残されたメッセージ①

とある軍人の遺書

 外の世界を知らない君へ。


 ヤツらが地球に来るようになってから半世紀が経つ。


 依然、彼らの目的は分からない。


 空に浮かぶ巨大な船は人々を連れ去り、どこかへ消えていく。

 彼らによって毎年推定数十万人が世界各地で誘拐されているらしい。一般市民から政治家、軍人、芸能人……誘拐される人間に法則性はない。

 連れ去られた先に何があるのか――それを知る者は、地球にはいないだろう。


 私たち軍人はヤツらを阻止するため、仲間とともに戦闘機へ乗り込んだ。何発ものミサイルを放ち、敵の船を攻撃した。


 核弾頭を使ったこともある。

 大国を滅ぼせるほどの威力。

 人類が作り出した悪魔のような兵器。


 同時に百を超える核を撃ち込む。

 この作戦で一矢報いることができると、参加した軍人の誰もが思っていた。


 だがそれでも、我々はあの船を一隻も落とすことはできなかった。

 巨大な茸雲の中を、平然と泳ぐ宇宙船。その光景は今でも鮮明に覚えている。


 船からの反撃で、一度に多くの仲間を失ったこともある。

 発射された無数のビームが、戦闘機のコックピットを貫く。長年一緒に戦ってきた戦友はビームに焼かれ、骨すら残っていなかった。


 ヤツらはこちらから攻撃しない限り反撃には出ない。

 完全にこちらの戦力を馬鹿にしている。


 私の目の前で何人もの人々が連れ去られた。

 その中には、私の娘も含まれている。


 あれが私の家の上に現れたとき、娘は大学の入学式に出かける直前だった。

 手塩にかけて育ててきた我が子が、上空へ浮かび上がる恐怖に顔を歪ませる。


 見ていて耐え難いものがあった。


 娘は船の奥に消えた。

 それが彼女を見た最後の記憶だ。


 私たち軍人は、彼らとの戦争に負けた。


 いや、そもそもこれは戦争だったのか?

 一方的過ぎて、戦争にすらなってなかった気がする。

 ただの誘拐と虐殺。

 向こうにも「戦争」という認識はないのかもしれない。


 いつか娘に再会する――そんな希望は完全に打ち砕かれ、人類はヤツらから逃げ続けることを決めた。


 私たちの努力と犠牲は無駄に終わり、今は地下深くに潜っている。


 四方を土で固められた地下室で眠ると、毎晩悪夢を見るようになった。


 連れ去られる娘の顔。

 コックピットごと消えた仲間。

 悠々と空を漂う宇宙船。


 それが何度もループする。


 生き地獄だ。

 こんなの、もう耐えられない。


 私はこの場所を去る。

 その先で娘に会えることを祈るばかりだ。

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