第5章:女帝爆誕

第27話:a fact of life

「オレとしたことが……迂闊だったぜ……あのマシンは5年以上前のシャーシ、しかも相当走り込んでネジがバカになる程のマシンだったんだ。あれだけ練習で酷使した後、リジッドでデジタルコーナーに突っ込めば破損する可能性は考えられたじゃねぇかよ……」

「みかどさん、今日学校に来てないみたいです……大丈夫なんでしょうか……」

「あいつの口からもうダメだ、なんて……あんな言葉聞いたことないからな……帰りにでも様子見にいこうぜ」


 お昼過ぎ。

 学校を休んだみかどはひとり、お宝@マーケットにて壊れたマシンのパーツを眺めていた。


「お兄さんの手がかり……このマシンじゃなきゃダメなのに……壊れちゃったよ……もう……もうダメだよ……」


 彼女には、膝に手を置き、涙ぐみながら、マシンを眺めることしか出来なかった。

 そんなとき、お宝@マーケットにある男が来店する。


「おや、そのマシン……パールホワイトにメタリックレッドのライン、すばるのスーパーエンペラーじゃないですか?」

「えっ……」


 黒い大きなハットを深めに被り、黒いトレンチコートを羽織った長身の男性。

 暗いサングラスをかけているせいで表情は読めない。

 ただよく見ると肌の白さ、ブロンドヘア、と外国人のようだ。


「あなたは……すばるを知ってるんですか?」

「いえーす。私はすばると同じレーシングチームにいました」

「チーム……ミニ四駆の?」

「のーのー、ラリーカーです。本当の車のチームです」

「……レース、してたんだ……」


 話を聞いてみると、彼の名前はジョニー。

 関西の草ラリーチームで一緒にレースに参加していたそうだ。


「それじゃ……彼はいま関西に?」

「いえ……いまはたぶん……オーストラリアです」

「おーすとらりあ!?」

「すばるは海外のチームにスカウトされて旅立ちました。ラリーレーサーとして世界を転々と渡り歩いているはずです」


 あまりの急激な展開で脳が回らない。


「あの、えっと、連絡は……取れないんですか……?」

「それが、半年くらい前から音信不通なのです。なので日本でよく行っていたと聞いた、この店にいるかと見に来たのですが……でもなぜ、あなたがすばるのマシンを?」

「あたし……すばるの妹です、あたしもお兄さんを探しているんですが……」


 事の顛末を話す。


「おーぅ、そんな話聞いてなかったよ。あいつ何にも言わないからねー……」

「無口ですよねwお兄さんらしいです」

「しかし、ミニ四駆、壊れてしまいましたか」

「はい……昨日のレースでコースアウトしてしまって。お兄さんへの手掛かりがなくなってしまって……どうしたらいいか……」


 また涙ぐんでしまうみかど。


「大丈夫、大丈夫よ。マシンはまた作ればいいのです」

「でもこのマシンじゃなきゃ……お兄さんに見つけてもらえないかも……」

「みかどはすばるをどうやって見つけたのですか?」

「……会場の……後ろ姿が……」

「ほら、後ろ姿でもわかる。兄妹の絆はもちろん、ミニ四駆も大事、だけどそんなものだけじゃないでしょ」

「……」

「よぉし、ちょっと待っててね」


 そう言うと、ジョニーは店の中をなにやら物色しそそくさと購入している。


「はい、みかど、これあなたにプレゼントします。お会いできた印として受け取ってください」

「……そんな、悪いです……」

「ミニ四駆をつづけていれば、きっと会えます。車が大好きで、ミニ四駆も大好きなすばるのことです。このコースは小さなコース。でも、きっと、すばるの元にも続いているはずだから。まだミニ四駆を楽しむ心が少しでも残っているなら……続けてみてはどうですか?」

「……」


 ジョニーが選んでくれたマシンは「ライズエンペラー」。


「これも……エンペラー……なんですか?」

「そうです、知ってますか?みかどって名前は「帝」とも書けるんです。この字はエンペラーという意味ですよ。あなたはきっと、エンペラーに導かれている人なんです、Don't you think so ?」

