第四話 「ツインランナー!! 」

■■■自殺ランブルのルールその4■■■


 自殺ランブルの制限時間は基本的に無制限だが、戦闘が膠着状態のまま進展しないようであれば、案内人(れ~みんマウス)の権限により、1時間のカウントダウンを発動できる。この間に戦闘に動きが無ければ、強制的に参戦者全員は敗退することになる。




■■■第四話 「ツインランナー!! 」■■■





「うっ……うおぉぉぉぉッ!? 」





「おっ、焦るなよ舞台(ぶたい)。そのままジッとしてろよ」





「は、はい! でも須藤(すどう)さん……何だかウネウネして……気持ち悪いです……」





「大丈夫だ! 力を抜け……落ち着くんだ! 」





「うッ……」





「どうだ? 」





「スゴイ……須藤(すどう)さんの言う通り、本当に"両手"が生えてきました……





 銃男との戦闘で、ボクは両手を失った。【特殊能力(スーサイダーズコマンドー)】も使えず、丸腰状態でこれからどうしようかと思っていたところだったけど、須藤(すどう)さんが言うには、ちぎれた両手も10分間待てば、トカゲのしっぽのように生えてくるのだと教えられた。





 そして、その言葉の通りボクの両腕の切断面から、うねうねとミミズのように血管が伸び、骨が生え、筋肉と皮膚がビデオの逆再生のように完全復活した!正直その光景はグロテスク過ぎて、自分の体と言えども見ていて気分が悪くなった……





「だろ? まぁ、コレでひとまず安心だぜ」





 ボクは、体から強力な溶解液を作り出す能力者「須藤大葉(すどうおおば)」さんと同盟

を組むコトになり、遊園地内にあったチュロスを売る屋台の中に身を潜めていた。





 須藤(すどう)さんは、両手を失ったボクが回復するまで、周囲を見張り、他の参戦者からの攻撃から守ってくれている。ボクは運が良かった、この人と組めるコトになって本当に助かった。




「ふ~、それにしてもちょっと腹減ったな」





 須藤さんは屋台のホットケースに陳列されていたチュロスをおもむろに掴み取り、そして頬張り始めた。死んだ体でも腹は減るのか? そもそもこの得体の知れない遊園地に置かれたお菓子なんて食べて大丈夫なのだろうか? そんなコトは一切気にする気配のない彼の様子から、豪快な性格の一部分を観察できた。





「舞台(ぶたい)、お前もどうだ? 」





 須藤さんはチュロスをもう一本手に取り、ボクに手渡してくれた。でも、この世界に置かれた食べ物を口に入れるのは何となく気が乗らなかったし、それと何より……





「おいおい! そんなチワワみてーにビビらなくてもいいんだぜ? オレの能力の毒液は、常に体から出てるワケじゃねーんだからよ」





 ついさっき銃男を残飯のようにドロドロに溶かしてしまった彼の能力。その凄まじい光景が頭に残っていて、未だに彼の体に近寄るコトが出来なかった。





「そ……その、食欲なくて……すいません……」





 須藤さんは「そっか」とボクに差しだしたチュロスもかじり始めた。自分がどれだけ恐ろしい要素を持ち合わせているのか自覚はないのだろうか? 





「それにしても舞台。お前10分経てば体が完全回復するコトを知らないで、自分の腕をちぎったってのか? 」





 あっという間に2本のチュロスを食べ終えた彼は、手に付いた食べカスを舐めとりながら、呆れた表情でボクに語り掛けた





「はい……まあ……」





「呆れたぜ。仮にあの時、銃男に勝てたとしても、両手を失った状態でどうするつもりだったんだ? 」





「……そこまで考えてなかったです。なんだか、体がカッ! と熱くなっちゃって……」





「ハハッ! なかなかのバカ野郎だな、お前は! 」





 須藤さんのストレートな物言いに、少しだけ「ムッ! 」としてしまったが、彼のラインの入った髪型と筋骨隆々な体格に怯えて「ははは……」と、いじめられっ子特有の自虐的な空笑いをしてしまった……





