三日月タタリの解釈違い

久佐馬野景

第一部 三日月タタリの解釈違い

第一話 解釈違いの解釈

 リバが地雷というのは、まだ穏当なほうだと思う。

 僕はあるアニメのA×B(作品名もキャラクター名も出すべきではないので伏せさせていただく)という二次創作カップリングを追っていた。

 とはいえ、ジャンルの趨勢はA×Bよりも、B×Aのほうに傾いているということは承知の上だった。

 それゆえ、B×Aの絵を目にする機会はやはり多かったが、いちいち地雷だと声を上げるのも馬鹿らしかったし、B×Aを描いている人がA×Bを描くことも(当然プロフィールに「リバ注意」を表記した上でだったが、大バッシングを受けていたと記憶している)あったので、圧倒的弱者が強者のおこぼれにあずかれるという心持ちで、それなりに平穏に少ない供給で糊口をしのいでいた。

 高校二年生に進級して一週間ほど経った頃、僕は出席番号順で並べられた結果教室の真ん中に置かれた机で、誰とも会話することもなく放課後を迎えた。

 普段ならさっさと下校するのだが、その日は事情が違った。

 昼休みにスマートフォンでイラスト投稿サイトを覗くと、以前からフォローしている絵描きさんが、数年前の同人誌即売会で販売した同人誌を、まるごとアップしていた。

 その同人誌はA×B本で、作者が再販予定はないと明言しており、その作者の普段の作品から完全にファンになっていた僕としては、どうしても読みたいと常々思い続けてきた幻の一冊だった。

 しかし、その時昼休みの終わりを知らせる予鈴が鳴り、この限られた時間ではじっくりと読み込むことができないと逸る気持ちを必死に押し込めた。途中の休み時間でも同様の説得を自分に言い聞かせて、なんとか完全に自由な時間を得られる放課後までこぎつけたのだった。

 家に帰ってから読むという選択肢はなかった。僕がほしかったのはタイムアップのない読書環境であり、それはつまり今だった。

 通信制限はかかっていないはずなのに、ページを読み込む時間が異様に長く感じた。焦るな――スマートフォンをぐっと握って凝視しながら、目当てのページへとたどり着く。

「え、嘘? マジ? AB!」

 僕の背後から、一発でスクールカースト上位だとわかる明るい声が響く。

 振り向くと、クラスでも中心のグループにいる女子生徒が、目を輝かせて僕のスマートフォンの画面を覗き込んでいた。

 しまった――こんな手合いにオタク――それも男オタクのメインストリームではないBL趣味を見られるとは。今後これをネタにどんな罵声を浴びせられるのかと思うと、気が滅入るのを通り越して眩暈がしそうだった。

 女子生徒ははっと顔を上げて周囲を見回すと、僕の耳元で声を潜める。

「ちょっと、付き合って」

 教室の外を指差し、ついてこいと言っている。

 そこで僕は気付く。この女子は、キャラクターの名称二つを合わせて略した「AB」という呼び方を使っていた。それも、名称を略して合わることによってカップリングの受けと攻めを規定する場合の主流である「BA」ではなく、「AB」と。

 僕は無言で立ち上がり、人気のない廊下の隅っこまで移動した。

 女子は一度息を吸って吐くと、思い切り顔を輝かせた。

「やっぱりBAよりもABだよねっ!」

 やっぱりだ――僕はすっと右手を差し出した。女子はそれをがっちりと握り返す。ネット上でもそうそうお目にかかれない、同じカップリング派同士の邂逅――それをことほぐには、ささやかだが充分な意思表示の握手だった。

 僕と彼女は怒涛のようにABの尊さを完全に語彙力を失いながらも話し合い、互いに少なからぬ感動に打ち震えた。「AB尊い」などと言えば即座に「BA以外ありえない」とクソリプが飛んでくるネット空間に辟易していた者にとって、顔を突き合わせてABの素晴らしさを語り合えるという状況というのは、それこそ夢にも思っていなかった桃源郷だった。

