彼女が失うもの

周 おと

プロローグ

彼女___佐伯奏美さえきかなみはきっと、

僕との最初の出会いを覚えていないだろう。






当時から、一般的な男子高校生よりかなり読書に情熱を傾けていた僕は、読んでいた文芸誌ではじまったばかりの小説賞の大賞受賞者が自分の高校にいるらしいという噂を読書仲間から聞いていた。




衝撃だった。


小説賞は始まったばかりということもあってささやかな規模だったけれど、大賞をかっさらったその小説はあまりに自分好みで、


きっとこの小説を好きになる人は世界にたくさんいるだろうと容易に想像がついて、





これを書く人間が、同じ高校にいるだって?





さらに驚くべきことに同学年、となりのクラスにいたその小説の作者こそ



佐伯奏美、その人だったんだ。





______



廊下から教室を覗き込んで、

あの物語を書いた君を探していた。



それが彼女の知らない

僕と彼女の最初の出会い。

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