菊の紋①

機体から荷物を降ろしている途中、友希那に怒られて半泣きになった斑鳩が、空いていた箱の中で膝を抱えている。

暫く様子を見ていると、同じくそれに気付いた友希那が箱に歩く。


「ねぇ、そんな事してるなら手伝って。色々と多いから」


「私は重い物を持てないぞ」


「なら私と来て、妃奈子と陛下に挨拶しに行くから。失礼の無いようにね、それに聖冬さんたちももう着いてるから、遅くなったら悪いし」


「そんなの心配要らないよ、こういう場なら私の方が慣れてるからね。聖冬に次の命令を仰ぎに行こう」


スキップしながら建物に入った斑鳩の後に続き、妃奈子と友希那が相変わらず手を繋ぎながら建物に消える。

周りを見回すと、皆荷降ろしに忙しいらしく、誰も私の方を見ていなかった。


見つからない内に斑鳩たちが消えた建物に入ると、建物の中は外見より遥かに広い。

異空間に飛ばされたみたいに広がった建物の中を歩いていると、突然体が浮いて地面に背中から叩き付けられ、跨った女性に銃を向けられる。


「初めましてだな、お前は誰だ」


息苦しくなる程の気迫が溢れ出ている女性は、人の皮を被った殺意の塊みたいに突然現れた。

一瞬の出来事に何も出来ないで居ると、いつの間にか隣に立っていた斑鳩が、私を跨いでいる女性の襟首を掴む。


「遅刻してるから探しに来たよ鈴鹿、あまり陛下を待たせちゃ悪いだろう。その子はアメリカの新たな火種なんだから丁重に扱ってくれ」


「んだよ、侵入者かと思って損した。これからは怪しい動きをするなよ、きょろきょろ見回し過ぎてて挙動不審だ」


「君は最近手が早くなったね」


「聖冬がこの建物に居るなら当然だ、聖冬に仇なすなら議論は必要無い」


斑鳩の手を払い除けた鈴鹿は、持っていた銃のマガジンを出して、弾が入っていないのを見せる。


「ごめんねエイルちゃん、君もリーダーなんだし来てもらおっかな。今後の作戦会議にね」


私の方に振り返った斑鳩が出した手を恐る恐る掴むと、先に歩いていった鈴鹿を追い掛けて小走りで隣に並ぶ。


「待ってよ鈴鹿、迎えに来たんだから一緒に行こうよ」


「お前みたいな美人が来てくれるのは嬉しいがな、元は男なんだからなお前」


「今は女だよ、だから多少のキツいスキンシップなら許されるのさ」


「キツイのか多少なのか選べよ、ほらもう着くぞ。手を離せ、いつまで繋いでる」


ぱっと手を離した斑鳩がドアを開けると、広い部屋の中心に聖冬たちが座っており、真ん中の奥の立派な椅子に、ドアが悪音にびっくりした少女が座っている。


「鈴鹿見付けたよ、ついでに奴隷のリーダーさんにも付いてきてもらったし。揃った事だし早速始めようか」


椅子の前に立ってからストンと座った斑鳩の隣の椅子に、鈴鹿が座って、その隣の空いていて席に私も座る。

玉座の様な椅子に座っていた少女が、恐らくここに居る全員を招集した、天皇陛下と言う人物なのだろう。


「起立、陛下に敬礼」


全員がスっと立ち上がり、敬礼をしたのを見て遅れて付いていき、また椅子に座る。


「で、では……現状況の解析と、今後の方針等についての会議を始めます」


「早速ですが陛下、私からよろしいでしょうか」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る