「だからさ、AがBに抱いてるのは、ある種の同族嫌悪で、裏返せば自己嫌悪なの。それが自分の中で邪悪に肥大化してる! 暴走する! 爆発する! だから攻めは絶対Aなんだって!」

 喜色満面でそう熱弁した彼女を、僕は呆然と見つめ返した。

「いや、違うよ。そりゃ攻めはAだけど、Bへの感情は歪んだ劣等感でしょ?」

「は?」

「は?」

 雲行きが怪しくなるどころか、嵐がすでにやってきていた。

「いやいやいや、それはないって。AはBに対して全然卑屈になってないじゃん。仲は悪いのに、似たもの同士として描かれてる。実力差があるようにも描かれてないでしょ?」

「そりゃ、作中の強さは同等だけど、Bのほうが活躍する機会が多いじゃないか。Aは絶対その点不満に思ってるし、勝てないと思ってるって」

「本編で描かれてる部分だけが全貌じゃないからね? Bを捉えているカメラが多いだけで、描かれていないところでAも同じだけの活躍してるから。そういう作りの作品でしょ? その本編部分だけ見てAが不満に感じてるって、それはもうメタじゃん。メタネタで関係性でっち上げるのって、冷めない?」

 気付いた時には、僕は拳を振り抜いていた。

 言い渡されたのは、停学一箇月。

 どこからどう見ても、絶対に僕が悪い。そしてそれは僕もしかと自覚していた。

 言い負かされて、暴力に訴えた。それも相手は女子である。自分の愚かさと情けなさに言葉もない。

 実は昔から、似たようなことは度々あった。僕は感情が高ぶると、最後には暴力沙汰を起こす、どうしようもないクズなのである。

 しかもその発端となる感情は、必ずしも怒りであるというわけではない。小さな頃、誕生日プレゼントをもらって喜んでいる最中、テーブルの向こうで携帯電話をいじるのに夢中になっていた伯父にドロップキックを叩きこんだことがあった。その時の感情は、間違いなく喜びだったのにも関わらずだ。

 今回も、別に怒りが頂点に達したというわけではなかった。相手に何も言い返せない、自分に何もないことを叩きつけられた、絶望のようなものだったと思う。

 ただ、こんなことが起こるのは久しぶりだったし、僕自身、さすがにもう起こらないだろうと思っていた。下手に好きなカップリング談義で盛り上がってしまったせいで、たがが外れてしまったのだろうか。

 A×Bという同じ前提に立っているのに、その関係性を想起する内容が――解釈が全く異なる。

 解釈違い――最悪の地雷は、これに違いなかった。

 結果的に、僕は語るべき言葉も、思い描く妄想も、全て失ってしまった。いや、ひょっとしたら最初から何もなかったのかもしれない。ろくに作品を読解できないような、こんな奴には。

「無です」

 いきなり柔らかいほんわかした声で言われ、僕ははっと我に返る。

 停学中の僕は、伯父の紹介でこの「ダダー」という飲食店でアルバイトをしている。現在オープン直後の午前九時で、この時間帯は暇だからと請け負われてバイトに入ったこともあり、僕はフロアに立って停学に至った過程に思いを馳せていた。

 店に入ってきたのは、背の低い女性だった。一見すると中学生と間違えそうな背格好であるし、実際顔立ちも少女のようなのだが、その表情がそれらの雰囲気を吹き飛ばしていた。とっくりと――あるいは超高速で絶え間なく――思案していることがはっきりとわかる、知的というよりは偏執的な顔つきをしているのだ。

