第漆人『頭痛持ちの殺人鬼』

晩餐会パーティ会場に着いたは良いものの…相変わらず『ブラッド』と『ハンズ』が漫才のような喧嘩をしている。

晩餐会パーティ会場でも喧嘩するのは変わらないらしい。正直こんな場所でしなくても、と思う。口に出しては言いません。決して。何故って? そりゃもちろん──命が惜しいから。


「『心臓ハート』ちゃん、食べ物取りに行きましょう? 美味しいものばかり集めてあるわよ。」

「そーそ、あの二人はあぁしてないとはぐれるからちょうどいいし。」

「え"、あの二人って方向音痴かなんかですか?」

「『ブラッド』はそうでもないのだけれど、『ハンズ』がねぇ……。」

「『ブラッド』はふらふら歩く所があるから、ちょうど良いのさ、『ハンズ』が迷わなくて済む。」


道中ずっと喧嘩してましたけど、あの二人…。

とは思うもののやっぱり言わないでおく。

ネクロ』と『眼球アイズ』に連れられて食事の置いてあるブースに行く。

なるほど、『ネクロ』が言う通り、美味しそうな料理がズラリと並べてある。

眼球アイズ』が嬉しそうに手に取っているのは……何だあれ、何であんなに毒々しい鮮血色の液体を何の躊躇もなく手に取れるんだ…!? …………あ、殺人鬼だからか。納得だ。

俺の視線に気付いたのか『ネクロ』が笑って教えてくれる。


「『心臓ハート』ちゃん、そんな顔しないの。『眼球アイズ』が手に取ったあれはお酒の一つよ?」

「あんな毒々しい液体飲めるとか……大人の考える事は理解不能です。俺には無理です。」

「あら、飲んでみたら美味しいかもしれないのに。『心臓ハート』ちゃんはまだ未成年なのだっけ?」

「あと二年ほど年が越せば大人の仲間入りですがね?」


ネクロ』曰く俺は露骨にドン引きした顔をしていたらしい。全く気が付かなかった。女性に気付かれるとは不覚。いや、殺人鬼相手に騙そうとか無理かもしれないけど。

ネクロ』はあまりお酒の類いは飲まないらしく、お酒に似た柘榴ジュースをオススメしてくれた。いつも飲んでいるものらしい。


「『ネクロ』さんはお酒飲まないんですね、意外なんですが…。」

「酔拳を扱えるくらいになるくらいお酒が好きな訳では無いのよねぇ…。だから柘榴ジュースで十分なの。」


『え、基準そこなんですか?』と言いそうになった。

殺人鬼なだけあって感覚がズレているらしい。納得しかけた俺が怖くなってきたじゃないか…。

何もうこの人たち、ツッコミどころしかない。ツッコミが追いつかない……。

パエリアを口にしながら『眼球アイズ』や『ネクロ』と話していると一人の男性が近付いてきた。

ネクロ』や『眼球アイズ』の知り合いだろうか?


「やぁ、今日も地獄的な人生の一日ワンシーンで遭えた事を快く思うよ。」


笑顔で片手を上げて彼は言った。

眼球アイズ』が笑って同じように片手を上げて彼に応じる。


「全くだね、もうとっくにくたばったのかと思っていたよ、『ヘッド』? 相変わらずの頭痛ヘッドエイクは酷そうだね?」

「全くだよ、痛過ぎて仕事が捗って仕方ないよ。」

自殺頭痛クラスター・ヘッドエイクだっけ? 尿路結石、心筋梗塞と並ぶ世界三大痛と言われる。またの名を『群発頭痛』とも言うんだっけ?」

「流石、狂科学者マッドサイエンティストなだけあるよ、『眼球アイズ』。君の聡明なその頭で薬を開発してくれないかな、まぁ無理だろうけど。」

「作って君を実験台にして良いのなら幾らでも作るのけどなぁ? あ、眼球は勿論貰う前提だけれどね。」

「どちらもお断りしたいね、君は本当に容赦が無いから。おや、此方の青年は?」


彼──『ヘッド』と言うらしい──が此方に視線を向けた。

片目が眼帯で隠れていて有無を言わさない圧力がある為、爆笑魔の彼ブラッドよりも怖い。俺のメンタルは豆腐まではいかないけどそれなりに軟弱なんだがな…!?


「この仔は『心臓ハート』。新たに入った殺人鬼君ルーキーよ。仲良くしてあげて頂戴ね、『ヘッド』?」

「よ、宜しくお願いします…?」

「ふむ。新人ニューフェイスとは思わなんだ。宜しくしてくれると嬉しいよ、私は『ヘッド』だ。覚えてくれると助かる。」


今まで見てきた中で一番この人が強面だ…。と思いながら、俺は新たな出遭いを果たしたらしい。

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