「おいおい、何落ち込んでんだよ」





「いや……スミマセン……」





「何も悪いコトしてねぇのに謝んじゃねぇよ! いいんだよバカで! そのバカさ加減が、オレは気に入ったんだからな! 」





 彼は、肉食動物のような鋭く綺麗な目を向けながらボクに怒鳴った。正直ちょっとチビりそうになるほど怖い顔だったけど、須藤さんのその言葉には"裏"がないコトが分かり、ボクはほんの少し、彼へ親近感を抱いた。





 ウソをついたり、他者を貶(おとし)めようとする人間をボクは何人も見てきた。だから"目"を見ればその人が信用できる人間かどうかは大体分かる。さっき出会ってスグにお別れしてしまった「甲州蛍(こうしゅうケイ)」さんも、須藤さんと同じ"目"をしていたんだけど……残念だった……





「須藤さん、聞いていいですか? 」





「お! いいぞ」





 ボクは、ちょっとだけ須藤さんのコトを知りたくなった。





「須藤さんって……ひょっとしてプロレスラーですか……? 」





「おう! 当たり前だ! 会計士に見えるか!? 」





 そう言って腕を曲げて誇らしげに力こぶを見せてくれた。発酵したパン生地のように盛り上がってる……! 





「舞台。そういうお前もプヲタ(プロレスオタク)だろ? 」





「え? なんで分かったんですか? 」





 突然自分の趣向を当てられ、少したじろいでしまった。そう……彼の言う通り、ボクは自室にレスラーのフィギュア専用の棚を作るほどのプロレスファンなのだ。ただし、国内の団体ではなく、海外団体を主に推しているスタンスだったので、日本人レスラーである須藤さんの存在は知らなった。





「オレが銃男に技を掛けた時、お前は『コブラクラッチだ!』と叫んだだろ? あんなの、しょっちゅうプロレス見てるヤツしか分からんマニアックな技だからな……ひょっとして? と思ってたぜ……それにな」





「それに? 」





「正直に言うとな、銃男をやっつけた後な、お前も一緒に溶かしちまおうって思ってたんだぜ! 」





 とんでもない爆弾発言! そんな衝撃的な言葉を彼は笑いながら吐き出す。





「でもお前がプロレスファンだと分かっちゃあ、そうはいかねぇからな。プロレスラーはファンを傷つけない! だからお前とタッグを組むコトに決めたってコトよ! 」





 この瞬間ほど、自分がプロレスファンで良かった~……と思ったコトはない。





「それにしても舞台……おめぇよ、その学ランは脱いだ方がいいぞ」





「え? 何でですか? 」





「この【自殺(スーサイダーズ)ランブル】じゃな、若いヤツほど狙われやすいんだぜ。まだまだ未来が残されてるガキ達が相手ってなると、攻撃する方も躊躇(ちゅうちょ)しなくなるから、敗退しやすいんだ」





 なるほど。学ランを着ていれば、一目で年齢の若い学生だと分かってしまうな。そういえば最初に戦ったガス男も『心置きなく"生き返せる"! 』とか言ってたっけな……人生をやり直せる可能性が高い若者が相手なら、罪悪感も覚えないってコトか。





 でも、その考えにはヒトコト言いたいって気持ちがある。





 人生の一番大切な時期だと言える10代~20代の間に、誇りも尊厳も奪われた生活を強いられ、それから迎える未来に希望はあるのか? と……





 傷ついた心は、多分一生治らない。そして死ぬまでその過去を背負って生きなければならない……





 ボクに言わせれば、青春時代に充実した生活を送っていた人間こそ、大人になってからの挫折にも立ち直るコトが出来るんじゃないか? って思ってしまう。





 "死にたい"という気持ちに、年齢の上下は関係ない……そう思う。





 と、自分なりの「自殺論」を心の中でスピーチしつつも、ボクは須藤さんに言われた通り、両袖が千切れてマンガっぽくギザギザのノースリープになった学ランを脱ぎ捨てた。気休め程度のおまじないのようなモノだとは思うけど、少しでも死に残る可能性を高めておきたい。