 そんな顔で見上げられては――。

「困惑です」

 女性の口が開くと、僕の感情がそのまま述べられる――それに気付いた時、僕は――。

「驚愕です。これはすごい!」

 全くわけがわからず、僕は愕然と女性を見ていた。

「いらっしゃいませ――あっ、三日月みかづき先生。どうですこの子? 面白いでしょう?」

 店の奥からダダーのマスターが現れ、女性に親しげに話しかける。

立待たちまちくん、お客様を席まで案内して、そこでじっくりお相手をしてね」

「は?」

 ここは執事喫茶でもホストクラブでもない。僕が雇われたのはあくまでウェイターとしてであり、そんなサービスをする契約も交わしていない。

 なので当然、僕はマスターに詰め寄る。

「ああ、あの人は三日月先生といって、何してるのかは知らないけど、うちの常連さんでね。君の伯父さんが立待くんを先生と引き合わせたいって僕に頼んできたから、うちで雇うことにしたんだけど」

「初耳ですが」

「あれ? あいつ、何も言ってないのか。でもこの時間帯に入ってくれる人がほしかったのは本当だから。知っての通り、ランチ時まで暇でしょ? この時間帯にくるお客さんは三日月先生以外いないから、ゆっくり話してくるといい」

 確かに開店からランチ時までというシフトで入ったこのアルバイトで、今まで接客をした記憶がない。それでバイト代がもらえるというのだから、暇を持て余すという点を除けばこんなおいしい仕事はないのだが、そう甘くはないらしい。

 へらへらと笑って僕を斡旋した伯父の顔を思い出し、次に会った時は覚えていろと拳を作る。

「三日月先生、いつもの?」

「そうです」

 これがオーダーらしく、女性は隅のボックス席に腰かけ、マスターは笑顔で厨房に戻っていく。

 どうしたものかと僕が突っ立っていると、女性はいきなりテーブルを拳で叩き、その勢いで立ち上がった。

「解釈の余地がない!」

 口角泡を飛ばすかのような、激しい物言いだった。

「これはえらいことです! あんた、なんちゅう顔をしとるんですかっ」

 思い切り、顔を指で差された。身に覚えはないのだが、怒られているのだろうか。

「タタリさんはなんというか、感度がすごいんだな。これは本当です。それがですよ、全く一つの解釈しか導けないんです! 今のあんたのそれは困惑です!」

 まただ。女性は僕の心情をずばり言い当てる。

 いや、女性は僕の顔を――表情を指している。

「おまたせしました。八寒地獄パフェね」

 マスターがバケツサイズの容器に入った巨大なパフェを運んできた。土台部分がかき氷、つなぎに大量のアイスクリーム、飾りつけに山とソフトクリームが乗った、多分話題作りのためだけに開発したであろう、邪悪な代物である。あれだけの量の氷点下スイーツを一人で摂取すれば、最悪凍死しかねない。

「驚愕からすぐに困惑に戻る! 変化の途中経過すらない!」

 女性は興奮したように僕の顔を指差したまま、手元も見ずにスプーンを掴むとソフトクリームを口に運ぶ。

「あの……なんなんですか?」

「え? ひょっとして無自覚だったの?」

 厨房に戻りかけだったマスターが、驚いたように僕の顔を見る。

「はい?」

「いや、立待くん、思ってることが全部顔に出るじゃない。それはもう、思い切り」

 ほら今も――とマスターは自分の顔をつんつんと叩く。

「面白い子だなーって思ってたけど、まさか無自覚だったとは……今までいろいろと苦労してきたんじゃない?」

 確かに、僕はなぜかよくトラブルに巻き込まれる。たとえばコンビニの前でたむろしていたヤンキーの前を素通りしようとしたら、喧嘩を売っていると言いがかりをつけられて殴られたことが結構な数ある。学校で教師に説教された際に、教師がいきなり激怒して僕だけさらに長時間の説教を食らうというパターンも多い。

 それはつまり、僕の嫌悪感が、そのまま表情としてありありと読み取れたから――なのではないか。

 そう思うと、僕が実生活でまともな人間関係を築けていないのも道理なのではないかという気がしてくる。僕と一度会話を試みて以降疎遠になっていく相手は決まって、「お前は付き合いにくい」という旨の発言を残していく。

 それは――そうだろう。身の危険に直結する嫌悪感すら隠せない僕が、相手と付き合う上で必要な配慮などできるわけがない。いやだと思った瞬間にいやな顔をする――怒りを覚えれば怒りに顔を歪める――やりにくいことこの上ない。

