閉じた光①

警報が鳴り響く館内で積み上がる死体を壁にして、互いに弾丸を1発でも多く叩き込もうと引き金を引き続け、双方弾薬が尽きた途端にナイフを抜いて飛び出す。

目の前の敵だけを見据えて飛び掛り、逆手持ちしたナイフを首に突き立て、太ももに突き立てられたナイフを抜き、隣の男の脊椎を削ぐ様に翻す。


そのまま崩れ落ちた男を蹴り飛ばした都子が前に躍り出て、死体を受け止めた特殊部隊員ごと叩き切る。

私の襟首を掴んだ都子は、曲がり角の奥に投げて、1人廊下に取り残される。


「みや……こ」


振り返った時には既に左足が無く、杖代わりにした刀だけで持ち堪えていた。


「行きなさい! ここは私の持ち場……絶対通さない、から。貴女は……鈴鹿のところに行って」


壁に引き寄せた都子は腕の中で笑い、弱々しい笑顔と声でそう言う。


「1人で死なせるか! 一緒にならあっちに行っても……」


「私には……私には、ウラノスから貰ったこの刀。お姉様から貰った髪飾り、鈴鹿から貰ったこの強さがある。だから、寂しくなんてないわ」


ふっと笑った都子の背後から黒い影が飛び出し、姿勢を低くしていた都子に銃口を向けたが、反転して振り回された刀が、腕ごと首を撥ね飛ばす。


「あぁぁぁぁ! 鬱陶しいのよ、早く行って。聖の血は妃奈子に繋いだから、私の一人娘を頼んだわ。貴女にはアメリカに対する役目がある、だから死んでも守るって全員で決めた事よ」


「なんだよあんたらは! 本当に勝手だよ、勝手過ぎて話になんね……」


「早く行きなさいよ……こんなみっともない姿、見せたくなんて……なかった、のよ。妃奈子の母親であれて、幸せ過ぎて緩んだこの顔は……母親である……私だけ……のもの、なんだから」


止まらなくなった涙を情けなく流し続けながら、私は刀を支えにしたまま動かなくなった都子を抱え、特殊部隊とは真逆の方向に走り出す。


「最前線防衛隊壊滅だ、都子も左足を失った。撤退中だ」


「……そう、残酷な事をしたわね。兵士としての死に場所を奪うなんて、いえ……良く私の妹を見捨てないでいてくれたわ。そのまま撤退を続けて、この管制室に死んでも辿り着いて。七凪! 都子を預かって来て、状況に応じてはその場で治療して」


通信を切ってすぐに現れた七凪は、腰の辺りから伸びた茨に都子を寝かせ、移動しながら治療を開始する。


「ありがとうございます、聖冬様からの伝言です。鈴鹿の方に向かってほしいとの事です」


「あぁ、言った通り死に場所はここにしないとな。死にそびれたら、ずっとずるずる引き摺って死にそびれちまう」


2手にわかれた廊下で七凪とは違う方向に走り、最も人が多く入る大広間に近付いていくと、戦闘の音が遠くからでも聞こえてくる。

聖冬からナビゲートを受けて抜け道を使うと、一瞬で大広間の壁に到着する。


目の前に広がるのはやはり大量の死体、最も優秀な鈴鹿隊と言えど、圧倒的な数の差で上回る特殊部隊が、半分より前に前進しかけていた。

それを阻止するマズルフラッシュは4つしかなく、私がもたもたしている内に1つが消える。


「チッ、ここまでだお前ら。聖冬を逃がせ、ここは私が引き受けた」


「……分かりました、お気を付けて」


「ははっ……これから死のうとしてるやつに向ける言葉かよ、まぁ簡単に死にはしねーよ」


「鈴鹿、私も加勢する」


走りながら結晶のような物の後ろに身を隠し、友希那から貰った銃を構える。シールドと人工的な壁を作った特殊部隊が顔を出し、RPGを5つ同時に発射する。


足下に銃を置いたままの鈴鹿が手を振ると、突如として小さな結晶が現れ、全て叩き落とす。


「そんなの出来るなら、あいつら一気に出来ないのか」


「残念だけど、私は混ざりものなんだ。こっちが本当の力じゃない、慣れないものは無理だ」


「なら本来の力でやれよ! 都子が倒れたんだ、悠長にやってる場合じゃ……」


「反物質だ、1グラムで広島原子爆弾の3倍弱の威力が出る。これで後詰の連中もろとも私は自爆する、この施設に入り切るまで削ってるだけだ。黙って殺し続けろ、引けと言ったら速やかに消えろ」


何故この人数でこの大きな入口を守れていたのか、不思議でならなかったが、前進しようとしては正確に頭を撃ち抜かれて倒れる特殊部隊を見ると、それが納得出来た。

秋奈の援護が最終ラインを支え、見えない自動砲台からの発砲で、敵の全容が把握出来ていないなら、死人を出したくない組織は迂闊に突っ込めない。


それを逆手に取った対人戦闘は鈴鹿の得意分野なのだろう。


「もう良いぞ秋奈、後詰が一気に雪崩込んでくる。どうやら業を煮やしたらしい、最後まで報告ありがとな友希那」


「鈴鹿さん、凛凪さんがダウンしました。お母さんも……もう……」


「もう良い友希那見るな、目を閉じろ。空の力を使うな、エイルはティオの回収を最優先しろ。私に構うな、邪魔だ」


壊されていく建物の中、苛立ちを隠せない鈴鹿は私を突き飛ばし、結晶で押し返す様にして壁を作る。

少しだけ見えた鈴鹿の姿は、純白の髪を靡かせ、猫のような耳が生えているようにも見えた。


「待てよ! 鈴鹿!」

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