第11話 梅宮先輩の気持ち

「ねえ胡桃沢くん。」


「なんだ吉丘。」


今俺たちは吉丘の家に向かっている。お兄さんに会うために。


「なんかすごい見られてるんだけど。」


「気にしたところでもう遅い。」


今俺たちが歩いているのは学校から駅までの帰り道。その帰り道を吉丘と一緒に帰っているのだ。


「え!胡桃沢くんが女の子と帰ってる・・・生徒会の人じゃないみたいだけど・・」「同じクラスの子かな?もしかして・・彼女?」「胡桃沢先輩に彼女がいたなんて・・」「そんな噂全然なかったのに・・」「何話してるんだろ・・・?」


俺はなかなか有名だからそれなりに他クラス、他学年の人たちに顔を知られている。この騒ぎは多分いや確実に俺と吉丘が一緒に帰っているからだろう。


「だから言ったじゃん!絶対一緒に帰ったら変に思われるって!」


「そんな人の目ばかり気にしていたらお兄さんのことなんて解決できないぞ。」


「それ関係なくない?胡桃沢くん、おっぱいタイムの時は装備やばいのにこういう時はあんまり気にしないんだね。」


「おっぱいは別だろ。今は俺が誰と一緒に帰ろうが俺の勝手だろ。いちいち気にしていられない。だいたい同じ目的地に行くんだ、一緒に帰るのは普通だろう。」


「まあそれはそうだけどさ。でも一応胡桃沢くんモテるんだからさ、あとあと面倒になると思うよ。頑張ってね胡桃沢くん。」


「その時はその時だ。」


変に噂を立てられたら全部否定すればいい。面倒なことになんてそうそう起こることなんてないだろう。そんなことよりもまずはお兄さんだ。

実際家に行ってお兄さんに会ったところで、話しを聞いてくれるかも微妙なところだが、会って言うべき事は言わないといけないからな。


駅につくと


「かなこと胡桃沢くん?」


「あ、咲良先輩!」


梅宮先輩に会って一緒に電車に乗り、昨日あったことを話した。


「そっか、昨日そんなことがあったんだね。だから結今日は一段と沈んでたんだ。 ごめんね・・あたしが変な相談したから・・」


「謝らないでください!先輩は何も悪くないんですから。それでなんですけど、兄が梅宮先輩を避けてる理由が


「理由はまだわかっていません。」


「胡桃沢くん?!」


「そっか・・あんなにずっと避けてて理由も言ってくれなかったんだからそう簡単に言わないよね・・」


「でもこれからちゃんと調べて理由が分かったらすぐ梅宮先輩にお伝えします。まだお役に立てず、すみません。」


「いやいや!そんな謝らないで!私も明日ちゃんとまた聞いてみる。ありがとね、胡桃沢くん。」


梅宮先輩との会話が終わると吉丘が俺に小声で言ってきた。


「ちょっと胡桃沢くん、なんで本当のこと言わないの?お兄ちゃんが避けてる理由は」


「多分その理由は確実だと思うが、まだお兄さんに確認が取れていない。それに、理由はお兄さんが直接梅宮先輩にいうべきだ。ここまで避けつづけて、人から聞いた話で、はいそうですか、で収まる理由じゃないだろ。」


「・・たしかに。あのクソ野郎の口からちゃんと言ってもらわないと咲良先輩も納得できないか。」


おっぱい野郎からクソ野郎になったな。お兄さん、どんどん妹の評価が下がっていますよ。


「・・咲良先輩、今日も兄はだんまりですか?」


「そうだね。全然話せなかった・・」


悲しげな表情の梅宮先輩。


「・・・・・咲良先輩はなんで兄のことを好きになったんですか?」


「う"っ!か、かなこいきなり聞いてくるね・・」


「ずっと気になってたんです。なんで先輩みたいな可愛くてモテる人が兄のことを好きになったのかなって。」


「ん〜〜、なんていうかなぁ。わかんないけど・・本能的にかな・・?笑」


「本能なんてありえません。あんなクソ野郎を好きになるなんて相当な理由があるはずです。」


「かなこ、結と仲悪かったっけ・・?んー好きになった理由と言われると難しいなあ。これってことはなかったけど、きっかけになったのは中学で一緒の委員会だったことかな。」



