第十二話 「デビル&ドラゴン!! 」

■■■自殺ランブルのルールその12■■■


 【自殺(スーサイダーズ)ランブル】参戦者は、自殺した際に身につけていた服や装飾品の他、生前思い入れの深かった品を持ち合わせていることもある。




■■■ 第十二話 「デビル&ドラゴン!! 」■■■




「ずいぶんと派手にやられちゃったみたいだね……ひょっとして、火を自由に使えるヤツってアンタのこと? 」





「……そうだけど。知ってるの? ワタシのこと」





「さっきまで、ここにいた清水 舞台(きよみず ぶたい)くんって子から教えてもらったんだ。セーラー服を着た女の子にヒドい目にあったって」





「そう……」





「ウチは三田 鳴(みた めい)。アンタは? 」





「……本草 凛花(ほんぞう りんか)」





 ライブハウスに残った三田 鳴(みた めい)の前に現れた、炎の能力(ウィッシュユー・ワー・バーン)の使い手、本草 凛花(ほんぞう りんか)。





 一触即発の雰囲気が漂うかと思われたが、三田の緩い対応に呆気にとられ、彼女はついつい彼女のペースに乗せられてしまっていた。今まで出会ったことのないタイプの参戦者に動揺している。





「10分すりゃその傷、治るんだよな? それまでゆっくりしてなよ」





 三田は凛花を、久々に訪れた旧友と接するかのように、まったく緊張を感じさせない顔でエレキギターのチューニングをし始めた。そして「どうぞ」と凛花にステージに腰掛けるように促す。






「攻撃しないの? アナタ、見た感じLv.1の能力者っぽいけど、今ならLv.3のワタシと互角くらいに戦えるチャンスなのに……」





 凛花は三田への警戒を怠らないまま、ゆっくりとステージの縁に腰掛ける。彼女が手で押さえている腹部にはドス黒い染みが出来ていて、そこから足に伝って、生々しい血液の滴がポタポタと落ち続けている。





「ウチはボロボロのアンタと戦う気は無いよ。でも、ちょっとお話したいんだ」





「お話? 」





「うん。凛花ちゃんは、さっき自分はLv.3って言ってたよね?……というコトはもう三回も自殺に及んじゃったってコトになる」





 凛花は口を閉ざし、答えないまま三田を睨み続ける。





「教えて欲しいんだ。生き返った時ってさ、この場所にいた記憶が無くなっちゃうんだろ? どんな感じ? 微かに記憶に残ってたりとか……そういうのは全くないの? 」





 尚も黙ったままの凛花。





「ふ~ん……そうか……答えられないか……」





「アナタにそんなコトを教える義理は無いの」





 三田はその返答に対し、少し意地の悪そうな笑顔を作り、彼女に視線を送った。突然のコトに、さすがの凛花も少しだけたじろく。





「怪しいなァ……凛花ちゃん。きみ、ひょっとして"答えない"んじゃなくて"答えられない"んじゃない? 」





 凛花の瞳孔がわずかに広がったことを、三田は見逃さなかった。





「図星っぽいね……それとさ、凛花ちゃん……いくら怪我してたからって、隙だらけのウチ達を攻撃しないで、ずっと隠れて見てたのはどういうことなのかな? きみってメチャクチャ強いらしいじゃん? 不意打ちでウチ達をまとめてリタイアさせることなんて簡単だったんじゃないの? 」





 その問いに、凛花は不敵な笑みを作りながら答える。





「……アナタ……なかなか読みが深いのね……」





「へへ……人目を気にしながらビクついて生きてたおかげでね。さらに言えば、ウチの予想だけど……凛花ちゃん。きみ、舞台くんに対して何か目的があるんじゃないの? 話によればきみ、目の前にいる舞台くんを無視して彼の友達を攻撃しようとしたらしいじゃん」





 凛花はその瞬間立ち上がり、両手に炎の球体を作り上げた。





「三田さん。これ以上アナタと話をするのはワタシにとって不都合なのね。今すぐ自分の意思でリタイアして。そうすればワタシは、アナタを傷つかせずに済む」





「その要求は、きみの本音を聞かない限り、受け入れられないね……」





「そう、残念なのね」





「凛花ちゃんが舞台くんを傷つける可能性が0でない限り、ウチはやすやすと、きみを見逃すワケにはいかない。あの子は友達だからね」





 三田も立ち上がり、ギターのストラップを肩に掛け、凛花と対峙する。




「それなら、なんでワタシがボロボロのうちに攻撃しないの? あと30秒くらいで全回復する。攻めるなら今だよ」





「さぁね……なんつーか、きみもウチらと同じで、可哀想な目にあってここにいるって考えると、フェアじゃない気がしてね。それだけだよ……」





「ワタシを見逃さない……でも、ワタシに同情して攻撃しない……アナタって色々と中途半端なのね……」





「そ! その中途半端な自分が……ウチは大好きなんだよ! 」





「………………30秒経過」





 凛花の腹部に作られた染みが消え、流血がなくなり、顔に生気がたちまち戻る……彼女は全快した。





「そうか……それじゃ行くぜぇぇぇぇ!!!! 」





 三田はギターの弦をピックで刻みながら、喉が張り裂けんばかりの大声量でシャウトした。その瞬間、彼女を取り囲むように高圧電流が放たれ、凛花を襲う! 





