童話の旅人

赤田 沙奈

プロローグ、そしていつもの冒頭

童話とは語り継ぐものであろう。


ならばそこには語り手と聞き手がいるだろう。

語り手は誰に語るであろうか。

愛する我が子?

それとも小さなお客さんでもいるのだろうか?

聞き手は何に想いを馳せるだろうか。

勇敢なる大冒険?

それとも白馬の王子を待つ姫君だろうか?

無論、幼き語り部の物語に耳を傾けるのも良いだろう。

揺りかごのように揺れるその世界は希望に溢れ夢が満ちているのであろう。

なんと優しく微笑ましいものか。


しかしそこには耐え難き苦難や残酷なる悲劇が待ち受けていよう。

だがそれでも、この物語達に孤独が襲い来ることはなかったろう。

彼らの物語の傍には誰かがいた。

その苦難を見守る親であったろうか。

その悲劇に共に立ち向かわんとする子であったろうか。


或いは彼らの物語を紡いでくれたモノがいたであろうか。


或いは彼らの物語を聴き届けてくれたモノがいたであろうか。


故に綴ろう。

これは一人の英雄の物語ではない。

これは一人の姫君の物語でもない。

これは数多のモノが紡ぎ、数多のモノが聞き届け、そして語り継がれた物語。

夜空に煌めく星の数程の物語が折り重なった物語、その一端。

あるモノは果てなき旅の一族であったろうか。

またあるモノは神秘を継ぐ巫であったろうか。

別のモノは異界に迷い込んだ少年であったろうか。

はたまた世界を創った伝説もいたであろうか。


或いはそれは貴方かもしれぬ。

貴方がこの物語に心を馳せ、また新たな物語を紡がんとする一人であらんことを。

貴方とこの物語が祝福で満ち溢れんことを。


さて、そろそろ語るとしようか。

ならば出だしはこうだろう。



「昔々あるところにーーー

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