ここから歩き出す③

労働の時刻になっていつも通り銃の射撃試験をしていると、隣に来たドレイクが小さな声で話し掛けてくる。


「何か変な夢を見てさ、放送局と監獄を俺たちが襲ってさ。見知らぬ美人に変なところに連れてかれたんだ」


「私も同じだ、ファンプリの妃奈子と友希那、伝説のエージェントM029にあったんだぜ」


「んな馬鹿みたいに羨ましい夢見てたのかよ、俺はファンプリの生みの親の聖冬を見たぜ」


「何だよそれ、聖冬ってめちゃくちゃ有名人じゃねえか。世界でまたシングルが一位なんだろ?」


「おぉ、八年連続シングルが一位だ。一時的には一位から五位まで独占してたぜ」


「ファンプリの作詞作曲者って美人だったか? おっと見回りだ」


定期的に回ってくる定期ロボットの目を誤魔化すために射撃を再開し、撃ち切っていないマガジンから弾を戻してリロードする。

ドレイクも銃の調子を確かめる様に身を低くし、私の足下に何かを投げる。


それを足で踏んで隠し、試射し終わった銃を持って足の下の箱を拾う。

昼休憩になって昨日の夢で見たメッセージを思い出して、アークロイヤルに火を点けようとした手を止める。


指定通り製造棟の裏に行ってみるが、そこに人は居なかった。

やる気が失せてアークロイヤルを一本取り出すと、目の前の倉庫の屋根から影が落ちる。


地面に落ちた影が立ち上がると、黒色のコートを靡かせながら何者かがフードを頭から外す。

銀が虚空に離され、一本一本が流れる様に落ち、柔らかな笑顔は聖母の様に温かい。


「友希那に運ばれてた盲目ドジじゃねぇか」


「覚え方が酷いな君は、それに今は見えてるんだよ。ねぇアルテマ」


「そうだね、はいはい話を始めようか」


いつの間にか隣の壁に持たれていた小さな少女は、盲目ドジと同じコートを羽織っている。

肩にはPhantomと刺繍がされているが、それが何を意味するのかが分からない。


目の前に並んだ二人を見ていると、ASCに突然Phantom Princessが映し出される。

そこは少し前まで使われていた空母の甲板の上で、今は軍港より少し離れた島に放置されていた旧ホーネットだった。


「反抗の意思がある者たちには、他のPhantomが今の君の状況みたいに話をつけている、この施設を制圧してアメリカの武器供給を一つ押える。ASCはハッキングして爆発しないから安心してくれて良いよ」


「そういう事だから、このまま聞かなかった事にも出来るけど。ライブが始まる前に決め……」


「やってやる、もううんざりだからなこんな世界。何をしても否定されるくらいなら、あんたらに付いてって好き勝手させてもらうぜ」


「交渉成立だ、友希那が君に渡したHK416だ。大事に使ってやれよ」


差し出されたケースを受け取ってHK416を取り出し、工場の管制塔向かって走る。

各所から武装した奴隷が同じ様に管制塔を目指し、敵対行動と認識して迎撃を始める巡回ロボットを壊して進む。


奴隷の先頭を維持し続けて管制塔を駆け上がり、唯一アメリカの公務員が管理している管制室のドアを蹴破る。

応戦しようと拳銃を構えた銃の素人を片付け、一人を残して全員を撃ち殺す。


「こっちは試射を何年やってると思ってんだよ、お陰で殆ど外せねえ体になっちまったぜ」


この時代で公務員と言う勝ち組の肥えた腹に銃口を押し付けると、耳に不快な声を上げて助けを乞う。


「何が欲しい、金か? それとも私の邸宅での給仕か? 環境のかいぜ……」


「私らを人間にしてくれよ、奴隷とか言う使い捨てじゃなくてよぉ」


「お、お前ら如きがテロをしたってこの国には叶わない。必ずお前たちは制府に掃討される」


「これから死ぬやつの台詞っぽくて良いな、こんな状況を想像して練習してたのか? だとしたら礼をしなくちゃな」


顔を蹴り飛ばして地面に転がし、床に頭を付いて伸びた男の顔を狙って膝から落ちる。

完璧に入って失神した男を同僚に渡して、管制室から廊下に出る。

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