第9話 その顔に俺は弱い

ゲーセンにて


「なぁ吉丘。」


「何?」


「お兄さんはどうして梅宮先輩を避けてると思う?」


「うーん、出来るだけひとりでいたいからかな?でもそれだけで避けるかな?」


「そうなんだよな。梅宮先輩以外には話しかけられたら普通に話してるらしいからな。主に必要最低限の会話だけど。」


ウィーンウィーン ガコン


「よし。なぁ吉丘。お兄さんが人を信用できるようにする手伝いって具体的にどうすればいいと思う?」


「うーん、人の気持ちをどうこうするのってすごく難しいよね。手伝う前にお兄ちゃん自身が人に対する気持ちを変えようって思わないとうまくいかないと思う。」


ウィーンウィーンウィーン


「まぁ胡桃沢くんならうまくやれる気がするよ。」


「だからお前は俺を過信しすぎなんだよ。」


ウィーンウィーン ガコン


「ねぇ胡桃沢くん、何個取る気なのそれ。もう10個目だよね?」


「まだ10個しか取ってないだろ。あと12個取らないといけない。」


「え、あと12個も取るの?そんなにいるそれ?」


「当たり前だろ。2個はお兄さんの分、20個は俺の枕元に敷き詰めるんだから。」


「うわー・・・」


ウィーンウィーン ガコン


「ずっと思ってたんだけど、そのかつらとサングラス何?」


「これは変装だ。たまたまここに来た天橘院の生徒に見られて、『胡桃沢が目を爛々とさせておっぱいのUFOキャッチャーやってたぜww』、とか言われて写真でも撮られたらどうする。とぅいったーで拡散されたら終わりだぞ。」


