ここでニュースをお伝えします

 元々、あまりテレビは見ない方だ。

 が、1人(と2匹)で自宅に居る時は、ニュース番組をBGM代わりに流すのが習慣となっている。



 感謝祭サンクスギビング直前の先月20日。

 アメリカ食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)が『イーコライに汚染されている可能性があるので、ロメインレタスを食べないように』との警告を発表した、とニュースキャスターが真剣な表情で伝えていた。


 はて、『イーコライ』とは何ぞ? 


 英語の病名は、なかなかピンとこない。

 調べてみると、『腸管出血性大腸菌 O157(E. Coli O157:H7)』のことだった。

「食中毒のO157やね、ふーん……って、マズいやん! あれ、かかったら病院に行かなあかんヤツやん!」

 食料の買い出しから帰宅してテレビをつけた瞬間、流れていたニュースのおかげで、その日買ったばかりのロメインレタスはレジ袋から出されることなく、ゴミ箱へ直行。おかげで、我が家は被害を免れた。


 が、このニュースに、アメリカ全土が震撼した。

「サンクスギビングのディナーにサラダは欠かせないのに! レタスなしでどうしろって言うのよーっ!」

 

 ……そこかよ、というツッコミはなしで。



 全米のスーパーマーケットやレストランには、『当面の間、ロメインレタスの供給を中止し、レタスが保存されていた場所を徹底的に消毒するように』との勧告も出されていた。こうして、あっという間に、全米からロメインレタスとそれを含むカット野菜が姿を消した……


 万が一のことを考えて、相方には「外食時、生野菜は絶対に食べたらあかんよ」と念を押した。サラダ代わりに、マリネしたニンジンやセロリ、ローストしたズッキーニやサツマイモ、蒸したブロッコリーやカリフラワーで、しばらく乗り切ることにした。幸い、相方は好き嫌いが全くなく、食べたことがない物も積極的に挑戦するタイプなので、「これはこれで美味しい」とぱくぱく食べてくれた。本当に、アメリカ人にしておくには惜しい人材だと思う。


『野菜を摂取する=ドレッシングをたっぷりかけた生の葉っぱを食べる』

 そう思い込んでいる人が多いアメリカで、レタスは欠かせない食材だ。アメリカ人の大好きなサンドイッチやメキシカン・ブリトー、コブサラダにも、たっぷりとレタスが使われている。

 ロメインレタスや(日本では定番の)アイスバーグレタスをはじめ、グリーンリーフ、レッドリーフ、バターレタス(「サラダ菜」の一種)など、こちらのレタスは種類も豊富。スーパーマーケットの野菜売り場には、これら多様なレタスとニンジンやケール(火を通さない、生のまま)、ホウレンソウ(これも、生のまま)などを合わせたサラダ用のカット野菜が所狭しと並べられている。「洗わなくても、袋から出してすぐ食べられる手軽さが魅力」なのだとか。日本人の感覚からすると、袋の中身がしなしなにしなびていたり、色が変わるほどに傷んでいることが多いので、私は絶対に買わないが。



 結局、『イーコライに汚染されたロメインレタス』騒動はクリスマス直前まで続き、スーパーマーケットで彼らの姿を見かけるようになった現在でも、購入する勇気がさっぱり湧いてこない。年末にエマージェンシールームに駆け込むような事態は避けたいので、もうしばらく様子を見ることにしよう。

 


***


 

 日頃、私がBGM代わりに流しているのは、ローカルニュース番組だ。


 国土面積が世界第三位のアメリカでは、気象情報一つとっても地域差が大きい上、国内で時差がある。CNNやFOXなど大手のニュース番組を見たところで、南部バージニア州の片田舎で何が起こっているかなど分かるはずもなく。


 居住地域のローカルチャンネルを知っていれば、ピンポイントの天気予報はもとより、週末開催予定のイベント情報や話題のお店情報などもいち早く知ることが出来る。特に、就学者の居る家庭では、悪天候のために学校が休校になったり、始業時間が遅れたり、スクールバスが運行できくなった場合、テレビ画面の片隅に速報として文字情報が流される。そのチャンネルのアプリを携帯端末に落としておけば、そう言った『緊急事態』をプッシュ通知で知らせてくれるので、とっても便利。


 とは言え、ここはアメリカ。加えて、未だに人種差別に基づく貧困層の拡大と教育格差が問題となることが多い南部州バージニア。

 たまーに「へっ!?」と耳を疑うようなニュースを、とっても真剣な表情で伝えるニュースキャスターの姿を目にして驚くことがある。

 

 では、ここで最近のニュースをいくつかお伝えしよう。




【イーコライの感染を防ぐために、野菜は洗って食べましょう】 

 「アメリカでは、野菜を洗わずにサラダにする人もいる」ということだ。衛生観念が日本とは全くかけ離れている民族の中で暮らすのは、危険がいっぱいだ。カーペットを敷き詰めた屋内を土足で歩き回り、ソファーやベッドの上にも靴を履いたままの足をぽーんと乗せてしまうような国民性だから、仕方ないのだが。

