序章 6 宴


「皆のものよく集まってくれた。数日前に2人のお客人がここを訪れた。そこにいる、クリスティア殿とメアリー殿だ」


紹介され精霊達の視線がクリスティア達に集中する

いきなり呼ばれてビックリしながらも軽く頭を下げるクリスティアにメアリー


「そこを森に迷い込んだ所をコタローが助けた。諸々事情を聞いた結果、明日は2人をコタローが送り届ける為にここを出る。場所からして直ぐには帰って来れんだろう。恐らく妨害なども入るとみておる。さらに先日また馬鹿な人間が召喚の儀式をしたと報告もあったしの・・・まぁコタローがいれば大丈夫だと思っておる。戦闘の感もしばらく経てば戻るだろう。見識を深めるいい機会だしのぅ」


実際は感ではないのだが、クリスティア達の手前こういう言い方をしたのは仕方ないだろう

転生できるのを知ってるのは精霊達だけだ

クリスティア達にバレても構わないが、必要以上に同様を与える必要もないだろうとの配慮だ

そもそも必要になれば狐太郎自身の口から話す方が良いだろうし

そして今の狐太郎はこの精霊の村をほとんど出たことがない

たまに街へ行ったとしても物を売りに行くだけで帰りは転移石で帰ってくるだけだ


「かくいうわしも若い頃は色々な国へ行ったり、召喚されて戦ったりとそれはそれは・・・」


長々と演説を始めるアムエル

途中何度かミルワースが服の裾を引っ張るが気づかない

周りはまた始まったかと言う顔をしていて半分は諦め顔だ

ちなみにクリスティアとメアリーはそんな長話にも真剣に聞き入っている

狐太郎は何とかしてくれと周りを見渡し、真顔のアグニスと目が合う

そして2人はニヤリと頷き合うとアグニスがやおらグラスを高く掲げ


「かんぱ~い!!」

『かんぱ~い!!!』


アグニスがでかい声でいい放つと、狐太郎もそれに続く

つられて雪崩の如くかんぱいと言葉が上がると一気に騒がしくなった

話を途中で切られたアムエルはアグニスに何やら喚きちらしているが、アグニスはわははと笑ったまま取り合わず他の料理人達と厨房へ引き上げていった

まだまだこれから料理は出てくるのだ

宴が終わるまで料理人に休息はない

召使い達もせわしなく動き回っている

憤慨していたアムエルもミルワースにたしなめられ座って飲み始める


いきなりの宴の始まりに呆然としていたクリスティアとメアリー達も我に帰り

食事を開始した

見たことない料理ばかりだが、好評のようでメアリーなんかはひたすら食べ続けている

そんな中、何人かの精霊が狐太郎達の所へお酌をしにくる

恐縮しながらも受けるクリスティア達はソフトドリンク、狐太郎は酒だった

この世界の飲酒できる年齢は15歳からである

といっても、強いお酒はもませてもらえず果実酒などの度数が低い酒に限るが・・・

狐太郎がそれを知っているのかは不明だが、飲んでる酒は果実酒などではなく度数の高い酒であった・・・

酌をしに来る中にはクリスティア達に贈り物をする精霊もいた

クリスティア達は断ることもできずに素直に礼をいって受け取っている

そこに倉庫番だったアスレーが酒瓶片手にやってきた

度数の高いドワーフ特有の火酒というやつだ

もう片方の手には果実ジュースの瓶だ


「よ、お疲れ。今日はめいいっぱい騒ぐんだろ?」

『と言うか、お前達のがかなり盛り上がってるように見えるぞ』

「みんな湿っぽいのは嫌いだからな。笑って送り出したいんだろ」

『別に今生の別れってわけでもないのに大げさだなー』

「誰かさんのせいでみんな人間臭くなっちまったからな」


ニヤリと笑いながらグラスに酒を注ぐとクリスティア達の方を向く


「アスレーといいます。明日からコタローをよろしくお願いします。迷惑かけないと思いますがこき使って構わないんで」


最初は真面目顔だったが、最後の方はしたり顔だ

そしてクリスティア達のグラスにに果実ジュースを注ぐ

見事に狐太郎に突っ込まれてるアスレーを見てクリスティアはとんでもないと手をブンブン振る


「私達だけならこの森から出ることすら難しいので物凄く助かります。迷惑だなんてとんでもないです」

『まぁ色々持ち出してるから何とかなるでしょ。しばらくの間よろしく』


とクリスティアと握手をする


「なるべく早く帰ってこいよな。じゃないと退屈で仕方ない」

『まぁ数ヶ月くらいかなー。何もなければだけどさ』

「やばくなったら召喚しろよ、今のお前なら俺なら数分くらいか」


と狐太郎の胸を小突きながらアスレーは他の仲間の所へ酒瓶を持って行った

まだまだ飲むのだろう

するとクリスティアがぽつりと呟いた


「羨ましいですね・・」

「クリスティア様・・・」