「も〜気にしすぎだよ。UFOキャッチャーでおっぱい取ってるくらいで。」


「俺が欲望むき出しでおっぱい取ってる光景どう思う?なかなかやばいだろ。気にしすぎるくらいがちょうどいいんだ。気にしないで面倒なことに巻き込まれたくない。」


ウィーンウィーン ガコン ガコン


「じゃあ、変なかつらとサングラスつけた人がおっぱいUFOキャッチャーやってるのを、横でたくさんのおっぱい持ちながら見てる私はとてもやばいやつだね。」


「ああ、そうだな。吉丘も気になるなら変装グッズを持ってきたほうがいいぞ。どんなやつが見てるかわからないからな。」


「絶対誰も見てないでしょ。てかやっぱり胡桃沢くんうまいじゃんUFOキャッチャー。やったことないなんて思えないくらいプロ並みのうまさだよ。」


「吉丘がやってるとこを、いろいろ考えながら見てやってみたらコツを掴んだんだ。案外コツをつかめば簡単にすぐ取れるもんだな。」


「それお兄ちゃんに言ったら怒られるよ。」


ウィーンウィーン ガコンガコンガコン


「よし。取れた。袋に詰めていくぞ。」


「はーい」


俺たちは店員に温かい目で見守られながら、ゲームセンターのでかい袋にゲットしたおっぱいクッションを詰めて持ち帰る。



吉丘家にて


俺たちはたくさんのおっぱいを持って、お兄さんの部屋の前に立っている。


「お兄さん喜んでくれると嬉しいな。」


「喜んでもらえると思うよ。同時にお金の心配もされると思うけど。」


コンコン


「はい。」


ガチャ


「お兄さん!見てください!このおっぱいたちを!!!!」


「うわ!胡桃沢か。おおおお!おっぱい!!」


「どうぞお兄さん!二個くらい欲しいなって言ってましたよね?なのでお兄さんの分2個取ってきましたよ!」


「お兄ちゃんのために胡桃沢くんが取ってくれたんだよ。」


「おお!まじか!それはありがとうな!胡桃沢!・・・お金はいったいどのくらい・・?」


「二回で取れましたから200円ですね。」


「二回で取れたのか?!さすがだな胡桃沢・・」


おっぱいを嬉しそうに抱きしめるおっぱいお兄さん。


「よかったね、喜んでくれて。」


「ああ、とても満足だ。」


抱きしめてからお兄さんは


「さっきはごめんな、急に先に帰って。」


「ああ、良いんですよ。気にしないでください。それでお兄さん。」


「なんだ?今日は何のおっぱいゲームをやろうか?それともdvd?」


「いえ、その前に聞きたい事があるんです。」


「・・・なんだ?」


「なぜお兄さんは梅宮先輩を避けているんですか?」


もうここは遠回しに聞くのではなく率直に聞いたほうが良い。


「・・・・避けてるか?そんな風にしてるつもりはなかったけどな。」


「もう咲良先輩から全部聞いたんだよ?お兄ちゃんが友達と喧嘩した理由もクラスで一人でいる事も。咲良先輩を避けてる理由はまだ分からないけど。どうして避けてるの?」


「・・・・はぁ。もう全部知ってるのか・・。・・・別にお前たちには関係ないだろ。」


「関係あるよ。咲良先輩は部活でお世話になってる先輩だよ?先輩、お兄ちゃんが避けてる理由がわからなくてすごく悩んでる。ちゃんと訳があるなら話してよ。」


お兄さんは少し言うのを躊躇っていたが、吉丘がお兄さんを問い詰めたので、渋々話し始めた。


「・・・・・・・あんな事があって俺あの時変に目立ってたんだ。だから梅宮が俺と一緒にいるのはちょっと良くないかなって思ってさ。梅宮は誰とでも仲良くできて本当に良いやつだからさ。俺と一緒にいて変な事に巻き込みたくなかったんだ。・・だから避けてた。」


そう言うと思ったよお兄さん。


「なんだ。そんな理由があるならなんでそれを咲良先輩に言わないの?」


「言ったら、あいつ、そんな事ないとか言ってもっと俺と一緒にいようとするだろ。」


「いいじゃん。一緒にいたって。それにあの騒動の事でお兄ちゃんが悪いなんて誰も思ってないって咲良先輩言ってたよ?だから先輩はお兄ちゃんが思ってるような事には巻き込まれないし、先輩が嫌われたりする事もない。だから避けないでよ先輩の事。」


「・・・・ごめん、でも一緒にいて大丈夫だっていう確信も持てないし・・あいつには迷惑かけたくない・・」


「お兄さん、もっと違う理由があるんじゃないですか?」


「え?」


「巻き込みたくない?一緒にいて迷惑をかけたくない?梅宮先輩は自分が一緒にいたいからお兄さんのところにくるんですよね?それはもう先輩の自己責任じゃないですか。」


「そ、それは、そうだけど・・俺はあいつが」


「梅宮先輩が心配だから・・・なんて思ってませんよね。」


「・・・そんなこと、、!!」


「だってお兄さん、他の人が喋りかけてきたら普通に話してますよね。そこで話す人のことは心配じゃないんですか?」


「梅宮は・・!俺の中学からの大切な友達だから・・だから・・」


「大切な友達だからこそ避けるなんて俺には考えられません。梅宮先輩はそれで傷ついているんですよ?」


「・・・」


「その大切な友達を傷つけてまで避け続けるなんて、変じゃないですか?」


「・・・」


「だいたいその騒動の原因だってあまり知られてませんよね。主に殴りあったことだけがクラス内で広まった。でもそれは理由があったとちゃんと梅宮先輩がみんなに証言したと言ってました。だから誰も何も思ってないんですよ。梅宮先輩がお兄さんといたって何も思わないし、何も起こらないんですよ。それはもう随分前から分かってますよね?」


「・・・・・・・」


もう言い逃れはできないぞお兄さん。

もっと違う理由があるはずなんだ。なんなんだ避けている理由は。梅宮先輩が困る理由じゃないとしたら、もしかして・・・


「・・・本当は、梅宮先輩を避けていないとお兄さんが困るような理由がある、、とか?」


「!!」


明らかにお兄さんの顔に驚きの表情が見えた。


「・・・・・・・・・何もかも分かったような事言ってんなよ!完璧にこなして誰にでも好かれて女の扱いまでうまいお前に何が分かるんだよ!!」


「!」


「どんな問題がおきても立ち向かっていけるようなお前には、俺がクラスで一人でいるのもクソみたいな理由だなと思ってんだろ。お前は友達に裏切られたことなんて一度もなさそうだもんな。」


