で、でん

 こんな夢を見た。


 私を育てた夫婦の営む神社では、一風変わった呪いを行う。

 奥の座敷に、祭で使うような和太鼓が二台用意してあり、二人が息と拍子を合わせてで、でん! と叩けば、人はたちまち眠りについてしまう。まだ詳しいことを教わる年頃でもないのでよくは分からないが、何でも悩める人は眠っている合間に某かの教えを授かったり、困難を打ち破る術を得たりするのだという。

 ある日いつものようにで、でん、と太鼓が鳴った後、何気なく部屋を覗いてみると、畳の上に伏して寝ている両親二人が目に飛び込んできた。

 客人の姿はないし、呪いに失敗した様子もない。どうやら二人が何らかの目的で、自らに呪いを施したらしい。呪いについて詳しいことも分からないはずなのに、漠然と何らかの敵を打ち破る術を得るためだろうと何故かすぐに分かった。

 いつ起きるものだろうかと布団に並べて寝かせた二人の脇に座ってぼんやりとしていると、私にとって年の離れた兄か年の近い叔父のような立場の人と、恐らくは彼の息子だろう、私が弟のように可愛がっている子供も座敷に入ってきた。

 一通り子供と遊んだ後、叔父(と、ここでは呼んでおこう)に両親の様子と詳しい事情を聞くことになった。ところがいくら叔父が説明しようとしても、重要な部分だけが黒塗りでもされたかのようにノイズがはしってよく聞こえない。窓の向こうにある山にポツンと立つ、町内放送用のスピーカーが、叔父の説明を邪魔するように雑音を立てているからだ。

 何度試みてもうまく説明が出来ないと、叔父には申し訳なさそうな顔をされる。

 だが、関われば厄介なことだと悟っている私は、かまいませんよとニッコリ笑ったまま、町内放送のスピーカーから得体の知れない何かが此方の様子を伺っているのには気が付かない振りをしている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る