「エンペラー……」

「それとこれもセットに。強化MSシャーシのホワイトです。これで作ればもっと頑丈な、壊れにくいマシンになります」

「……ありがとう、ジョニーさん。あたし、もう少しがんばってみます」

「おーぅ!よかった。すばるのマシン、壊れてしまってもまだまだ使えるパーツも残っています。それらも流用して、すばると、みかどの、新しいマシンを作るといいです」

「はい!なんだか元気でてきました!ありがとうございます、ジョニーさん」

「うんうん、あ、ジョニーでいいよ。そうだ、私のマシンもお見せしましょうか」


 そこに火野の大声が割り込んだ。


「あ、みかど!」


 呼ばれて振り返るとミニ四駆部部員たちが来ている。


「なんだよ、家じゃなくってお宝にいたのか。こないだの勝負、オレたちがマシンの老築具合を気づいてやれなくって……すまねぇ」

「もぉぉ、ホント!あったしたち、先輩なのに情けないわ……」

「そんな、部長たちが悪いんじゃないから、気にしないで。あたしはもう、大丈夫だから」

「大丈夫って……ん、あんた誰だ?」

「私?ジョニーだよ」

「この方はお兄さんのお友達のジョニーさん。いろいろよくしてもらって……元気づけてもらっちゃいました」

「この子たちは学校のお友達ですか?みなさんもミニ四駆の仲間で?」

「おぅ!オレたちはチームメイトなんだ。ジョニーさんもレーサーなのかい?」

「うん、マシンみてみるかい?」


 そう言ってがさごそとマシンを取り出す。


「なんだこの……逆さアバンテ……バンパーが……ない……?」


 エアロアバンテのポリカボディを前後逆につけた異様なシルエット。

 フロントバンパーが切り取られ、タイヤがむき出しの状態になっていた。

 そしてサイドにローラーが張り出し、独自のギミックにつながっている。

 また、フロントバンパーが無い分、テールユニットがめちゃくちゃ長い。


「こんなの……ミニ四駆じゃ……ない!!」

「これは……アクアシステム!?」

「なにっ?!知っているのか木g」

「説明は私がしますよ。ホエイルシステムバージョン2、通称アクアです」

「うごもごもご……」


(あぁ、木暮くんの見せ場が……)


「これもホエイルなんですか?」

「はい。フロントはバンパーをカット。サイドのローラーをピボットとオートトラック化します。そしてテールユニットを長くし、最後尾ギリギリにローラーをつけることでフロントタイヤがレーンに触れないようにセッティングするのです」

「そうか、テールが長いのはそういうことか。すげぇなこれ……でもこれで速さが出るのか?」

「いまハイパーダッシュで3.5:1超速ギア、ブレーキはちょっとだけフロントにつけてます。走りを見てみてください」


 そう言って走らせたマシンの速度に皆が驚愕する。


「なんだこのマシン!?ジャンプの着地のスムーズ感が見たことないレベルだ!」

「リアから音もなく入っていく感じ……すごい制振性です!」

「コーナーリングもホエイル独自の速さは健在だ……こんなシステムなんだ、アクア」


 いつのまにか部員たちはアクアの安定性とスピードを兼ねた走りに夢中になっていた。みかども素晴らしい走りを目の前にして口元をほころばせている。


「すっごいわ、これこないだの男女のマシンよりまた1段、速い感じがするわよ」

「すごいです、ジョニー!!」

「ありがとうみなさん。ミニ四駆はまだまだいろいろ試してみれば新しい発見や仕組みが見つかるはず。いろいろ試してみて、自分らしいマシンを作ってみてください」

「うん!」

「ふふ、いいお返事です。じゃ次は……大会、そうですね、ジャパンカップでお会いしましょう」

「ジャパンカップ……」

「もしかしたら、すばるがお忍びでくるかもしれませんしね。でも私と当たった場合は、勝負もしてもらいますよ?」

「望むところです!それまでにしっかりマシンを作っていきますね!」

「はい、よろしくです。やっと笑顔になった、よかったです」


 皆でジョニーに別れを告げ、工場に戻る。

 みかどの心からはすっかり影が抜けていた。


「みんな……昨日はほんとごめんなさい!あたしもう大丈夫だから」

「ほんとどうなることかと思ったけど……いい人に会えてよかったな」

「うん。すごく勇気付けられたよ。それにお兄さんへの手掛かりもわかったし」


 安堵する部員たち。


「で、みんなに協力してほしいことがあるんだけど」

「なんですか?僕たちなんでも手伝いますよ!!」

「……新マシンを一緒に考えてほしいの!」


 みかどはジョニーにもらったばかりのライズエンペラーをぎゅっと抱きしめた。


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用語解説:

・ライズエンペラー

 現在コロコロアニキにて連載中のダッシュ四駆郎の正当な続編、

 「ハイパーダッシュ四駆郎」に登場する最新マシン。

 作中ではボディの上に金属製のカウルが装備出来るユニットを搭載している。

 ミニ四駆デザイン、漫画の作者はなんと、少年ジャンプで「シャーマンキング」を

 連載していた武井先生。

 実は武井先生はダッシュ四駆郎のとある話に貢献されていた人だったのですが…

 詳細はコミックでどうぞ♪


・逆さアバンテ

 エアロアバンテのボディを上手くカットし、前後逆につけるデザインのこと。

 これも魚類系のデザインとなり、ホエイルマシンによく似合う。


・アクア

 本文の説明参照。

 そのあまりに奇抜なデザインに、久しぶりにミニ四駆を見た人などは

 目が点になるだろう。


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