「それは・・・」


「ちょっとお兄ちゃん!」


「梅宮を避けてる理由だって・・・・・・。」


「・・・」


「どんなやつにでも真正面から向き合えるお前はすごいと思うよ。でもだからこそ梅宮を避けてる俺の気持ちなんてお前には分かるわけないんだよ・・。」


「・・・・・・」


「わるい。今日は帰ってくれ。・・・おっぱいありがとな。これ200円。」


「・・・・・・吉丘、俺帰るよ。」


俺はお兄さんから200円を受け取り、部屋を出て行く。


「胡桃沢くん!」


やっぱり俺はああいうタイプは苦手だ。

というかそもそも合わないのかもしれない。

なんだよお前にはわからないって。分かるかよ。分からないから憶測で言うしかないだろ。

俺が真正面から向き合える?何を見てそんなこと言ってんだよ。たった一週間ちょっとの付き合いで・・

俺はまた


「ちょっと胡桃沢くん!」


ボヨヨヨンッ


「うおっっ」


俺の頭に重量感がありそれでいて柔らかい何かが


「忘れてるよ!この大量のおっぱい!」


吉丘は俺がUFOキャッチャーで大量にとったおっぱいが入った袋を頭にぶつけてきた。


「・・・吉丘。」


持ってきてくれたのはありがたいが頭に勢い良くぶつけるなよ。危うくバランス崩しかけたぞ。ここ階段だし。


「胡桃沢くんでも落ち込むんだね。」


「俺をなんだと思ってるんだよお前は。」


一階に降りていく。


「・・・お兄ちゃんのこと嫌になっちゃった?」


「別に、俺は・・・」


「・・俺の気持ちは分からないって、そんなの当たり前だよね。人の気持ちなんてちゃんと理解できるほど単純なものじゃないもん。」


「・・・。」


「ほら、これを揉んで元気出してください。」


吉丘から大量のおっぱいを手渡しされる。


モミモミ・・・


いい揉み心地だ・・


「なんかごめんね・・・せっかくお兄ちゃんと仲良くなれてたのに・・」


「なんで吉丘が謝る。・・別に誰が悪いわけじゃないだろ。」


「でも・・。私が胡桃沢くんならなんとかしてくれそうだからって半ば強引にお兄ちゃんの問題に巻き込んじゃったからこんなことに・・」


「いや、解決した方がいいと俺も思ったからさ・・」


確かに半ば強引ではあったけれども・・

吉丘はしょんぼりして申し訳なさそうにしている。

なんでそんな悲しそうな顔するんだよこっちまで悲しくなってくるじゃないか・・・・・・・・ああもう!


「〜〜!心配するな吉丘。ちゃんと解決してお兄さんとも仲直りする。だから明日からすることを精一杯全力で一生懸命協力しろ!」


「胡桃沢くん・・ありがとう」


「俺だって・・・!俺だって・・・・!!お兄さんと・・このままだなんて・・納得いかない・・!もっとおっぱいの話がしたい・・・!!!おっぱい・・・・!」


「胡桃沢くん、、、なんか顔やばいよ・・・」


合わないかもしれないと自分を納得させようとしていたがやっぱり無理だ。

俺はお兄さんの抱えてるいろんなことを解決したいし、本当のことを知りたい。しっかりお兄さんが梅宮先輩と向き合って全て終わった後にまた一緒におっぱいしたい・・・


「吉丘、明日久我のところへ行く。お前も来い。」


「うん。わかった!あと久我、先輩ね。」


もうあの状態ではお兄さんに直接避けてる理由は聞けないだろう。俺たちで考えるしかない。考えるには情報が必要だ。久我がちゃんと話してくれるかはわからないが、聞くしか方法はない。お兄さんと一番仲が良かった久我にしか知らないお兄さんのことを。


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