Reloaded①

マンションから車を走らせて10分、自動で運転される車はこんな時でも安全運転を続け、私たちを施設の前に送り届ける。

JBと殆ど同時に車から降りて入口から受付を通過して、少し広い個室に入る。


「ASCとConnectして、武器は架空弾を使うからマガジンは空に。早速だけど始めるから、カウント、drei、zwei、eins」


その声を最後に3次元から五感が遮断され、完全にテクノロジーが構築した仮想世界に入り込む。

手の中にあるHK416をしっかりと握りしめ、開始するまで視覚が遮られている為前は見えないが、JBの声が耳の通信機から届き、開始の合図と共に、視界制限が解除される。


街の中だろうと予想して飛び出そうとしたが、そこは万能航空機のikarugaの中で、他にも多数のPhantomが待機していた。

あまりに意表を突く景色に戸惑っていると、隣に居た男が近付いて来る。


「これはびっくりだね、てっきりPhantom Princessの防衛で、1000人くらいの軍人に囲まれてるかと思ったよ」


「そりゃ間違い無く即死だ。まぁ、確かに私も街の中だと思ってたからよ。拍子抜けっつーか」


「お喋りはそこまでだクソ蛆虫共! これから人を殺すと自覚しているのか、その覚悟が無いクソみたいな考えなら今すぐ飛び降りろ! 返事は?」


「はい!」


突然声を荒げた女性に敬礼したPhantomに合わせて、何となく敬礼をしてじっとする。

反勝手に応した体に力を入れて自然体に戻し、前の男の背中に隠れる。


「おいそこの女! こっちに来い」


「何で……」


「蛆虫に発言を許した覚えは無い! とっとと出て来いクソヘタレ野郎!」


流石に何もされていないのにこんなに言われるのは納得いかず、言い返そうとPhantomの間をすり抜けて前に出る。


「お前が誰か知らねえけどよ、きちんと立場を示してからものを言えよ」


「ほぅ、なら再教育してやろうクソ虫。私を地面に伏せてみろ!」


「上等だクソが!」


「これよりoperation【Reloaded】を開始する、覚悟を決めろ! 気を抜けば掃き溜めに溜まる事になるぞ!」


再び大声を上げた女に殴り掛かって拳を降るが、腕を掴まれて投げ飛ばされ、開き始めていたハッチの隙間から空に落ちる。

全身が落ちる前に女の顔を睨むと、真剣な顔をして私を睨み返していた。


「クソ、なんなんだよ。結局この程度かよ!」


自分の土俵に引きずり込む前に容易く投げ飛ばされ、機体から完全に全身が離れて空に投げ出される。


「えっ、作業の合間に覗いてみたらカミラが居るなんて。機嫌を損ねたら甘いものでも奢ってあげなさい、それで大抵は解決するから」


「今そんな事は良いんだよ、この状況が解決出来る事言ってくれよ!」


「そうね、それも含めて訓練だから、自分で頑張って」


警報を鳴らすASCを黙らせてから検索すると、ユニットが画面に出てきて、ゆっくりと意味不明な文字を打ち始める。


「んな時に何してんだよ」


「ウラノスコードを使用する為には、私をセーブモードから解除する必要があります」


「何だよウラノスコードって、何でも良いから助けてくれ!」


「その為には、私のセーブ……」


「分かった分かった、解除するから早く!」


「承認。これより本データを取得する為に、2秒ほど頂きます。インストール完了、これより仮プログラムから、正規プログラムに変更致します」


のんびりとプログラムが分解して光となって消えると、また新しい粒子が集まって、再構築が始まる。

ASCに表示された地上との距離は1000を指していて、一刻の猶予も無い状態にまでなっていた。


「どーも! はいはいはいお久し振りでーす、私を呼んだのは誰だ? 史上最強のエージェントか、美女か、ローマか? って誰?」


「お前こそ誰だよ……てか助けろよ!」


「もー、元気な人ですねー。アンジュも最近相手にしてくれないし、モチベ底辺なんですよねー」


「知るか! ウラノスコードってやつで助けてくれるんじゃないのか?」


「あー、あれ聖冬さんでも10秒は掛かる程桁が多いんですよ。超高度AIの次世代型呼ばれるELIZAちゃんでも1分は掛かりますねー、そんな時間掛けてたら地面にドーンやないかーい! うはははは!」


「なら何で出てきた! ノリうぜぇしお前」


馬鹿みたいに笑い転げている自称超高度AIに叫ぶと、清々しいような顔をして、「楽しかったぜ」とカッコつけている。

正直先にこいつを打ってやりたいが、それをするには自分の目をぶち抜かなければいけない。


「まぁ、あれなら間に合いますね」


「ならそれで良い、わざわざ間に合わないやつやっても意味無いだろ!」


「お客さん、あれをやるんですかい」


「うっせ早くやれ、そろそろ落ちる。もう400じゃねーかクソ、間に合わねえぞ。離脱理由が仲間にやられたって恥ずかしいじゃ済まねえからな!」


「あーはいはい、やりゃ良いんでしょやりゃ。文句が多い生娘だなー」


「何で私が悪いみたいに……だ、誰が生娘だ、やったことくらいあるわバーカ」


「こっちに体のデータあるんで、そんな意地張らなくて良いですよ。くっふふふふ、これは失礼。笑う気は無かったんですが、我慢出来なくてつい」


「てめぇ絶対殺す、猫被りクソ野郎が」


「はいはい、ウラノスコード展開。簡単なやつだから痛いかもしれないですねー、てか痛いっすよ」


地面が目前まで迫ったところで完成したらしく、私はいつの間にか地上に普通に立っていて、特に痛くも何ともなかった。

と思っていたが、突然腰に激痛が走り、地面に座り込む。


「いやー、5秒だけ腰痛に襲われますからねー。突然の転移はそうなります、更に簡単なコードだからねー」


「クソ……まぁ作戦は続行出来るし、他のやつより早く着けたんだ。勝手に1人で終わらせてやる」


「ファイトー、私は寝るぜ☆」


「勝手にしてろ、てか出てけ」


「もう。私とあなたの間柄じ……」


「分かってんだろ、洒落になんてならねーぞ」


不貞腐れた顔で視界をうろうろした後、結局何も言わずに消えてしまった。

やっと集中出来る環境が出来たと気合を入れると、早速遠くから銃声が聞こえ、足下に銃弾が突き刺さる。

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