第2話 バイトの面接

「ちょっちょっと待って下さい!普通面接とか必要じゃないんですか?!」

「ん?・・・ふむ・・・」


腕を組んだまま目の前に立つどう見てもヤク●にしか見えない大男がこの花屋の店長薬丸と言う人物だ。

よく見ると腕に丸い痣が在るが・・・銃痕ではないと信じたい。


「そうですよ店長、まだ履歴書も見て無いでしょ?幾ら人手不足でもちゃんとしないと」

「そ・・・そうか、そうだな・・・」


そんな強面の薬丸に普通に話す順平になら抱かれてもいいとか思い始めている俊彦はもうテンパッていた。

このバイトは断ろう、少なくともこの店長と毎日顔を突き合わせて時には2人でバイトするとか無理だ。

面接で不合格になる、それしかない!


「ならちょっと待ってろ・・・」


そう言って薬丸さんは俊彦から履歴書を受け取り店の奥へ引っ込んでいった。

すると丁度それに合わせた様にワイシャツにサングラスをしたチンピラと言う言葉が最もよく似合う男が駆けて来た。

その急ぎ様からかなり切羽詰った様子なのは直ぐに見て取れた。

そして、順平が爽やかに相手をする。


「橘組が・・・抗争で・・・オヤッサンに・・・」


うん、聞かなかったことにしよう・・・

俊彦は何処までも青い空を眺めながら現実逃避をし始めた。

すると薬丸さんが店の奥から出てきて話を聞いた順平が耳打ちをする・・・


「いつもの・・・今夜・・・」


お前もそっち側なのかい?!

内心突っ込みを入れつつ抱かれていたら海外に売り飛ばされるのかな・・・

とか思考が暴走している俊彦は気付けば相変わらず仁王立ちする薬丸の前に立たされていた。

どう見てもこれ俺が土下座するシーンにしか見えない状況だな・・・

変な乾いた笑いが出そうになった俊彦に薬丸が口を開く。


「それでは・・・面接を始める・・・」

「ここで?!」

「むっその元気や良し・・・それじゃ幾つか質問するから・・・」


何故か会話するのが苦手な印象を受けるのだがそれが余計に恐怖を煽るのだ。


「それじゃ最初の質問だ・・・」

(適当言って不合格にしてもらおう、ここのバイトは俺には無理だ・・・)

「人を殺した経験はあるか?」

「・・・はっ?」

「人を殺す・・・つまり殺人の経験だ」

「ななななないないないない無いですよそんなんある訳無いですよ!」

「そうか・・・」


突然出た質問に度肝を抜かれた俊彦は慌てて答えた。

そして次の質問が繰り出される。


「麻薬・・・いや、覚醒剤を含めて使用した経験は?」

「・・・無いです・・・」

「ふむ・・・では武器の密輸の経験は?」

「・・・無いです」

「前科は?」

「・・・無いです」

「ふむ・・・それじゃあここまでの質問に嘘偽りはないな?」


ギロリと薬丸さんに睨みつけられ俊彦は思考が限界を超えた。


「あ、あるわけないでしょそんなの?!」

「よし、採用・・・」

「えっ・・・?」


体の力が抜けるだけでなくそのまま魂まで抜けそうになっている俊彦の肩に手が置かれ順平が語りかける。


「これから宜しくね俊彦君」

「あ・・・っはい・・・」


こうして俊彦は花屋でのバイトが決まりこの日は急ぎの仕事が有るとの事でそのまま働き始めるのであった。

ちなみに先程来たチンピラ風の男は常連の方でお仕事で同僚の方が良く亡くなる為、葬式用の花を注文に来られるとの事で今日はその準備に追われるのであった。

うん、どう考えてもアレだがとにかく届けるのは薬丸さんらしく自分は店番等がメインになるとの事なので深くは考えない事にする俊彦であった・・・


(と、とりあえず喜美ちゃんに俺は告白するんだ!)


俊彦は告白への第一歩を踏み出したのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る