「いや、これは見上げたものです。偉い!」

 どしんと席に座ると、それでスイッチが入ったのか、凄まじい勢いでパフェを食べ始める。

「ほら、三日月先生のお相手」

 気軽に手を振って厨房に戻っていくマスターを見送りながら、僕は結局女性の向かいに腰を下ろした。

「あの、三日月、先生……?」

「私は三日月タタリです」

 そういえば先程自分のことを『タタリさん』と呼んでいた。面倒なタイプの女性なのかもしれない。

「感情というものは存在する。これは疑いようがない。ところがそれを相手に伝える際の手順というのは、とても面倒なんです」

 タタリさんはパフェをがんがん口に運んで崩壊させながらも、話す時には常に口の中が空になっている。

「言葉に出す。文章にする。絵に描く。ですが感情は必ずしも言語化できないし、可視化もできない。その最も原始的かつ曖昧な表現方法が」

 かき氷をがりがり音を立てて噛み砕く。土台としてあれだけ上に重量のあるものを載せているのだから、圧し潰されて固まってしまっているのだ。

「表情なんですよ。そして、これは受け取る側が好き勝手に解釈してしまう危険性が、実は一番高い。人間は感情と表情の連動をコントロールすることだってできてしまうからです。お互いにそれをわかった上で、腹の探り合いをするわけです。それは日常生活でもおんなじ――本当に人間は面倒だ!」

 急に声を荒らげるが、だからといって特に激昂しているわけではないということに僕は気付き始めていた。

「それがですよあなた、あなたの表情には、全く解釈の余地がないんですよ。感情が、なんのフィルターも通さずに表情として現出しているというのかな。これはね、真っ当な人間では絶対にありえません。感情をそのまま表情として出そうとしても、なんらかの『含み』が入ってしまう。タタリさんなんかは感度がすごいから、そこにいくらでも解釈の余地を見出せるんです。無理矢理にわかりやすく感情を出そうとしても、そうなれば今度はそこに芝居臭さが入り込む。これはもう嘘っぱちです」

 じっと僕の顔を覗き込むタタリさんに向かって、僕はどんな表情をしているのだろう。

「ところであなた、何を失いました」

 タタリさんはまた飾りつけ部分のソフトクリームを崩し始める。夢中になっているのか、今は僕の顔を見ようとしない。

 僕はタタリさんに全てを見抜かれている――その確信が、ゆっくりと身体を覆っていく。

「どこまで、顔に出てるんですか」

「顔に何も出ていないからですよ。最初に見たあなたの表情は、無です」

 無――僕には、やっぱり何もなかった。

「解釈の余地というのは、言ってしまえば無なんです。余地があると言っても、そこには何も書かれていない。私はそこで、いくらでも解釈をし続けることができるんだな。そうなれば導き出せる答えも同様に、いくらでもある。そこに正解なんてもんはないが、それらしい解釈を取捨選択することは、私の得意とするところです」

 僕の表情に、タタリさんは解釈の余地がないと言った。だが、僕が自分に何もないのだということを痛感していたあの時、タタリさんはそこに解釈の余地を見出した。

 僕が存在する感情を表層化する時、タタリさんはそこから何も読み取れない。

 僕が自分の中に何も存在しないと自覚する時、タタリさんはそこに解釈の余地を見出す。

 ずれている。互いの思惑が意図せず致命的な齟齬を起こしている。だが――それは偶然にも噛み合っている。

 気付くと僕は、無言でパフェを瓦解させていくタタリさんに、停学に至るまでに起こったことを全て打ち明けていた。

 解釈――タタリさんはその言葉をよく口にする。解釈の余地をいくらでも見出せるとも。ならば――僕が全てを失った、あの解釈違いという解釈そのもの自体にさえも、タタリさんなら別の解釈を差し挟むことが可能なのではないか。

