鳥の鳴き声が聞こえる。木々の影からプルメリア達の様子を伺う小動物達の気配がする。


 モニターに映し出された画像ではなく、初めて直に見る、自然の森だ。決して叶う事のなかった、外の世界。出来れば、サクラと一緒に見たかった。プルメリアの心の中で、サクラが微笑んだ。その笑顔が、明るいほどにツラかった。プルメリアはその笑顔を必死に振り払った。


「腹減った」


 プルメリアがボソッと呟いた。


「ダリアも―! お腹とお腹がくっ付くぞー!」


「どうやったらお腹とお腹がくっつくんや」


「それを言うならお腹と背中ですよ。あぁ、ホントにお腹が空きましたね……」


 ウメはお腹を抑えながら、木々の影に潜んでいる小動物の方を見て目を光らせた。それを見た小動物たちは、血相を変えて一斉に逃げ出した。まるで、祟り神が森に攻めて来たみたいに。



 ダリアは木の根元に生えているキノコを1本抜き取った。


「これ食べたら共喰いになるんかなぁ!?」


「あぁ、共喰いや。お前さん祟られるで」


「なに言ってんのよ。今までだって野菜食べてきたじゃない」


「あ、そりゃそうかー! あはは、パクっ!」


「ちょっ、アンタそれ何のキノコか分かって食べてんの!?」


「そんなん知る訳な……ギャハハハハハハハハ!」


「げっ、なにコイツ!」


「ギャハハハハハーナハハハーキノコうめー!」


「毒キノコやあらへんの?」


「ガハハハハハハハハハ」


「ワ、ワライタケか……」


「ギャハハハハハハハピー!」


 ダリアは床に転がりながら、腹を抱えて笑いながらのたうちまわっている。


 プルメリアはダリアの背中をポンポンと叩いた。


「ちょっと、早く吐き出しなさいよ」


「ギャハハハハハハ! プ、プルプルちゃんパリピーフー! ヒギャハハハハ!」


「やべぇ、こいつイっちゃってる」


「1時間もすれば治まるやろ。それまで寝よ」


「うるさくて寝れないっつーの。ってか、ウメは?」


「ギャハハハハハハウ、ウメー!!!」


「あ、そう言えば」


 ウメがいつの間にか姿を消している事に気が付いた。プルメリアとアザミは辺りを見回す。


「みんなー」


 木々の間を縫って、ウメの控えめで可愛らしい声が聞こえて来た。ウメは、両手に大きな魚を持ちながら笑顔で木々の影から姿を現した。


「あっちに川がありましたよ。お魚さんもいっぱい」


「お前は熊か」


「ギャハハハハハハハ! クマ―ハハハハハハ!」









 ダリアの奇行が治まると共に、日が暮れた。プルメリア達は焚火をして、ウメが獲ってきた川魚とキノコ(安全な)を焼いた。


「あー、顎いたーい」


「そのままここに置いてこうかと思ったわよ」


「火を炊いて大丈夫ですか? 煙が立ち上ると居場所がバレちゃうんじゃ」


「ま、その時はその時ってね。さぁ、食べよ! いただきまーす」


 プルメリアは串に刺さっている川魚を齧った。


「あつっ!」


「超絶楽観主義やな。いただきます」


「いただきます。あ、醤油かけますか?」


「かけるかける」


「なんで醤油なんて持っとるんや」


「いっただきー! あ、このキノコうま!」


「よくあんな目にあった後でまたキノコ食べられるわね」


「うん、うまいうまーい!」



 大切な人を失い、沢山人を殺した後でもお腹は空くし、食物を食べればそれなりに味はする。絶望的な状況であっても、細胞は『生きよ』と命じる。



「うん、美味しい」



 初めてのサバイバル飯は、思いの外美味しく感じた。それは、このメンバーと一緒にいるからだろうと、プルメリアは思っていた。


 みんな、きっと、本当は辛くて一歩も歩けない状態なのに、こうして明るく振舞っている。それは、サクラが教えてくれた事だった。



 辛い時ほど、笑っていようよ。


 そうすれば、明るい明日がやってくるさ。



 プルメリア達を元気づける為に、サクラが言ってくれた言葉だった。プルメリアは、サクラに問いかける。




 本当に、明るい明日はやってくるの?




 あたしにはもう、絶望しか見えないよ。

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