神体コレクターの守護世界

ジェイス・カサブランカ

第一章 創世編

第1話 覚醒と放浪

 ――……始……基…骨子……選……失…再……―――

 ――……同調…環……設定…良…準備……―――

 ――……統………成功……起………


 ――……なんだこれは?……夢か?


 叫び声や囁き声とも判別がつかない、様々な声や言葉が頭の中や空間全体から、聞こえる。


 悠久の時の中の様な気がするし、刹那の間だったような気もする。


 どんな状況なのかも判別が付かない、真っ白な空間のような、真っ暗闇の空間にも感じる。


 浮いているのか……

 沈んでいるのか……


 ぼやけた頭で、そのまま微睡んでいると、目を閉じていても感じる程の眩しさを感じた。


 あれ? もう朝か……寝てたのか?


 もうちょっと寝てたいと思ったが、そうも行かない。

 いい加減起きなければと目を開けた。


 すると――



「天井が……無い!?」


 困惑である、困惑の極致と言っても良い。


 朝起きたら、知らない天井どころか天井すら無いのだ。

 目に映るのは雲一つない、真っ青な空のみである。


 慌てて起きようとして手を床へとつくと、その手には床や布団などの感触では無くガサッとした感触があり、見てみるとそこは草が生えている地面だった。


 周囲に目を向けると、辺り一面は雑草が生い茂る草原が目に映る。

 遠くには、周囲と同じ様に草の生い茂るなだらかな丘が見える。


 混乱したまま起き上がり、立って三百六十度全周囲を見渡してみると、何処を見渡しても丘、草原、丘、草原、丘、草原……


「え……何処だここ……」


 さっぱり状況が分からない。


 どうしてこうなったのかも……

 どうして此処に居るのかも……

 そして、ここが何処なのかも……


「夢……これは、夢か?」


 明晰夢という物なのだろうか?

 そう思いたい……


 だが、夢にしてはハッキリと感じる草や地面の感触、五感で感じる物がリアルすぎるし、夢の中の様なあやふやな感じもしない。


 しかし、周りの景色は現実では見たことが無いほどに色鮮やかで……

 非現実的な程までに、果てなく続く草原と真っ青な空しかない……


 そんな幻想的ともとれる風景だが、ふと何処かでこの景色には見覚えがあるような気がした。

 写真だったか……? それとも絵画だったろうか……?


 いや、そんな事より現状確認と家に帰る方法を探すのが先決だ。


 とりあえず、昨日の寝る前の状況を思い出してみようとした。


 してみたが、なんにも思い出せない……


 いや……少し違うな。


 思い出せないわけでは無いのだ。


 買ってきた漫画を読みながら途中で寝てしまったようでもあるし

 ゲームをしながら寝落ちしてしまった様でもある……


 それとも、友人と居酒屋で飲んでいて、気が付いてたら寝てしまっていた……?

 あれ? 会社の同僚だったか……?

 大学のサークルでの飲み会……?


 何時もなら、学校に行って帰ってきて……

 違う、会社に行って……バイト先だったか?


 あれ……? そもそも、俺は何処に住んでいて、何をしていたんだ?


 俺は……誰だ……?


「これは……記憶喪失というやつなのか?」


 うーん、記憶が無いというのとも違う感じがする。


 思い出そうにも記憶が混乱というか、多すぎる感じなのだ。


 思い出そうと記憶を呼び覚ますと、子供の頃、学生の頃、社会人の頃と色々な事を思い出せるのだが、どれも昨日有った事の様で、だが昔に有った様にも感じるのだ。

 しかも、充実した学生生活だったのに登校拒否だった覚えもあるし、苦労して就職をしたのに就職もしなかったようにも思える。


 頭を抱え、その場に座り込み色々と思い出してみたが、思い出せるには思い出せるのだが、どれも名前や自分自身を特定できるには至らない上に、相反する様な記憶まである始末だった。