 その期待を恐らくは顔に出しながら話し続ける僕には目もくれず、タタリさんはパフェの解体作業に没頭する。聞いてくれているのかという不安も感じたが、それよりも口に出して話してしまいたいという欲求のほうが強かったということに今更になって気付く。

 僕が話し終えた時、タタリさんはしぶとく残った土台を慣らしていた。時間経過とともに溶けてシロップ水と化した残骸を、遠慮も容赦もなく容器を傾けて飲み干す。

「ヴァカですかあんた!」

 息を吐くことすらせず、空になった容器の中にスプーンを放り込むのと同時にタタリさんはそう叫ぶ。

「暴力はいかんですよ! 上から下まで殴っておけば言うことを聞かせられると思っているような連中ばかりだったから日本は戦争に負けたんです。当たり前だ!」

 政治主張というより、単純な文句のように聞こえた。それはつまり僕を痛烈に非難しているということなので、うなだれて縮こまる。

「で、です。あなたのその感情表現は、およそ全ての人間に正確に伝わると思っていい。人非人だろうがサイコパスだろうが、あなたの表情からは絶対に一つの答えしか導き出せんのです。あなたは無自覚だったんだろうが、その顔で生きてきたということは、自分の感情が全て相手に伝わるということを当然のこととして無意識に認識しとるんです。だからあなたがたとえば烈火の如く怒ったら、相手はそれを見て必ずなんらかのリアクションをとる。あなたもそれを自然な流れとして生きてきたんでしょう」

 確かに僕と会話した者がみな一様に口を揃えて「付き合いにくい」というのも、僕が自分の感情を表情と直結させていることで、僕の気持ちをきちんと理解しろと無理強いしていると即座にわかってしまうからなのだろう。

「ですから、あなたの感情が極限にまで高まり、そして現出した表情に対して相手がノーリアクションだった場合、あなたは激しい解釈違いを起こす。そして相手に訴える手段として、暴力を用いる。全く度し難い愚か者ですよ!」

「解釈違い――」

 タタリさんの叱責に肩を落としながら、僕は自分の中に、自分でもどうしようもない、生来の解釈違いというものが巣食っているのだと寒気を覚える。

 僕は確かに解釈違いによって全てを失った。だが、その直接の原因となったカップリング解釈違いと同時に、確実なとどめを刺したのが、特異な感情表現の仕組みに甘え切ったゆえに生じた、僕という人間そのものの宿業とでも呼ぶべき解釈違いだった。

「行くも戻るも解釈違い、ですね。僕はもう、どうすればいいんだか……」

「ヴァカですか!」

 またテーブルを拳で叩く。

「いいですか、解釈違いというのはつまり、解釈の余地がまだまだいくらでもあるということに決まっとるでしょうがっ。解釈の余地はつまり無です! それはそのまま、自由と言い換えることもできるんです!」

 解釈は自由だッ――タタリさんはもう一度どん、と拳でテーブルを揺らした。

「解釈違いに向き合うこともせず、自由な領域を放棄するのは馬鹿のすることですよ! 解釈違いを起こすのなら、その理由を馬鹿みたいに必死に考えてまた解釈するんです! 同じ解釈を貫くならよし。相手に迎合するのもまたよし。別の解釈を導くならさらによしです!」

 そんなことが、果たして僕などにできるのだろうか。

「まだ迷うんですか。わかりました。あなた、どうせ一箇月もすることがないんでしょう。だったら私の仕事を手伝いなさい」

「はい?」

「あなた、多分私の仕事の役に立ちます。じゃあ行きますよ」

 タタリさんはテーブルに代金を置くと立ち上がり、僕に目でそれに倣うように促す。

「ああ、三日月先生のお供ならシフト内の時給はカウントしとくから、気をつけて行ってらっしゃい」

 テーブルを片付けに出てきたマスターにそう言われ、バイト中だという逃げ道も失ってしまった。ウェイター用のエプロンを不満を込めてにマスターに押しつけると、僕はタタリさんと一緒に店を出た。

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