第9話 後宮を作りましょう

スノーエルも終わり、新年を迎えた。

ベリル王国にも雪が沢山積もり、国民全員が雪かきに追われている中、ただ1人書斎で震えている人がいた。


ベリル王国が女王、シェルナリアである。



「さ、寒いわ!ルビン、火をもっと強く出来ないの?!」


私は、極度の寒がりだ。

思わず声を荒げてしまうのは仕方がないというもの。

許してほしいと思う。

特にこの時期は、雪が大量に降り積もり、寒さが5割増しだ。

古くから仕える執事のルビンに火を強くしてもらおうと思ったが、最大らしい。

全然、そうは感じられないのが悲しい。


「なんでこんなに寒いのかしら」


書類を見ながら思うが、このままでは手がかじかんで仕事もままならないように思える。


コンコン、とドアが叩かれ、許可する前に開かれる。

入ってきたのは先日娘の出産に立ち会いたいと休職許可を頂きに来た、マーティン・オルビスだった。


「女王陛下、本日はお願いをしに参りました」


目の前に立った、マーティン宰相。

相変わらず眉間のしわが酷い。


「貴方、先日もお願いだったわよ」


私が嫌味ったらしく言うと、マーティンは気にせず続ける。

そういう所が気に食わないのだ。

何を言われても気にしていないような所。


「では、今日も、お願いに参りました」


マーティン宰相は真面目な顔をして言い切った。


「後宮を作ってはいかがですかな、と」


5秒程沈黙が続いた。

普段はぴくりとも動かない執事のルビンでさえ、動揺したようでぴくりと動いていたのが目の端に映った。。


「そ、それは、どうしてか、伺っても?」


動揺からか、私の声もどもってしまった。


「現在、前国王の直系は女王陛下のみでございます。女王陛下がお子を成さなかった場合、この国は終わってしまいます。あっという間に大国に攻められ、沢山の死者を出すでしょう。そうならないためには、貴女様に、沢山のお子を産んで貰わなければならないのです。その点、後宮を作れば、貴女様好みの男子も見つかるでしょう」


嬉々として語るマーティン宰相がこの時ほど憎らしく思ったことはないだろう。

なぜ、そんなことをしなければならないのだ。

私の相手は自分で決めるし、1人だけを愛したいと思っている。

父上のように。

妾を作ってしまうと、兄弟の醜い争いが起きないとも限らない。

そうなって欲しくはなかった。

兄弟というのは仲良くあるべきだ。


「……。却下です」


だから、却下する。


「なぜ?」


マーティン宰相は諦めきれないのか、理由を問いてくる。


「私は私の決めた相手だけを生涯の伴侶としますわ。今回のご提案は今後の課題という形で残して下さると有り難いですわ」


ここはきっぱりと断る必要がある。

そうでなければ、他の方法で私に後宮を勧めてくる可能性があるからだ。


「そ、そう、ですか。失礼します」


マーティン宰相はとぼとぼと出ていく。

余程、孫が可愛かったのだろう。

そして、私の子供も見たいと思ったのだろうか。

その隅に、直系がいないというのも少し入っていたように感じる。


マーティン宰相の言っている事は最もである。

この国の未来は私にかっているのだ。


シェルナリアには、またまた悩みの種が増えたのだった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る