第11話 誤解と後悔

春の日差しが見えてきたこの頃。

今日は急ぎの重要な仕事が殆どないため、手紙の整理をしていた。

普段は執事にやってもらっているが、今は休憩中だ。

メイドも勿論の事、大臣達も用がないときは入ってこないので、今部屋に居るのは私1人だ。

そんな中、ベリル王国宛に1通の手紙が届いていた。

差出人は、ルービィア王国のゴンドラ王子。

内容は。

─────────

お騒がせの秘密をお教えします。

─────────────

という1文だけ。

初めはお騒がせとはなんのことだかさっぱり分からなかったが、最近起こった出来事を考えてみると、1つだけ思い当たることがあった。

怪盗ステラである。

なぜ、彼のことをゴンドラ王子が知っているのかは分からない。

何か接点があるのだろうか。

彼は何ヵ国語も話せている。

しかし、ルービィア語を話せる人は稀だ。

なぜなら、ルービィア王国は鎖国的国家なのだから。

そんな国の言葉を話せる人はルービィア王国大使かルービィア王国の民くらいなものだ。

一言、さようならだったとしても、彼がルービィア王国関係者なのは明らかなように思える。

紙とペンを取り出し、手に持ち、なんと返事を送ろうかと考えを巡らしていると、怪盗ステラが頭に浮かんできた。

私は、大抵彼に抱き締められていたが、その度に胸がドキドキしていた。

よくよく考えてみると、男性に慣れていないからだと思う。

産まれてから16年間、1度たりとも見知らぬ男性に不用意に抱き締められたことなどない。

そのため、男性への免疫が無いのが本音だ。

よし、これから気を付けよう。

と、何を気を付けるのか全く分からないことを考えつつ、いつの間にか宙をさ迷っていた目を手紙に戻す。

広げた紙には、手に持っていたペンのインクがポタポタと落ち、悲惨な事になっていた。

慌ててティッシュを手に取り、インクを吸いとる。

紙もダメになってしまったので、紙ごとティッシュを捨てた。

もう一度書き直そうと引き出しを開けると、見たことのない手紙が入っていた。

宛先は私になっている。

差出人は何も書かれていない。

中を開けて見ると、ピンク色のA4サイズの紙が四つ折りになって入っていた。

開いて、中身を読んでみる。

─────

愛しい人。


貴女の所にある人物から贈り物が届いているでしょう。それは、罠です。

無闇に差出人に手紙を返してはなりません。

知りたいことがあるのなら、私がお教えします。

ですが、1度知ってしまったのなら、貴女は私から逃げ出すことは出来なくなります。

私は万々歳ですが、貴女はどうでしょう。

貴女が私の事に興味を示し、私を思い胸を高鳴らせてくれているのなら、私の野望も叶うというもの。

→真実の泉に夜中の12時

────────────

私は、すぐに誰だかわかってしまった。

これは、怪盗ステラからの手紙だと。

真実の泉とは、トゥルー湖のことだろう。

私は、トゥルー湖に行くことを決意した。


☆★☆


夜中の12時、トゥルー湖。

私は、手紙通りに来ていた。

執事やメイドには散歩に行くとだけ告げてきた。

月の明かりが水面に反射し、ゆらゆらと揺れている。真実の泉に近づき、水に手を入れる。

ひんやりを気持ちが良い。びしゃびしゃと奥に跳ねかせて遊ぶ。

水底には小さな生き物がいるようで時折気泡が浮いてきていた。

私は久々の自由な時間を過ごすことができ、油断していたのだと思う。



その時、ガサッという足音が聞こえ、振り返ろうと首を動かしたら、口元に布らしきものが宛がわれた。

抵抗したが、次第に瞼が落ちてしまった。

薄目で犯人を見るが、誰だかはよく見えなかった。

ただ、季節が少し過ぎた椿の香りが鼻先を掠めた。


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