その言葉の意味を察したメアリーは沈痛な面持ちになる


『まぁなんだ、終わった後でも何かあれば来ればいい。恐らくフリーパスで来れるはずだから。事が終わったらまたどんちゃん騒ぎすりゃいいよ』


そんな狐太郎の言葉にクリスティアは笑顔を取り戻す


「そうですね。迷惑じゃなければまたお邪魔したいです」


ニッコリと笑うクリスティアにメアリーもつられて笑顔になる


「何だ、ここだけしんみりしてんじゃねぇか!!飲みが足りんなコタロー」


そういいながら会話に入ってきたのは料理を手に持ったアグニス

その料理をドンと狐太郎達の前へ置く


「これでも食べて元気だせ!!」


と出されたのは巨大な船盛と山盛りの天ぷら&揚げ物だ

船盛には季節を無視した色とりどりの魚の刺身

そして天ぷらは海物から山菜もふんだんに入っていた

揚げ物揚げ物でこちらも種類が豊富だ


「明日出るときにも持たせてやるからな」

「ほ、本当ですか!?」


そんなアグニスの声に反応したのはメアリーだった


「おう!気に入ったか?」

「はい!!物凄い美味しかったです。あ、でもワサビはちょっと・・・」

「わはは、んじゃこっちのショウガを溶いて入れるといい。ワサビと違ってツンとはこないからな」


そう言って差し出す生姜をメアリーは醤油に溶く

そして刺身をひと切れ生姜を溶いた醤油に付けて食べてみる


「お、おいしいです!!ワサビと違ってツンとはこないですけど、ピリッとくる口当たりがたまらないです」

「わはははは。そうかそうか、まだあるから遠慮しないで食えよ」

「見事に胃袋を捕まれましたわね」


とメアリーのはしゃぎっぷりに苦笑いのクリスティア

今後王宮の料理で満足できるのかが心配だ

それはクリスティアにも言えるのだが全て終わらせてからの話だ

頑張ろうと顔を引き締め天ぷらに手を伸ばす

食べると引き締めた顔が美味しさで弛緩する


「天ぷらも気に入ったか?今回は色々入ってるから楽しみながら食べてくれ」


顔に出たのを見られ若干赤らめながらクリスティアは小さく返事するのがやっとだった


「んじゃ俺は明日の仕込みが残ってるから行くわ」


じゃあなと席を立つアグニスに2人は礼を言うと右手をあげて答えた

アグニスを見送った狐太郎は揚げ物を自分の皿にゲットしていた


「あれ?それ天ぷらとちょっと違いますね?」

『うん、こっちも美味いんだ。こっちはレモンをかけて、こっちはソースをかけて食べる。あ、タルタルソースもいいな』


そんな狐太郎の説明を聞きながら2人ともちゃっかり自分の皿に揚げ物を確保している

メアリーは唐揚げにカニクリームコロッケ、クリスティアはチキン南蛮に春巻きだ


唐揚げは外はカリカリで噛めば肉汁がじゅわっと溢れてきて柔らかい

軽い塩コショウの味付けとニンニクが効いている

カニクリームコロッケは中はとろっとろでカニの風味と味を損なわない

チキン南蛮はそのままでも十分旨いが上にかけたタルタルソースがこれまた絶妙なハーモニーを醸し出していた

春巻きは皮は薄皮のパートフィロを使い具は

シンプルに鳥のササミと大葉にチーズ、少量の梅肉を入れていて油っこくなくサッパリ食べれる

クリスティア達は感動に内震えていた

メアリーなんかは涙を流しながら料理を食べている


『そんなに気に入ったなら、明日からの旅に用意してもらおうか?』


感動しまくる2人に若干引きながら聞くと2人は顔をぶんぶん縦に振る

口に詰めすぎて喋れないようだ

飲み込んだクリスティアがおずおずと尋ねる


「あの、よろしいのですか?」

『ああ、うん。構わないよ。ありったけ持っていこう』

「でも魔法の袋は食料の保存はできませんよね?大丈夫でしょうか」

『大丈夫、俺の袋は入れた物の時間は経過しないんだ。だから出来立ての料理を入れたら常に出来立てが食べれるんだ』

「えっ!?」

「ええぇ!!ずるいです。それならいつでも出来立てアツアツが食べれるじゃないですか。反則です~」


横からメアリーが口を挟んでくるがクリスティアの驚きは別だった


「時間が経過しない魔法の袋なんて初めて聞きました」

『たぶん1個しかないんじゃないかな。ちょっと特殊でね。後は俺しか使えない』

「なるほど・・便利ですね」


とクリスティアは関心しきりだ


『だから大丈夫なんだ。美味しい食事は元気の源だからね。あるだけ持っていこう』


しかし一部始終を見ていたアグニスの部下の料理人がアグニスにこっそり伝え翌日には山盛りの揚げ物が用意される事になる

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