「よし、それでいい。あと、頭には気を付けろよ。死にたいって気持ちがあってもな、頭を吹っ飛ばされちまったら問答無用でアウトだ。手足と違って再生するコトはねぇからな! 」





 色々と気を利かせてアドバイスしてくれる須藤さんには、ますます感謝の念が沸きあがった……しかし、それと同時に一つの疑問も沸く。





「それにしても須藤さん……色々と、このバトルロイヤルについて詳しいですね……」





 ボクの言葉に、須藤さんはこめかみをポリポリとかきながら、イタズラがバレたような気まずい顔で答えてくれた。





「二度目なんだ……ここに来るの」





 須藤さんはそう言ってどこか遠くの 一点を見つめた。





 自分自身の姿を目の前に投影して客観視しようとする乾いた目つき。絶望を背負込んだ人特有の仕草。これ以上の事は聞かないでくれ。敗北者の孤独なサインを受け取った気がした。





 場の空気が少し悪くなり、ボクはとりあえずオモチャの車が巨大化したかのような、このチュロス屋台のカウンターから顔をだし、周囲の様子を伺うコトにした。





 ドォオオオオン…………





 どこかで誰かがやり合っている爆発音が遠くで聞こえる……





 ボク達の他に……あと40人以上の人間が"死ぬ"コトを掛けたバトルを繰り広げている。





 若い人、年を取った人、女の人、男の人、大きな人、小さな人……様々な層の人間が、集められたこの遊園地……





 本当なら顔すら合わせることのないボク達だけど、ここにいる人達はみんな……自らその命を絶とうとしている共通点がある……





 そう考えた途端、この遊園地が少し、尊くて美しい場所のように感じられた。





 自分一人が死ぬ為に、他の人間とそれこそ"死ぬ気"で力をぶつける。そして"生かす"。





 そんな普段の生活とは真逆の世界が作り出す遊園地の風景に見入っていると、そのビジョンに突然、"黒点"のような違和感が現れたことに気が付いた。





「……ん? 」





 無人のまま回り続けるコーヒーカップと、メリーゴーラウンドに挟まれた通りに、コチラに視線を送る"2人"の人影を見つけた。





 ヤバイ! 





「須藤さんッ! 敵ですッ! 」





 ボクは、その"2人"から見られる"不気味な要素"を過剰に感じ取ったのか、とにかくこの屋台から早く離れないと危ない! と焦った。





「なにッ!? ってうわッ!! 」





 なのでボクは有無を言わさず、須藤さんの体に全力で飛びついて、屋台の外へと無理矢理押し出した。





 ドグアッシャァァァァァァァァッ!!!! 





 その判断は正解だった! 





 ボク達の背後には、コーンフレークのようにバラバラになった屋台。そしてその破片が、次々と僕達の背中をノックした。





「すまん! 助かったぜ! 」





 体勢を立て直した須藤さんは、その粉々になった屋台の土煙から浮かび上がる"敵"の姿を見て「んんッ!!? 」と眉をひそめた……





 そう! ボクも初見に全く同じ反応したからその気持ちが凄く分かる。





 だってその"2人"の敵は……両方共に紺色のスーツに、ワインレッドのネクタイをしめ、四角いフチのメガネを掛け……





「「クソッ! かわされたァーッ! 」」





 声も同時に発し、動作も鏡に映したかのように揃っていて、何もかも……





「「お前らは轢殺(ひっさつ)だ! 逃がさんッ! 逃がァーさんッ! 」」





 全く"同じ"だったからだ! 





■■【現在の死に残り人数 41人】■■




■■■自殺ランブルの能力紹介4■■■


【能力名】暴走王の孤独 (ランナーズハイ)

【能力者】??? / ???

【概要】

 道路・線路に飛び込み、自動車や電車によって轢かれて自殺した者に与えられる能力。体の一部分を硬質化させ、一直線に高速移動出来る。その体当たりはシンプルかつ強力で、攻撃だけでなく、回避にも使える。※さらに詳しい概要は、次回にて!!

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