何かを今救えるのなら④

アメリカが生み出した三生命との戦闘が開始してから5時間、既に限界を迎えた聖冬たちは肩で大きく呼吸をしているが、ドルカスたちは何一つ辛そうな表情を見せない。

それも攻撃の威力は全く衰えず、複数でやっと1人の攻撃を相殺出来る程に、苦しい戦いとなっている。


「どうした、もう限界か。所詮Phantom Princessと言えど、人であったな」


中央に立つドルカスが嘲笑うように擬似特殊武装を展開し、巨大な結晶の塊を聖冬たちの頭上から落とす。


「クソッ、ウラノスから貰った特殊武装なのに、なんで私の意志じゃ展開しないんだよ!」


「所詮その程度、それだけだエイル。お前には器が無かった、ただそれだ……」


「ふーん、あんたBIOSだったの。初期型と比べて随分人間らしくなって……反吐が出るわ」


「おーおーおー、これは見れば見る程人間だな。昔は肉塊の臭いデカブツだったのにな」


BIOSとの間に立ったアンジュとGz9の妨害により、私の心を縛り付けようとしていた言葉が遮られ、頬を掠めて背後から飛来した弾丸が、BIOSの胸に突き刺さる。

それを合図として飛び出した前の2人は、ビルを足下から崩して崩落させる。


「何やって……」


「良いから黙って見てな、私らは勝つ為なら何でもする。特に余裕の無い相手ほどな」


瓦礫の中に呑まれるウラノスや都子や友希那を見失い、アンジュに抱えられて瓦礫の山から逃れる。

着地した瞬間アンジュの足がガクッと崩れ、宙を一瞬舞ったと思うと、いつの間にかGz9の腕の中に抱かれていた。


反転したアンジュはディストーションを展開して細かな結晶の雨を防ぎ、手を2回振って先に行けと合図をする。


「3人は無理だ、あいつらはアメリカの軍に匹敵するんだぞ。そんな体じゃ2秒も……」


「1人じゃないって言ったら?」


「1人じゃないよ母さん」


「私たちが居るもんママ」


「セイ、リーリエ、今からは死ぬ覚悟をして。一瞬でも油断をしたら確実に殺されるから」


そう聞いて真面目に目の前の3人と向き合った2人は、少し笑みを浮かべてから素手で構える。

そこにウラノスと友希那と都子を、無理矢理抱えて瓦礫の中から姿を現したティエオラが加わり、空に離脱していた聖冬と鈴鹿が降りて来る。


「僕の家族に傷を付けたんだ、肉片になっても君を許さないよ」


「たかが2人増えただけで何が変わる、生ある貴様らは心臓を一突きだが、我らを倒すには神でなければ難しいだろうな」


「その神が僕だ、そして僕の子である友希那、笑夢、心桜が受け継ぎ続けるさ」


「貴様らが至らずとも、子がやってくれると言う事か。愚かだな、子に重き使命を背負わせるとは」


「だから今ここで叩き潰すんでしょティオ、貴女に協力するなんて癪で不愉快だけど、ここで燃え尽きるまで走り続けられる自信はあるわ」


「聖冬……君にはあまり良い思い出が無いけど、僕の空を守り続けた事、それだけなら感謝しても良いかもしれない」


背丈に似合わぬ大剣を捨てたティエオラは、ずっとしていた髪飾りを初めて外し、それを握りしめてなにかに祈る。

その瞬間に空気が突然一変し、息をする事も気を抜いたら忘れてしまう程に、圧倒的に美しい花を全身に纏う。


「君たち人工生命はテクノロジーで出来たものを無効化する、でも僕は化学やテクノロジーではどうしようもない」


「確かに何の詳細も表示はされんが、そんな植物如きで何も変わらぬであろう」


「……それがね、そうでもないんだ、私にとってはね」


今まで全ての攻撃を弾いていたドルカスに突き刺さった空は、ぼろぼろになった愛する者に微笑みかけ、消えると同時に頭上に広がる空がぱらぱらと崩れ始める。

ウラノスを弾き飛ばそうと腕を振りまわしたドルカスだったが、ふわふわと踊る様に潜り抜けたウラノスが、ティエオラのお腹に顔を埋める。


「僕も聖冬も立ってるのがやっとだったから助かったよ、そろそろ世代交代なんだね。じゃあね愛する子たち……なに、泣く程でもないよ、100万年の曇り空ってだけさ」


「何を言ってくれるんだティオ、君は友希那たちを上手く笑える様な人に育てるんだよ。私が消える痛みは愛する子たちと君が笑うための辻褄だよ、行って来ます」


ティエオラの肩をトンと押したウラノスは踵を返し、Gz9の腕の中から私を奪い、見えない壁を叩くティエオラに手を振る。


「君に質問をするよエイルちゃん。まだ迷っているんだよね、こっちに付くかアメリカに残るか。勝つ方にまた行こうって事かな?」


「……正直迷ってるよ、私は死にたくないんだ。ミツェオラには拾われた恩もあるけど、お前たちには色んなもんを貰ったし、色んなもんを教えて貰った。すげぇ迷ってるよ」


BIOSとクローチェの猛攻をモロに食らった瞬間に空から天板が落ちるように青が抜け、時間が無い事が目に見えて分かる。


「ならよ……もしも私が許されるならなんて考えてる私をよ、どうか叱ってやってくれないか?」


「……友希那は赦してくれるよ、何故ならば私の子だからね。それまで頑張って生きなよ、それでもダメだと思ったら私と同じ道を選ぶ事も……いや、これは言わないよ」


私の背中を押して壁の外に出した後にティエオラを壁の中に入れて、唇に口付けをしてからまた押し戻す。

それで動きを止めたティエオラの目の前で、ウラノスは三生命を掴んで空に落ち、青が無くなった無に還る。

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