第8話 彼女と休日に(2)

 図書館で明らかになったルカさんの意外な趣味に驚きながらも、しばらくミステリ談議に花を咲かせていると、司書の人から「もう少し静かにお願いします」と言われてしまい、早々にその場を離れた。

 借りたかった本もいくつかあったが、今はデートの真っ最中、結局荷物になるので借りるのは後日にした。


 続いて、この街にいくつかの支店がある大型書店に向かう。

 この書店は10万冊を超える本を扱っていることが売り文句であり、店内にはミ○ドも入っているので、ついでにお昼を済ませることが出来る。

 早速、入口近くに配置されている最新刊本の平積みコーナーへ行く。

 高校生で、しかも両親がいないオレにとってこういった新刊本を買うというのは金銭的にも苦しいものがあるので、このような書店でチェックして図書館へ通うのが定石になっている。


「ルカはお気に入りの作家っているの?」

「ええと、最近のミステリってあまり読んでなくて……」


 図書館ではこれまで見せたことのないハイテンションな様子が、ここではすっかり影を潜めている。


「こういうところに来ると、自分がいかに古い作品ばかり読んでいたかが思い知らされます」


 そう言って悲しそうな顔をする。


「そんなに落ち込まないで。新しいからといって面白いとは限らないんだから」

「はい……」

「でも新しい本を読むのも楽しいよ、古典的な作品もいいけど」

「実はそ、その最近は、れ、恋愛小説ばかり読んでて……」

「そ、そうなんだ」

「い、今のじ、自分に置き換えて読むとどんどんのめり込んでしまって……」

「……」

「……」


 うーん、身の置き場がない。というか今のルカさんは反則的な可愛さだ。

 このまま、連れて帰りたくなる(オイッ!)。


「あ、お、オレも恋愛小説はたまに読むけど、今は間に合ってるというか……」

「はうっ……」


 思えばとんでもないことを言ってるな、オレ。

 しかもそれを聞いたルカさんは顔を真っ赤にしているし、他人から見たら完全にバカップルだな、こりゃ。

 気が付くと既に12時を過ぎていたので、店内にあるミ○ドに行くことにした。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 オレとルカさんはそれぞれ好きなドーナツと飲み物を選んで会計し、窓際で空いていた席に座る。

 ちなみにオレはチョコ系のドーナツとコーヒー、ルカさんはポ○・デ・リ○グ系とオレンジジュースを選んだ。


「来人さんはよくこの店に来るんですか?」

「いや、たまに友里と来るぐらいかな。ルカは?」

「私もあまり……。私太りやすい体質みたいで」

「そんな風には見えないけどね。スタイルもいいし」

「そ、そうですか? ありがとうございます……」


 何か今日のオレって女たらしみたいなセリフを連発している気がする。普段の自分なら決して思いつかない言葉もルカさんの前だと躊躇なく言えるのが自分でも不思議だった。


「もう、来人さんはどの女の子にもそういうことを言ってるんじゃないですか?」


 ぷんすか、という感じで睨んでくるルカさん。

 その表情はとても可愛いけど、誤解を解いておかないと。


「あのね、オレが女の子と付き合うなんて今までなかったし、ルカ以外にいないよ。そんなにオレがモテると思う?」

「いえ、別に疑っているわけじゃあ……ないですけど」

「オレの方こそ、未だにルカがその、彼女だなんて信じられないよ」

「か、彼女ですよ。だって、す、好きですから……」


 言葉の最後の方はほとんど聞き取れないくらいの小さな声だったけど、オレは聞き逃さなかった。

 ルカさんは誤魔化すようにオレンジジュースに口をつける。

 オレも恥ずかしくなって話題を変えることにした。


「そう言えば、ルカは毎日料理を作りに来てくれるけど、その、家の人は何も言わないの?」

「えっ、何をですか?」

「いや、お隣さんとはいえ、その、男のいる家に行くわけだから……」

「大丈夫です。私は信用されてますから」

「そ、そうなんだ」


 いや、いくら信用されてると言っても……オレの考えが古いのかな。別に邪よこしまな気持ちなんて微塵もないけど……なくはないけど……。


「私の母は父と大恋愛の末に結ばれたそうです。でも、付き合っている間は両親から何かにつけて厳しく言われたようで、最後は駆け落ち寸前のところまで追い詰められたと聞いてます。そんな経験をしてきた母は自分の子供に同じ思いをさせたくないと考えているんです」

「そうなんだ……」

「だから、私には『好きな人が出来たら後悔しないように頑張りなさい』と言ってくれたんです」

「……」

「もちろん、未成年ですから、そ、その責任がとれないようなことはしないように、とも言われてますけど……」


 オレは顔を赤くしながら懸命に話すルカさんを愛おしく見つめる。きっと彼女のお母さんは素敵な人なんだと思う。

 するとルカさんはさらに顔を真っ赤にして小さく呟いた。


「それと、ある人からお墨付きをもらいましたし……」

「えっ?」

「い、いえ、こっちの話です」


 ルカさんは慌てて両手を振る。

 お母さん以外の人からも信用されてるのか。


「こりゃ、責任重大だな、オレ」

「そ、そうですよ。来人さんは、わ、私を大事にする義務があるんですから」


 もちろん、今のオレにはルカさんしか見えていないし、これからもルカさんを大事にしたいと思っている。でも心の片隅に小さく残る疑問―――ルカさんはどうしてオレなんかを好きになったのだろうか。


 その後、二人で家の近くのスーパーで夕食の買い物をして帰宅した。

 当たり前のように夕食を作ろうとするルカさんに、いつもお世話になってるから、とオレが自分で少し早めの夕食を作り、妹と3人で会話しながら楽しい晩餐を過ごした。

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