第6話アイを叫ぶ


「・・・ははっ!!はははははははははははっ!!!」


と少し言葉をためて


「やってくれたなぁ!「スキルス」の連中っ!!!!空間転移魔法!!!貴様ら程度の頭脳で作れたんだなあっ!!!」


エスキテルは激怒した

まさか最後の最後。両手足をもがれた鼠の喉元に牙をぷっくりと突き刺す最後の瞬間に永遠とも言えるお預けを食らってしまったからだ、もうあの鼠は一生自分の胃には入りはしない、そうエスキテルは突きつけられた。


全てを悟ったときエスキテルは冷静になった。

乗っている雷竜を狼の血を持つ勇敢な部下の龍に近づけこういった「部下に状況を知らせろ、恐らく混乱している者も多い」

静かな怒りに打ちひしがれながら彼は未だ支配者であり続けた。


ふとエスキテルは下の景色を一望する。


「なんだ。あのとてつもなく大きな国は城が幾つもある」


夜の上空から見た東京という町にエスキテルからは綺麗という感想しか出てこない・・・が


「しかし町民の「しつけ」が成っておらん、あのような呆けた顔では一時のときに・・・」


乗っている雷竜と自分の魔術属性「雷」を交互に共鳴させ巨大なカミナリを大きなビルに「討ちつけ」た。刹那の無音の後、酷い雷鳴と揺れが日本を襲った。


「ふう・・・一時のときに、脆い。」

そう他人事のように呟いた、そして叫ぶ


[・・・スキルスの虚弱共のせいで我らは帰る場所を失った!しかし!帰る場所などどこにでも作れるはずだ!我らなら!選ばれし我らなら!この国のもの共は我らを拒むだろう!なら我らのすることはただ一つ!たった一つ!希望の一つ!」


「・・・奪い取ることだぁああああああ!!!!」


「エスキテル様に続けぇえええ!!!」


誰かが一声揚げるとショウジョウのように空に浮かんでいた無数の竜に乗った尖兵たちが東京という「国」に向かって突進し日本国民という「民」に次々と槍と弓を投げ肉塊にしていく。


彼らには解らないこの世界、地球が広いことを。彼らには解らない自分たちの滅びの運命を。彼らには解らない、血と肉その残骸が生み出す悲しみも。





「早く滝本の所へ行くプリ!」

黙れ!判ってんだよ!僕は全速力で滝本の家に向かおうと家を飛び出す、先ほどのとてつもなく大きな雷鳴から遠くの人々の阿鼻叫喚の声が聞こえて来る


「まずい!!まずいまずいまずい!」


滝本!滝本滝本滝本!!!口と心臓で同じ言葉を連呼しながら逃げ惑う人とは逆方向に滝本の家に向かう


「どけ!どけどけ!!!お前ら邪魔だぁ!」こんなに焦っているのに、こんなに一生懸命なのに!なのになぜ僕は子供にぶつかるのを避けるように動いているのだろう!こんな名前も知らない子供どうなったっていいのに!邪魔なだけなのに!!!なぜ僕は滝本のことだけ考えられないんだ!!


こんな自分が嫌になる、そんな暇もないのに、


「もう少しで滝本の家だ!」

「確認したら速攻で公園に行くプリ!」


解っている、耳元で叫ぶな!!


ふと逆向している人ごみの中少し見知った顔が通る。


「滝本のお父さ・・・」

とつぶやく、しかし人混みがいなくなったところの数m先を見て頭が真っ白になる。


「滝・・・本・・・」


嘘だろ。


滝本は少し無理して笑っている。


嘘だろ。


少し足もフラフラだ。


嘘だろ。


脇腹あたりに結構な血のシミができていr


嘘だろっ!!!!


「滝本っ!!!」


滝本が倒れ・・・させない。僕が抱き起しそしてゆっくりと滝本の体を倒す


頭がすっからかんになる、しかし脳は鉛のように重たい。


「・・・ここまで来てくれたんだ・・・」


「当り前じゃないか、彼氏だもの」


僕の目に大量の涙があふれる。正直阿吽を殺すので精いっぱいだ。


「ちがうよ・・・今は私のお婿さん・・・」


「ああ、そうだ!僕らは結婚したんだったね!」


「・・・そう、まだまだやることいっぱいあるんだよ」


「ああ・・・やろう!僕らは若いんだ!出来るさ!」


「・・・私、夢がかなったよ」


「なんだい?」


「・・・家族を守ること」


ドクドクと血が、滝本の血が流れていく。続けて


「・・・今度は次の夢。」」


「カズト君あなたと・・・」


「・・・一生懸命生きる事・・・!」


「そう言って・・・!そんな卑怯なこと言うな・・・!もう・・・!忘れられない・・・!君しか愛せないよ僕はっ・・・!」


滝本の手に力がなくなった。


今日この世界で一番泣いた人は僕しか居ないんじゃないかと思えるくらい泣き、叫ぶ。


うっグウぅひっく・・・ひっくえぐっ・・・!!!


周りを見る暇がない


・・・っ・・・えぐっえぐっ・・・


妖精が大きな声で何かを発しているしかし聞こえない聞けない

うっぐうっぐ・・・っ!!


妖精の声が強制的に体中に響く。


「・・・聞け!カズト!生きろと言われただろう・・・!お前は!ここで死ぬな!!!」


聞こえなかった、聞けなかった。が、次の言葉はちゃんと聞けた。


「まだお前には彼女を救う方法があるっ・・・!アーリアでエスキテルを倒し、空間転移魔法を完成させこの未来が起きなかったことにすることがっ・・・!!出来るんだ・・・!!!」


「だから死ぬな・・・!」


出来る・・・訳ない・・

と呟きそうになる、しかし滝本が、だった物が、なくなっていく温もりが、僕に決心させていく


「嫌だ、こんな未来・・・僕は嫌だっ!!!!」


滝本の温もりが感じられなくなった・・・・


「でも一人だなんて・・・!君がいないと・・・!」


妖精が大きな声で言う、頭では解っている、あまりこの場にいると良くないのだろう。


「お前は滝本の死を認められるのか!?それで生きていけるのか!?何もやらずに終わる今のお前に未来のカズトは満足できるのかよぉ!!」


続けて


「お前がここであきらめたとして絶対に、永遠とも言える感情が残るだろう!それは「後悔」だ!その感情は並大抵のものではない!お前がたとえ仮に新しい大切な人を作ってもお前はその人のことを本気で愛せたりはしないさ!なぜなら!!お前がそれほど_____!!!」


僕は覚悟を決めた。


「僕が滝本のことを好きだからだぁぁぁあああああああああああああああ!!!!!」


僕は叫ぶ。叫んで叫んでのどか壊れるかと思うほど叫ぶ。妖精が何か満足したように笑う。


「・・・やってやるさっ・・・!!!俺は日本でも両親でもなんでもなく・・・滝本のために・・・そのために・・・2つの世界を救って見せる・・・!!」


そう言って敵陣のど真ん中で吠えた。




長くなって申し訳ない、これは僕が取られたものを全て奪い返す絶望と希望の物語だ。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る