■■■【自殺ランブルの能力紹介9】■■■


【能力名】涙の電撃ロード (エレクトリックロード)

【能力者】三田 鳴(みた めい)[20歳]

【概要】

 感電による自殺を図った者に与えられる能力。全身に高圧電流をまとって相手を感電させるコトが出来るが、その際に"大声を出す"という必須条件がある。

 この能力はシンプルで強力かつ連続使用も可能だが、"声"が出なくなってしまうと能力を使うコトが出来なくなってしまう。そしてその声の大きさによって電流の威力も高まり、射程範囲も伸びるという特性を持つ。

 Lvに応じて、さらにその基本電流の強さと射程範囲が伸びる。





「ドガシャァァァァァァッ!! 」





 凛花は三田の能力にとっさに反応し、ライブハウスの入口ドアを突き破って外へと避難する。





「ハァ……ハァ……飛行能力が無かったら……今のでやられてた……」





 勢い余って地面に転がってしまい、全身に擦り傷を作る彼女の姿からは、三田の【特殊能力(スーサイダーズコマンドー)】がどれだけ驚異なのかが伺えた。





「ウチ自身、この能力(チカラ)を使うのは今のが初めてなんだ……まさかここまでスゴいなんて思ってもなかった」





 全身に電流をまとった三田が、ゆっくりと凛花へと近寄る。その姿からは一切の恐怖や迷いが見えない。





 【涙の電撃ロード (エレクトリックロード)】は、他の能力と比べて、使用者の元々の身体機能が大きく反映される異質な力。まして、"声"をトリガーとするこの電気の能力は、元々ロックミュージシャンだった三田にとってこれ以上ない好相性の武器となっていた。





「これ以上、近寄らせない! 」





 凛花は地面に"発火液"を滴らせ、三田の足下へと伝わらせようとする。"討伐チーム"を一気に燃え上がらせた時と同じように……しかし! 





「イアアアァアァァァァァァァァァァァァァァッ!!! 」





 マイクを使わずとも鼓膜を痺れさせるような三田のシャウトと共に、発散された電撃が全方位へとまき散らされ、発火液は三田の足下に届かないウチに引火して火柱を暴発させてしまっていた。





「うわぁッ! 」





 そして、同時に襲いかかる電流の渦! 凛花はこれも間一髪で回避し、三田の攻撃範囲から大きく離れる。





「ウチ、ちょっと自慢しちゃうけど、声が出る頃は"和製プラント"とか呼ばれちゃっててね……若い子にはその意味分からないだろうけど」





 三田は一定の距離を保ちながらギターの弦を弾き、乾いた音を奏でる。アンプに繋がれていない生の音だったが、それは彼女の志気をを高めるには十分な効果を発した。





「……アナタの歌、生きてた頃もあまり好きじゃなかったけど……まさかこんなところでますます嫌いになるなんて……」





 凛花は三田によって徐々に追いつめられていた。飛び道具の火球を当てるには距離が離れすぎている……しかし、だからといって近寄ってしまったら電撃によるダメージは避けられない。





「それじゃあ凛花ちゃん、聴いてくれ! ……エレキライト!! 」





 三田は自身の代表曲"エレキライト"を歌い出した! 感情を乗せたその声は電流となり、絡み合い……うねり、それはまるで雷雨の下で力強く飛び回る"龍"をイメージさせた。





「エレキライトォォォォッ!! 」





 三田の声に呼応し、電気龍は凛花の体めがけて猛進する! それに対し、飛行能力で空中へと回避した彼女だったが、逃がしてたまるか! とばかりに電気龍が追跡(ホーミング)する。





「くそっ! しつこいのね! 」





 三田の攻撃は、周囲に立ち並ぶアトラクションを食い荒らすかのように破壊しつつ、凛花の後をピッタリと付けている。反撃をする余地など全く感じさせなかった。





 あまり時間は掛けたくない……ここはもう、"アレ"を使うしかないのね……。





 凛花は何かしら"覚悟"を決めた表情を作り、飛行しながら地面に落ちた鋭利な金属片を拾い上げた。





 あの子、何をする気だ? 





