アリ得ないほど強いアリ ②ヒアリはどこから来たのか?

 ※文末に今回の「まとめ」を掲載しています。

  読みにくい文章に耐えられない方は、一番下まで画面をスクロールさせて下さい。


 アリの恐ろしさを紹介している今回のシリーズ。

 前回はヒャッハー! なサムライアリや、風変わりなアミメアリを紹介しました。

 今回はいよいよ、話題のヒアリに目を向けたいと思います。


 ヒアリは元々南米の熱帯雨林に棲んでいたアリで、体長は2㍉から6㍉程度です。

 身体の色は赤っぽく、尻尾には鋭い毒針を備えています。


 彼等に刺されると、うみの溜まった水膨れが出来ます。

 痛み自体も激烈で、大人でも悲鳴を上げてしまうそうです。そもそも「アリ」と言う名前は、刺されると焼けるような痛みを味わうことに由来しています。


 とは言え、毒の強さはスズメバチと同じくらいで、人間を死に至らしめることはないようです。

 ただし、「アナフィラキシーショック」と呼ばれるアレルギー反応が起きると、命に危険が及ぶ可能性があります。野外で見慣れないアリを見付けても、手を出さないほうが懸命です。


 オーストラリアの学校では、子供にヒアリの危険性を教えています。

 更には講習会を開き、大人にもヒアリの知識を広めています。


 悪いことにヒアリは超好戦的で、縄張りに入った相手には容赦なく攻撃を仕掛けます。しかも多様な環境に適応することが可能で、急速に棲息域を広げています。元々は熱帯の昆虫ですが、マイナス10度の寒さにも耐えられるそうです。


 また彼等は水害に見舞われると、イカダを作ることで知られています。


 彼等のそれは、働きアリの身体で作られています。

 ヒアリの身体は水を弾くため、イカダが沈むことはありません。


 それぞれの個体は、脚と顎でがっちり結び付いています。

 人間がピンセットでつまげても、イカダが崩れることはありません。しかも彼等は、この頑丈なイカダをたった数分で作り上げてしまいます。


 ヒアリ同様、アマゾンに棲むグンタイアリも、イカダを作る習性を持っています。

 またオーストラリアに棲むウミトゲアリは、海を泳ぐことが可能です。


 ヒアリのイカダには、卵を持ったアリや女王アリが乗っています。

 船体役のアリは溺れ死んでしまうこともありますが、イカダを崩すことはありません。

 大事なのはしゅを存続させることだけで、自分の命は二の次です。反面、長期間水面を彷徨さまよう内に、飢えた働きアリが幼虫や卵を食べてしまうこともあると言います。


 ヒアリの場合、子供を産むのは女王だけです。


 一匹の女王は、一日に100個程度の卵を産みます。

 女王の数はまちまちで、一匹の場合もあれば、数十匹いる場合もあります。つまり同じヒアリの中に、たん女王じょおうせいの集団と女王じょおうせいの集団が存在します。たん女王じょおうせい女王じょおうせいの概要は、前回をご覧下さい。

 ※アドレスをクリックすると、前回に飛びます。

 →https://kakuyomu.jp/works/1177354054884146931/episodes/1177354054884212026


 たん女王じょおうせいの場合、新しく生まれた女王アリは、巣から旅立たなければなりません。彼女たちには数㌔飛ぶ能力があり、遠くまで棲息域を広げることが出来ます。


 一方、女王じょおうせいの女王には、あまり飛行能力がありません。それどころか、全く飛べないこともあります。


 反面、より多くの卵が産まれるのは、女王じょおうせいの集団です。

 女王が1匹なら、一日に増えるヒアリは100匹です。しかし女王が10匹いたら、一日に1000匹ものヒアリが産まれてしまいます。また女王の数が多い分、工事や農作業で土を移動させた際に、彼女たちを運んでしまう可能性も高いそうです。


 元をただせば、彼等を世界中に運んだのも人間でした。


 彼等の世界侵出は、20世紀の初めから始まりました。

 最初に上陸したのはアメリカ南東部、アラバマ州の港だったと考えられています。


 南米と北米は地続きになっていますが、ヒアリが使ったのは陸路ではありません。彼等は船を安定させるために積まれていた土に紛れ込み、海路で北米にやって来ました。


 港に到着した船は、荷物と引き替えに土を捨てます。

 この軽率な行動によって、ヒアリは北米に解き放たれることになりました。


 彼等はじわじわと増殖し、1970年代にはテキサスにまで棲息域を拡大させます。更にはアメリカから出航する船に潜り込み、中国や東南アジアに縄張りを広げていきました。


 2001年にはアメリカから輸出された陶器に付着し、オーストラリアに侵入します。

 事態を重く見たオーストラリア政府は、積極的にヒアリの駆除を行っています。勿論もちろん、世界侵出の足掛かりになったアメリカでも、ヒアリを根絶する方法を模索しています。


 長くなったので、今回はここまで。

 次回はヒアリの天敵を紹介します。


 ◇今回のまとめ◇

 ☆ヒアリは元々、南米の熱帯雨林に棲んでいた。


 ☆ヒアリの毒の強さは、スズメバチと同程度。人の命を奪うことはないとされているが、油断は禁物。アレルギー反応が起きると、命を落とすこともある。


 ☆ヒアリは水害にうと、イカダを作る。


 ☆オーストラリアには、海を泳ぐアリがいる。


 ☆ヒアリの女王は、一日に100個の卵を産む。


 ☆ヒアリには複数女王がいるグループと、一匹しか女王のいないグループがある。


 ☆ヒアリが北米に侵出したのは、20世紀の初め。船のおもりに使われていた土に紛れ込み、アラバマ州の港に上陸した。


 参考資料

 アリの生態 ふしぎの見聞録

 ―60年の研究が解き明かすアリの素顔―

 久保田政雄著 (株)技術評論社刊


 徹底図解 昆虫の世界

 岡島秀治監修 (株)新星出版社刊


 トンデモない生き物たち

 白石拓著 宝島社刊


 地球ドラマチック 

「増殖中! アリ 大地を支配! 毒針の脅威」

 放送局:NHKEテレ 放送日:2017年7月22日

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