 ついでに、スーパーマーケットで売り物の(洗っていない)ブドウやチェリーをつまみ食いして「美味しいかどうか」調べている人もいる。アメリカはなんでもありだ。



【食べ物は薬にもなる、と知っていましたか? 毎日、バランスの取れた食事をすることで、健康を維持することが出来るんです! ピルやビタミン剤に頼る必要もなくなるんです!】

 「医食同源」が当たり前の日本人からすれば、今更感がハンパない。



【Vapeはタバコと同じです。10代前半の皆さん、身体に有害なので、吸わないようにしましょう】

 スペアミントやフルーティーな香りの付いたリキッドを使用して「蒸気を味わう感覚の嗜好品」と位置付けられている、電子タバコ『Vape』。日本国内で販売されているリキッドはニコチンフリーなので、禁煙グッズとして注目を浴びているらしいが、アメリカで販売されているものはニコチンを含有し、タバコ同様、中毒性が高い。

 オシャレに敏感なティーンズに人気なのだが、そんなものを中学生くらいの子供が普通に購入出来るアメリカって、どうよ。



【毎月50ドルずつ貯金をしましょう。借金せずに、クリスマス・プレゼントを買うことが出来ますよ】

 アメリカ人は貯金をしない、とは有名な話だが、貯蓄額が50万円を下回る人が国民全体の80%を占めているのだとか。そのくせ、欲しい物があれば無計画に「リボ払い」で支払ってしまうのがアメリカ人。銀行口座にお金がないにも関わらず、クリスマス・プレゼントを大量に買い漁る姿は、理解不能。



【「ポーチ・パイレーツ (Porch Pirates)」の季節です。玄関に防犯用のカメラを設置することをおススメします】

 アメリカの宅配便は、届け物のパッケージをどーんと玄関口に放置して去って行く。受取人のサインが必要な場合、規定通りにドアベルを鳴らして受け取りサインを要求する律儀な係員もたまにいるが、そっちの方が珍しい。

 クリスマス・プレゼント用に購入した商品の配達量が増えるこの時期、留守宅の玄関に置きっぱなしにされたパッケージを盗むやからも増加する。そんな彼らは「玄関口の海賊ポーチ・パイレーツ」と呼ばれている。防犯カメラが捉えた映像がニュースで流されることも多く、最近では犯罪者に対する「お仕置き用パッケージ(=封を切った瞬間、防犯スプレーが撒き散らされるように仕掛けられたものもあったりする)」をわざと玄関口に置いておくツワモノもいる。

 現代の海賊に興味のある方は「Porch Pirates」でググって頂きたい。画像検索がおススメ。



【クリスマスのプレゼントを返品・交換したいあなた、よく聞いて! iPhone や電化製品は必ず箱を取っておきましょう。化粧品の色が気に入らない? レシートがあれば大丈夫! 洋服は実際に着るまでタグを切っちゃダメ!】

 「返品大国」アメリカに住んでいると、プレゼントを選ぶのに時間を掛けるのがアホらしくなる。



【パニックサタデー(=クリスマス直前の土曜日)の朝ですが、アメリカ議会では、トランプ大統領が連邦予算にメキシコ国境の壁建設費用を盛り込むことを要求。これに対して野党・民主党が反発し、議論が行き詰まる中、政府機関の一部が閉鎖される事態となっています。これが本当の『パニック』な土曜日です】

 皮肉たっぷりに最後のコメントを付け足したニュースキャスターに、喝采。

 「政府機関の閉鎖」が何を意味するか、ピンと来ない方も多いかと思うので、具体例を上げてみよう。


 国立公園管理局の管轄下にある施設は全て入場が不可能。一部の国立公園も閉鎖されているため、せっかくの長期休暇だと言うのに、ハイキングやピクニックを楽しむことが出来ない。


 ワシントンD.C.では、ナショナル・クリスマスツリーの明かりが消され、ホワイトハウスや国会議事堂の内部見学ツアーも中止されている。リンカーン記念堂、ジェファーソン記念碑、戦没者慰霊碑などの主要な観光スポットは、観光客が近づけないようフェンスが閉ざされたままだ。スミソニアン博物館も閉鎖中。アメリカ国民のみならず、外国からの観光客までもが巻き添えを食っているワケで。


 多くの政府職員が無給での業務や自宅待機を強いられている。国と国民の安全を守るために命を掛ける「アメリカ沿岸警備隊コーストガード」の隊員達は、年明けまで無給で働くことを余儀なくされている。


 『給与が支払われていない職員の大半は民主党員なんだってこと、民主党は分かってるのかなあ?』などとツイートしちゃう、おバカな大統領(=共和党員)の暴走を誰か止めて。



***



 さて、「へっ!?」と声を出して頂けただろうか。

 本当に、アメリカという国は、ツッコミどころが満載なのだ。他にも色々あるのだけれど、年末だから、このくらいで許して上げよう。


(2018年12月29日 公開)

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