 歌いながらも、凛花の行動に疑問を抱いた三田だったが、その直後、さらに予想の出来ない彼女の行動を目の当たりにし、一瞬だけ演奏の手を止めてしまう。





「うあああぁぁぁぁぁぁッッッッ!!!! 」





 雲に穴を開けるかのような凛花の雄叫び。彼女はなんと、自分の首筋にある動脈を、金属片で切り裂き、大量の血液を噴出させていた。





 マジかよ! なんであんなコトを!? 





 動揺する三田を尻目に、凛花はその傷口に手を当て、【特殊能力(スーサイダーズコマンドー)】で作りだした発火液を血管の中へとドクドク流し入れる。





 その行為に得体の知れない"ヤバさ"を感じ取った三田は、歌声により大きな力を込めて、電気龍を凛花に体当たりさせた! 





「ズガゴォォォォォォンンンンッ!!!! 」





 電気龍は落雷を彷彿させる激音と共に爆散! その爆心地より半径10mは、立ちこめる煙と共に"真っ黒"に変貌させていた。





「やったか!? 」





 思わず勝利を確信して握り拳を作った三田だったが、それもすぐに、ぬか喜びだったことに気がつき、震える。





 背中が……熱い!? 





「ウワアアアァッ!? 」





 とっさに振り向いた三田だったが、少しだけ遅かった……目の前には無惨に焼け焦げて地面に倒れ込む"ギティちゃん"の姿があった。





 くそっ! ギティちゃんが……





 三田の背後には、いつの間にか回り込んでいた凛花の姿があった。彼女は不意打ちで火球を飛ばしたものの、三田が間一髪で気がつき、振り向いたコトで愛用のギターが身代わりになる形になった。





 ごめんなギティちゃん……"あっち"に戻ったらいっぱい可愛がってやるからな…………それにしても……





 変わり果てた相棒の姿にショックを受けるも、三田は目の前にいる凛花の変貌の方が気がかりだった。





 凛花ちゃん……やべぇなこの子……ウチでもちょっと勝てるかな? って思ってたコトがはずかしいじゃねぇか……





 目の前にいる凛花は、まるで"炎"そのものだった……





 身にまとっていた衣服はほとんど焼け焦げて一糸もまとっていない。そして露わになった皮膚はまるでマグマのような不気味な光を発し、熱を絶え間なく放出している。さらには背中からは、一対の翼のような火柱を放出させ続け、"悪魔"と形容するに相応しい姿を演出していた。





「三田さん……たった一人に対してこの"姿"になったのはアナタが初めてなのね……」





「そりゃ光栄だ……きみもなかなかロックなコトするじゃねぇかよ……」





「フフ、でもこの姿は長くはもたない……決着をつけようよ。アナタの流儀に従って……正々堂々ぶつかり合って……! 」





「いいぜ…………先に潰れるのはウチの"声"か、アンタの"体"か……根比べといこうぜぇぇぇぇッッッッ!!!! 」





「絶対に負けない!! 」









 ■ ■ ■ ■ ■





 今……ライブハウスの方から、スゴい音が……!? 





 三田の元を去り、単独で園内を移動していた清水 舞台(きよみず ぶたい)は、さっきまで彼女と一緒にいた方向から凄まじい爆発音が発せられたコトに、心臓を高鳴らせた。





「まさか……三田さん! 嘘でしょ!? 」





 嫌な予感を覚えた舞台は、急いで振り返り、ライブハウスまで戻ろうとする……しかし……





「くそう……こんな時に……! 」





 舞台の背後には"一人の男"が仁王立ちしていた……





「残念だが……ここから先は、通さない」





 その男は、上下に真っ黒なジャージを着込み……目の下に隈を作った不健康そうな目で、舞台を睨みながらそう言った。





「君が行ってもどうしようもない……ここはオレと……」





 何か提案を持ちかけようとしたジャージ男だったが、もはや彼の声は舞台には届かない。





「そこをどけぇぇぇぇぇぇッッ!! 」





 両手の紋章を輝かせながら、舞台は男の元へと疾走する! 三田さんが戦っているかもしれない! 三田さんが苦しんでいるかもしれない! 今の彼には、"友達"を案ずるコトしか頭に無かった……





 もう須藤さんの時のような思いはしたくない……





 ボクは今、戦わなくちゃならないんだ!! 





■■【現在の死に残り人数 24人】■■




■■■自殺ランブルの能力紹介10■■■


【裏技名】熱誠心母 (ヒート・ハート・マザー)

【能力者】本草 凛花(ほんぞう りんか)[15歳]

【概要】

 あなたをここで燃やしたい(ウィッシュユー・ワー・バーン)に隠された裏技。自分の血管内に発火液を流し込み、体内に循環させて発火させることによって全身からマグマのような高熱を発する状態にできる。

 火力・機動力・攻撃範囲も飛躍的に向上し、無敵の状態とも言えるが、その効果は最大で1分ほどしか続かず、さらにその間、体が炎に包み込まれる苦痛に耐えなけれない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る