第22話 灯台下暗し

二人はここで昼食を食べてから、再び馬に乗る。

 今度は馬上に押し上げてくれる人はいないが、ちゃんと乗れた。

 オーレルに引き上げられる時に変にジタバタせず、首を掴まれた猫のように身を任せるといいらしい。

 視線が高くなると、枯れた大地の向こうに村が見える。

 あの村も丁度「魔力の道」の上だ。


 ――魔力が逆流するのは、なにが原因なの?

 ヒカリは大地に感じた魔力の流れの先を眺める。

「ねえオーレル、こっちに真っ直ぐ行くとなにがあるのかな?」

尋ねられたオーレルは、ヒカリと同じ方向に視線をやる。

「村がある以外、特にはなにも……、いや待て」

なにかに気付いたらしいオーレルが、腰に下げた袋から折り畳んだ地図を出した。

「街道に沿ってではなく直線でということなら、真っ直ぐ先にあるのはヴァリエの王都だ」

ずっと仲が悪いという、隣の国の王都。

 それが「魔力の道」の先にある。

 ――なぁんか、気になるなぁ……。

 偶然というにはモヤモヤする事実に、ヒカリは眉をひそめる。

「関係あるはずがないが、嫌な偶然だな」

オーレルも同じような感想を抱いたようで、ポツリと呟いた。


 それから馬を走らせ、時折ヒカリが下りて地面に杖を立てることを繰り返す。

 そうするうちに、ようやく魔力が正常に流れる道を見つけた。

「うん、ここから向こうは無事そう。きっと薬草の群生地もあるよ!」

ヒカリが太鼓判を押したそこは、すでに砦の近くだった。

「……本当だろうな」

場所が場所なだけに、オーレルは怪しむ顔をする。

だが灯台下暗しと言うではないか。


「いいから、探すよ!」

ヒカリは疑いの眼差しのオーレルを杖で突きつつ、捜索開始だ。

「おいあれ……」

「副隊長じゃないか」

「なにしてるんだ」

絵本の魔女ような杖を持つ娘と副隊長の二人組は、正門を出入りする人々から不思議そうに見られる。

 が、それを気にせず薬草の群生地を探す。


「こんな目と鼻の先にあれば、すでに誰か気付いているんじゃないか?」

「そこ、文句が多い!」

オーレルが少々愚痴っぽいが、地道に草の根を分けて捜索するうちに、だんだんと鬱蒼と木が茂る場所へと入っていく。

「おい、もう無理なんじゃないのか?」

オーレルが諦めるような発言をした時。

「あった!」

ヒカリはとうとう見つけた。

「なに?」

離れた場所で当てなく草を千切っては捨てるのを繰り返していたオーレルが、慌てて寄って来る。


 ヒカリは発見したそれを根っこごと掘り起こし、しげしげと見る。

 群生しているらしく、周囲には同じものが雑草に混じって一面に生えていた。

 この薬草は葉に毒素を、根に効能を溜めるのだ。

 ――師匠に貰った図鑑を見て、この妙な形がアレに似ていると思って覚えてたのよね。

 帰ったら早速図鑑を引っ張り出して、もう一度調べたい。

 ヒカリがニマニマしていると、オーレルは何故か怒り出した。


「馬鹿かお前、これは毒草だろうが!」

怒鳴りながら頭グリグリの体勢に入られたので、ヒカリはさっと頭をガードする。

「これ、毒なのは葉っぱ、薬に使うのは根の方!」

ヒカリがずいっと示したそれは、太くてゴツゴツした根っこだった。

 その見た目は、まさしく漢方薬で良く知られる人参だ。

 確かに初めて見ると、奇怪な形にギョッとするかもしれない。

「これで疲労回復に滋養強壮の薬が作れるよ」

ヒカリの説明に、オーレルが絶望したような顔をした。

「こんな怪しい見た目の物が、毒じゃないというのか……」

「むしろ、今まで使っていた薬草よりも上等物だからね」

まだ信じられない様子のオーレルに、ヒカリは重ねて言う。


 他にもあるかと探すと、奥で土手になっているあたりで反応があった。これも根っこから掘り返すと、太くて茶色い、ゴツゴツしたグローブのような物体が現れた。

 どんなものなのか試しに割ってみると、中は白くて割目がネバっと糸を引く。

「……これ、もしかして山芋?」

他にも様々な薬草が発見された。むしろあの枯れた群生地よりも種類が多い。

 その全てが何故か根菜類だったのは、この群生地の特徴かもしれない。

 それにしても、どうしてこんな近い群生地を見逃していたのか。

 ――もしかして、違う薬屋が使っていた場所だったとか?

 今はサリアの街に薬屋が一軒しかないが、過去には他に店があったのかもしれない。

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