第19話 デザール国

暑いくらいの風が頬を突き刺した。

空には雲1つ無く、太陽がらんらんと辺りを照らしている。

デザール国の都カンザスタンにアルベルトはいた。

カンザスタンはデザール国の王都であり、氷結病が最も顕著に現れている場所にいた。

アルベルトはつい先程この都に来たばかりだが、国の異様さに驚いていた。

道は全て砂で出来ており、家も砂を固めて作ったようだ。

アルベルトは昔聞いた、母の話を思い出していた。


アルベルトの母──リリアナはそれはそれは美しい女性だった。

艶やかな髪は太陽の光を受けて白に見えるような金色。

すっと通った鼻筋に、真っ赤な唇。

透明感溢れる白い肌。

極めつけは、軽やかに踊る手足。

ある人に見初められるまでは人気の踊り子だった。

しかし、変化は突然訪れる。

元々、リリアナはデザール国出身である。

父親はデザール国出身だが、母親がルービィア王国出身なため、母親寄りの容姿をしていた。

その美しさは国1番と言われており、幼なじみの婚約者もいた。

しかし、リリアナは各国を巡る踊り子だった。

今から16年前に立ち寄ったある国でリリアナは偉い人の前で踊った。

偉い人は自分の思い通りにしか事を運んだことが無く、リリアナの事も自分のものにした。

リリアナは拒絶を示したが、聞く耳を持たれず、アルベルトが出来てしまった。

アルベルトが生まれるまで、その国に滞在していたが、アルベルトが3歳になったその年にいなくなってしまった。

アルベルトはそれ以降父親に見放される事となる。

只、3歳になる前、リリアナは自国の話を良くしていた。

砂漠の中にポツンと大きなオアシスがあり、そのオアシスを囲むように家々が建っている。

オアシスの中央は大きめの陸となっており、そこに城が建っている。

城から出るときは船に乗って町へ降りる。

リリアナはその船が好きで、良く見ていた。

踊り子として城に入ったこともある。

この国は寂しい国だ、とアルベルトに言って聞かせていた。

アルベルトは知っていた。

母──リリアナは、別にアルベルトの事が嫌いだった訳ではない。

ただ、許せなかったのだ。

アルベルトの中に流れているあの男の血が。

だから、アルベルトを置いていった。

残っていた手紙には、ごめんなさいとしか書いていなかったが、涙の後が残っていた。



ここは、母の国だ。

守る理由が俺にはある、とアルベルトは意気込んだ。


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