 自身の手や体を見てみるが、自分の体だと認識はできるのだが、他人の体みたいにも感じる始末だ。


 性別は……男、だな、うん。ちゃんと付いてるみたいだし。


 暫く色々と考え悩んだが「もうこれは、どうしようも無いな」と思い、これを如何にかするには、医者などの医療機関や警察に頼むしかないかと結論を出した。


 人間諦めも肝心、答えが無いのが答えといったフレーズが頭に浮かんだが、便利な言葉だな。

 下手に思考がループして行動不能になるよりはマシだろう。


 もうこうなれば、後は行動するのみだ。


 先ずは助けを呼ぼうと思い、携帯電話だったかスマホだったかを取り出そうと、ズボンのポケットに手を入れるが、何もなかった……


 うん、まぁ、そんな気はしてたよこんちきしょう。


 財布やもろもろポケットには何も無いし、有るのは着ている白のTシャツに紺のジーンズと、ありふれたデザインのスニーカーだけか。


 これは自力で人や街を探し出して、助けを請うしかないな。


 気持ちを切り替えて、辺りを再度見回してみる。

 注意深く見まわしてみても、やはり周辺に見えるのは丘、草原、丘、草原……


 高い所から見渡してみるかと考え、現実離れした草原を歩き丘を登り、その丘の上からも見回してみても、目に映るのは丘と草原のみで、人工物らしき物が何も無い。


 やけくそ気味に、どんどん直進して行き1時間くらい歩き続けた。

 しかし、どんなに丘を登り辺りを見回しても、結局は何も見つからない。


 途方に暮れるとは、こういう事を言うのだろうか?


 まだ川や森、海岸でもいいが見つかれば、それらに沿って進めば道や橋などにたどり着けると思ったのだが、それすらも見つからない。


 引き返した方が良いだろうか?と思い、来た方向を見てみたが、これもまた特徴がない丘と草原の風景で、方向すらも分からなくなってきてしまった。


 迷子……この齢で迷子か……いや、自分が何歳かも分からないんだけど。


 それよりもだ、今はまだ疲れや空腹も感じないし喉の渇きも大丈夫だが、このまま無計画に歩いていては行き倒れてしまうかも、との考えが頭に浮かび少し怖くなってきた。


 とにかく向かう方向だけでも決めようと、無い知恵を振り絞り、方角を調べる方法を考えてみたが。


 切り株の年輪……一面に有るのは草だけでそんな物は無い。

 岩などに生える苔……岩などもさっぱり見つからない。

 太陽の位置と影ならと、空を見上げてみたのだが……


「太陽が……無い?」


 見上げた雲一つない青空には、太陽が無かったのである。


 なんで、こんな異常に今まで気が付かなかったんだと少し自分に呆れた。

 だが、そもそも日頃から太陽なんぞ意識して生活なんかしてないよね?との考えに至り、自分を正当化して落ち着いてみた。

 切り替えが大事だ。


 これは……現実ではないな。うん。


 足元を見てみると、真下に自身の影は有るのだが真上にはなんの光源もない。

 周りの景色は無限ループのような草原と丘のみ。

 夢か何かだと考えれば、状況の説明も付くし、脱出の方策も思いつこうという物だ。


 しかし、頬を抓ってみたり、目を閉じ「これは夢だこれは夢だ」と念仏のように唱えたり、色々と夢から覚める為の行為を試してみたが駄目だった。


 それ以前に、先程まで歩いていた間だけでも、体感時間ではあるが1時間くらいは経過しているのを感じている。

 夢だとしても、夢を見ている時はもっとあやふやで、ここまで時間の経過や場所の質感を感じた経験ははない。

 しかし、記憶の混乱や状況の不思議さは夢の様だ。


 夢なら夢で、すでに目覚めてもいい頃合いだし……


 無いとは思う……無いと思いたいが……


 異世界などファンタジーな不思議空間に来てしまったのだったら?


 それはそれで、何と言うか……

 もう少し、冒険や出会い繋がる様な、人物や物があって良いはずだろ……


 そんな得体も無い事を考えながら、解決策もさっぱり見つからないまま途方に暮れ、草の生い茂る丘の上で座り込みぼーっと景色を眺めてると、前方の草原の中心に何かが有るのに気が付いた。


 ここに来て初めての異物である。


 駆け足気味に近づいてみると、そこには――


――「パソコン…?」

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