【回想】


委員会に遅れてきたあたしは座る席を探していて、ちょうど空いてた同学年の顔は見たことあるけど名前は知らない男子の隣の席に座った。それが結だった。


「となりいいかな?」


「どうぞ。」


「は〜間に合った。今日って筆記用具だけで大丈夫だよね?他に必要なものとかってないよね?」


「大丈夫だと思います。俺も筆記用具しか持ってきてません。」


「・・・同学年だよね?」


「そうですけど。」


「なんで敬語なの?笑」


「話したことないし、人見知りなので。」


「なにそれ笑 いいよタメ口で。」


「いやなんか、慣れてないのでこのままでいいです。」


「え〜」


なんか壁を作られてるみたいでちょっとモヤっとしたから、あたしはこの男子が敬語を使わなくなるまで話しかけまくろうと思った。


「ねね!今日も隣いい?」


「・・いいですけど。」


「名前なんていうの?あたしは梅宮咲良。」


「・・・吉丘結です。」


「また敬語だ〜まあいいけどさ〜〜、今日ね・・」


あたしは委員会があるたび結の隣の席に座り、声をかけ続けた。


「よ!結!」


「・・梅宮さん」


「梅宮でいいって言ったじゃん!も〜、さん付けで呼ぶの先生以外に結だけだよ〜笑」


あたしと結は徐々に話すようになっていった。そしてだんだん結の人見知りはなくなり、敬語では話さなくなった。


「梅宮、お前頭いいんだな。テスト上位者の名前張り出されててお前の名前見つけたぞ。」


「あ〜見つけちゃったか〜、あたし意外と頭いいんだよ?教えてあげよっか勉強。」


「え、まじで。教えて欲しい。俺赤点一個あってさ次赤点とったらやばいんだよね。」


「しょうがないなぁ〜頭のよろしいあたしが教えてあげよう。」


「・・なんか腹たつな。」


話すにつれて仲良くなっていったのはお互い分かっていた。

そのころに2年の委員会は終わりを迎えようとしていた。


「ねぇ結、次の委員会なにやるの?」


「んーまだ決めてない。・・梅宮は?」


「あたしは・・またこの委員会にしようかな。作業も簡単だし。結とも話せるしね!」


「・・・次は一緒になるかはわからないぞ。」


「え〜一緒にまたこの委員会入ろうよ〜」


「まあ・・やるやつがいなかったらな。」


「えーなにそれ笑」


あたしはこの時点で徐々に結に惹かれ始めていた。話していて楽しくて、たまにつれないところもあるけどそこがなんとなくかわいくて、おもしろくて、もっと話していたいと思った。


3年になりあたしはまた同じ委員会に入った。

それは結も同じだった。


「あれ!結!」


「よお梅宮」


「また一緒だね!嬉しい!」


「・・・おお、一緒だな。」


あたしと結はまた三年でも同じ委員会で仲を深めていった。

委員会じゃない日もたまに会って話すようになり、久我やあたしの友達を含めて遊ぶようにもなった。

結と一緒にいれる時間が増え、結のことをいろいろ知ることができた。良いとこも悪いところも。

もっと知りたいと思った。


そして高校に入り、結と同じクラスになって、あたしは行動をした。


「ねぇ結。」


「梅宮?なんだ?」


「たまにさ、一緒に帰ったりとかどうかな。あれだよ!いろいろ結と話したいことあってさ!結おもしろいし!」


「・・・友達と帰らなくていいのか?」


「帰るよ!でも一人で帰る時もあるからさそのとき一緒に帰るのはどうかなって・・」


「・・俺は部活もやってないし暇だから・・まあ別にいいぞ。」


「え!ほんとに!やった!じゃあね・・明日!明日一緒に帰ろ!」


「早速だな笑 いいよ、帰ろう。」


結の優しく笑う顔を見てすごくどきっとした。

どうしようもなく好きだなって思った。

結はたまに一緒に帰ってくれた。二人きりになることはあまりないから少しでもその時間が増えてとても嬉しくてどうにかなりそうだった。


そうこうしているうちに毎日毎日少しずつ結への気持ちが強まっていった。

あたしが話してるとき楽しそうに笑う顔も、ちょっとした気遣いをしてくれるところも、たまに優しいところも、優柔不断なところも、頼まれると断れないところも、普段は素直なのに変なところで素直じゃなくなるところも、意味わかんないくらい一緒にいて楽しいとこも、全部だいすきだなって思った。


でもこの気持ちを結に伝えることはまだできなかった。

断られたらどうしようと、臆病になっていたからだ。もしかしたら付き合えるかもしれないと自分を勢いづけて、告ろうとしたこともあった。でも断られて変な関係になるのも嫌だと思ったし、結ともっと一緒にいたかったから言えなかった。だから高校最後の日にでもはっきり言うつもりだった。

まさかあの喧嘩のとき久我に言われるとは思わなかったな笑。

久我は勘がいいから全部分かってたのかな。

あんな風に言われるならさっさと告っとけばよかったな・・・



【回想終わり】



「って感じかな。うっわ恥ずかし〜〜W」


「咲良先輩そこまでお兄ちゃんのことを・・!これは絶対あのクソ野郎を殴らないといけませんね!」


「吉丘、暴力はだめだぞ。」


「まあそんなこんなだよ。今では全然喋れてないけどね笑」


「咲良先輩!絶対なんとかします!だから兄をまだ好きでいてください・・あいつのことこんな風に思ってくれる人そういないです・・!もう現れないかも・・!」


「あはは。大丈夫だよかなこ。あたしはまだ・・・す・・・きだから・・・・・」


梅宮先輩は照れながらその言葉を口にした。

本当にお兄さんのことが好きで仕方ないんだろう。


梅宮先輩は俺たちとは違う最寄駅なので、途中で降りていった。


「胡桃沢くん。咲良先輩が私のお姉ちゃんになるなんて嬉しい限りだよ。」


「おい、早いな、展開。まあ、どうなるかはお兄さんの行動次第だな。」


吉丘家にて


「よ、吉丘。ノックしてくれ。」


「え、もしかして胡桃沢くんビビってるの?」


「は、ビビってるわけではない。警戒してるんだ。」


「そりゃビビるか。昨日お兄ちゃんすごい迫力だったもんね。」


「だ、だからビビっているわけではない。少し恐れを感じているだけだ。」


「恐れを感じるって・・わかったよ。・・いくよ。」


「ああ。」


コンコン


「はい」


「ほら行け吉丘!」


「ちょ!押さないでよ!」


ガチャ


ドアが開くと、パソコンをいじるいつもの定位位置にお兄さんはいた。


「・・・・・・胡桃沢・・・」


「・・こ、こんにちは、お兄さん。お邪魔しています。」


お兄さんは初めて会った時と同じような顔をして俺を見ている。


くっそ気まずいよ・・・・!!

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